第43話 海の神と、森の至宝
聖獣となった深淵の鯨に乗ってブルースフィアへと向かう俺たち。
仄かに光っていて鬱陶しい。
「疑問:せいじゅうとは」
「瘴気と真逆の性質の波動を放つモンスターだ。要は周囲を浄化したり清浄に保つ」
「考察:『個体名:アビちゃん』は、マールのちょうちょとおなじ?」
「よく気が付いたな。その通りだ」
マールの巫女服に縫い付けられた蝶。その糸は俺特製の聖なる糸だ。
それはいいのだが、またも“『ちゃん』ちゃん”の犠牲者が出てしまったか。
「そうだったのか!」
「何だマール、てっきりお前のことだから解析しているのかと思ったぞ」
「しばらく考えてわからなかったから、『どうせルシアンだしな』と思ったのだ!」
魔術師のくせに……考えることを放棄したら終わりだぞ。
「その……アビちゃん様はこの後どうなさるので? 私としては聖獣様をおざなりに扱っていただきたくはないのですが……」
エルフであるユリエナ。彼女たちの種族は森や自然と共に生きる。聖獣もまた彼女らの信仰対象なのだろう。
「俺からは特に何も……」
「(……であれば、以前の我の影響でカース化した生き物を正常の者にして回りたいと思う)」
「できるのか?」
「(可能かと。我の中に満ちる力の声を聴く限りでは……)」
以前カース種のモンスターに聖の波動をぶつけたら消滅した。
だからそういうものだと思っていたのだが……まだまだこの世界は謎に満ちているな。
「あ、見えましたよ! ブルースフィアです!」
出発から数時間、なかなかの速さだ。
ブルースフィアの前には何だか知らないが、人が大勢集まっている。
「この聖なる波動は……聖獣様か!?」
「せ、聖獣様だ! 海底の聖獣様だ!」
どうやら遠くからでも見える光の正体を確かめるために待ち構えていたようだ。
そして真っ先に声を上げたのは……人間に偽装している、ユリエナの仲間たちだな。
さすがエルフ、人間よりも聖の波動には敏感らしい。
「(え? 性の波動?)」
「(お姉さんと言うより、おっさんだな)」
「(……くっ!)」
今のはミラが悪い。
「聖獣……様? 聖獣様だって!?」
「カース・モンスターに脅かされる我らを救いに来てくださったんだ!」
「聖獣様! 神々しい……!」
「聖獣様! どうか我々をお救いください!」
ケガを押してここまで来た彼らの顔はどれも必死な様子で、どれほど辛い状況だったのかが見て取れる。
ならばここは新米聖獣に一肌脱いでもらおう。
「ほれ、初めての仕事だ。あの者らを安心させろ」
「(人の賢者よ……汝の指示はあいまいでいかん)」
ミラの『どうにかして!』よりはマシだと思う。
「(……聞け、あまねく海に生きる人の子らよ。汝らを脅かす元凶、邪神の一部は――このお方、ルシアン様が葬り去った)」
「おい!」
「(未だに残る邪神の落とし子は、ルシアン様の眷属として我が責任をもって浄化しよう)」
「おい黙れ!」
どうやらこのクジラの念話、他の人々にも伝わっているらしい。
『ルシアン様……?』『あの人……Fランクの冒険者って言ってた!』『聖獣を使役……まさか神!?』などと言いながら、こちらに手を振っている。
見たことのある奴がいると思ったら、ギルド受付嬢のオンディーナだ。
『私お腹にあの人との赤ちゃんがいるの!』とか言ってるが……事実無根である。
「否定:ルシアンは、じゃしん」
「おい……」
「……けど、ときどきあったかくて……『ほっ』てなる」
「……ふん」
人は温もりを求める生き物である。
俺の平熱35℃は一般的には低めと言われているが、それでも温かいには違いない。
今も俺の頭にしがみついていることで、その温もりを感じているのだろう。
「(必死に照れ隠ししてるところ悪いんだけど、人って好きな人を抱きしめると『愛情ホルモン』が分泌されるんだってさ)」
「(…………)」
「(ルシアンといると、『ほっ』とするんだってさ!)」
「(…………)」
何を言ってるか……。
「解析:体温の上昇を確認……ルシアンがまた、あったかくなった」
「2度と俺を解析するな」
「懇願:やだ」
「だからそれは『懇願』じゃないと……まあいい。おいクジラ、面倒だからこのまま地上まで送れ」
非常に不愉快である。
肩の毛玉もそうだが、マールもアイリスも……それどころかユリエナまでもがニヤニヤしている。
「(着いたぞ、照れやな賢者よ。ふふふ)」
「(……ご苦労)」
仕返しとばかりに強く蹴りつけながら、地上へと飛び降りる。
「(また会おう、海の救世主たちよ。コアちゃん様、どうぞお元気で。そして賢者の照れ隠しの蹴り、実に心地よかったぞ)」
「肯定:げんき」
「アビちゃん様、ありがとうございました!」
「くれぐれも巨大ダイオウイカには気を付けろよ!」
最後にアビちゃんが別れを告げるように、盛大に潮を吹いてそのまま沈んでいった。
やれやれだ。2度と会うものか。
「……ルシアン様、この度は我が同胞を救ってくださり――」
「いい加減本当のことを言え」
未だに人間の男に偽装しているユリエナ。
彼女の――エルフたちには別の目的があることには気が付いている。
「……やはり、あなたにはお見通しですね」
そう言って、いよいよ変身を解いた彼女。
夜の潮風に長い金髪がなびき、月光に透けるような白い肌が露わになる。
そこに立っていたのは――
「お久しぶりです、ルシアン殿」
俺のよく知るエルフ、リエラ――ミュリエラに瓜二つの姿をした女性だった。
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20時10分頃
となります!




