第45話 復活した邪神と、復活した悪しき風習
「解析:悲しい感情……リエラ、ひどいこと、された……けど、ルシアンが、いた。よかった」
無機質な声のまま、コアちゃんがリエラの服の裾をぎゅっと握る。
感情を学ぼうとしている彼女なりの、精一杯の慰めなのだろう。
「結論:だけどやっぱり、ルシアンは、じゃしん」
「(いや、今のいい話の流れでそうなる!?)」
「結論:……あったかい、じゃしん」
「(――コアちゃんっ!)」
一応言っておくが、俺は人間だ。
「ふふふ、そうね。『もう誰にも傷つけさせん』とか言いながら……100年も待たせる、悪い邪神よね」
「同意:わたしもひどいめに……ぶくぶく……」
「あら? こんなかわいい子まで……ルシアン様ったら……」
「(多分リエラが思ってる1兆倍はひどいことだったけどね……)」
俺も学んだ。
今度から実験の時は事前に説明しようと思う。
「さて……本当は私も行こうかと思ったのだけど、やめておきます」
「む?」
実はリエラを誘うつもりだったのだ。久しぶりの里帰りでもどうかと思って。
だが……それも見透かした上での返事だな。
過去を振り返ったことで整理がついたのだろう。
「私はミュリエラ。あの里とはもう何の関係もない、ただあなたの女。まだ抱かれてないけど……」
「……そうか。それならそれでいい」
「(聞こえたよね? 最後の呟き聞こえたよね!? 許さないけど、無視するのもどうかと思うよ!)」
ここにも複雑な感情があるぞ、コアちゃん。
「(その名も乙女心――やかましいわ!)」
「(なら心を読んで突っ込むな)」
それから少し談笑した後、すっきりした顔のミュリエラに見送られて宿に向かった。
◇◇◇◇◇◇
――数日後。
「懐かしいな」
「何だか暗い森ですね」
ユリエナの故郷であるエルフの里、その森の入口にて彼女を待つ。
「ふむ……確かに瘴気を感じるぞ! しかし……」
マールにとっても馴染みの深い瘴気。
確かに感じられるが、明らかに“弱い”。
「推論:これはじゃしんじゃない? じゃしんといっても、ルシアンじゃない」
「わかってるから。いや……邪神の気配は感じるんだがな……」
邪神ではあると思われるが、普段のに比べると非常に弱い。
かつての“左足”と同じ魔力波形は感じるが……まるで『使い古した残滓』か、『誰かの記憶を具現化』させた紛い物のようだ。
「ルシアン殿、お待たせしました」
森の様子を観察していると、その奥からユリエナがやってきた。
今回は最初から美しい女性の姿である。
彼女に連れられ、森を進みながら改めて状況を聞く。
「実は……ルシアン殿が訪れたことのある里、それとは別にもう1つ里がありまして……」
「ん? 昔はなかったと思ったが」
「はい。元々の村『カツテナ』とは袂を分けた新しい村『ユリエル』ができたのです」
「その名は……」
「はい。生贄の風習を忘れず、同じ過ちは繰り返さないようにとの思いで、若い者たち中心で立ち上げた村です。私が一応族長の立場にあります」
贖罪のつもりか知らないが――いや、当時幼かったユリエナにそれを求めても仕方がないか。
「しかし大丈夫か? 確かあの村は古いとはいえ結界に守られていた。新しい村にも結界が?」
「はい、『カツテナ』にある里の秘宝。それには頼らず……というか頼れず、自分たちの力だけで何とかやってきたのですが……邪神が復活して……」
ああ、ブルーセルミのときに『おもちゃ』に格下げされたやつか。
若者が頑張ってるところに、邪神の奴め。
「あの時いただいた魔道具を活用させていただいていますし、喫緊の問題ではないのですが……」
「まあそれでも限度はあるからな」
「はい……」
あの魔道具をユリエナ達だけで独占したわけでもないだろうし。
「ではもう1度邪神を倒せ、と言うことだな」
「いえ……そうしてもらえるのが1番かも知れませんが……」
「ん?」
なにやら歯切れが悪い。
海底で邪神を倒したのを見て、ここでもそれを頼もうとしたのかと思ったのだが。
「……実は、再び……」
「(あ、これ嫌な予感するわ)」
同じく。
「……『カツテナ』の老人たちが、生贄を要求してきまして……」
「(ほーら)」
「……相変わらずだな」
本当に、救いようがないと言うかなんというか。
「結論:むいみ」
「そうだぞ! 結界に必要以上に魔力を注いでも、ちょっと頑丈になるだけだ!」
「許せませんね……!」
普通の感性をしていたらそうなる。
しかもマールが言うように、生贄は邪神に捧げるものではなく、あくまで結界の魔力補充用にしかならない。
「生贄が必要など、迷信でしかないじゃないか」
「その通りなのですが、特にご老人方はその迷信を大事にしているのです……」
「そういうもんか。ならば老人たちの中から誰かをたてればいいのでは?」
「……若い者の方が効果的、と言うことで……」
ああ、ようやくわかった。
なぜ最初に里が2つあることを話したのか。
「(里の対立、それに駆り出されたわけだ)」
「(つまり、迷信好きのおじいさんたちを『どうにかして!』ってことね!)」
めんどくさい以外の言葉が見つからない。
「はっきり言うが、めんどくさい。俺には関係ない。ついでに言えば、お前の姉のミュリエラと里も既に関係ない」
「……ですよね」
だが、まあ仕方がない。
「……お前がミュリエラの妹でなければ帰っているところだ」
「ありがとう、ございます……ルシアン殿」
こうなれば里の秘宝とやらはやはりいただくか。
『カツテナ』の老人を根絶やしにするのなら必要がないだろう。
「……着きました。ここが『カツテナ』です」
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