第41話 星になったヒトデと、闇を吐くクジラ
ブルースフィアに辿り着いてから1週間ほど。
その間はずっとカース種を倒しつつ、アイリスの水中ジャンプの練習をしていた。
「なかなかコツが掴めたようだな」
「はい! もう猛スピードで吹っ飛ぶことはないと思います!」
その胸は常にロケットだが。
「(きもっ!)」
「(…………)」
思考することは罪ではないはずだ。勝手に思考を読むことは問題ないのだろうか。
「考察:ひとは、おなじあやまちをくりかえす」
「言ってやるな。結構落ち込んでたんだから」
国を滅ぼしかけた当日は、一晩中部屋の隅で膝を抱えていたらしい。
『特訓に付き合うから』と伝え……そしてようやく吹っ切れたようだ。
ちなみに、コアちゃんも随分元気になったようで、通常運転に戻ったと思われる。
未だに頭にしがみついているが。
「ルシアン殿! 調子はいかがですか?」
未だに人間の男に擬態しているユリエナが狩りから戻ったようで、数人の仲間と共にこちらにやってきた。
「ユリエナか。ボチボチいい感じだな。そちらは?」
「相変わらずです。カース種の数が多い……ですがそろそろ他の仲間が集まってくる頃かと思いますので、ここらで一網打尽にして見せます!」
他の仲間というと、地上のエルフたちの仲間だな。
ならばそろそろいいか。こちらも準備できたところだ。
「ならば、俺たちは先にこの瘴気の原因を取り除きに向かうか」
「はい――は?」
何を言っているかわからないような顔をしているユリエナ。
「原因とその所在はわかっていたのだ。少し――いや、それよりも優先すべき用事があってな」
「はぁ……え? 原因がわかってる!?」
「ああ」
「そんな……! 我々はまだ何も――ブルースフィアのギルドが数か月かけても、まだ尻尾すら掴めていないというのに……」
地道な調査――何百匹かの魚やモンスターの魂を書き換えて眷属化、瘴気の出所を探らせていた。
その結果、5日前には把握できていたわけだ。
「(魚たちからしたら地道な調査だろうけど、あんたがやった『魚たちを片っ端から魂の奴隷に変える』って、とんでもないことだからね?)」
「(安心しろ、役目を終えたら自然に戻す予定だ)」
「(ちゃんとご褒美あげてね!)」
魚のごほうび……?
共食いでもさせるか……。
「ルシアン様……もしかして私の訓練のために……? すみま――」
「そこは『ありがとう』だぞ、アイリス!」
「あ、ありがとうございます……!」
「構わない」
マールの言う通り、俺は謝られるより感謝の言葉を好む。
いや、誰だってそうだろう。
「では早速向かうか」
「ちょっ――お待ちください! まだ我々の仲間が!」
「基本的に1度カース化したモンスターは通常種には戻らない。その仲間たちには引き続きブルースフィア周辺の対処を任せればいいだろう」
「ですが――いえ、でしたら私だけでも連れて行ってください!」
「それくらいなら……」
正直、これからの戦いに足手まといは少ない方がいい。守るのが面倒だ。
ユリエナとしても、リーダーとしてはここで引き下がれないのだろう。面倒だな。
「(それ言ってたら、一気に信頼がなくなってたわね)」
「(そんなデリカシーのないこと、言う訳ないだろう)」
「(30%くらい言うと思ってた)」
なかなかの信頼度だ。
「目標はおよそ300キロ先か。そうだ、ちょうどいい――」
「結論:やめろ、そのかおは……よくないことを、かんがえているかおだ」
「何を言っている。アイリス式移動法を極限まで高めて移動しようというだけだ」
「懇願:やめろぉ……ぶくぶく……」
コアちゃんにも感情が芽生えてきているようで嬉しい。
「(その感情が“恐怖”であることに罪悪感を抱きなさい)」
「(何を言っている。人は“恐れ”があるからこそ、それに備えるために成長や発展をしていくのだ)」
だが、そうだな。“恐怖”の後には“安心”が必要だ。
「コアちゃんよ、既にお前は俺の仲間だ。何を置いても守ると誓う」
「考察:なかま……」
「そうだ。“大切”と言う意味だ。俺がここまで直接言うことはめったにないのだぞ?」
「(確かに!)」
なぜそこで介入してくるのか。
「困惑:たいせつ……?」
「ああ。お前とは不思議な出会い方をしたものだが、こうして一緒に行動しているのだ。既に大切な仲間だ」
「困惑:わからない……わからない……けど……」
頭にしがみつく力が少しだけ強くなる。
「……あたたかい……」
「よし、行くか。全員俺の傍を離れるなよ」
「へ?」
「『比重調整』、水の抵抗を0に――」
「懇願:やめろ――」
「高位風魔法で足元から突風を噴出――」
「うあああああ!? ――あれ?」
驚異的な速さ――線となって消えていく視界が、それを物語っている。
もし衝撃を緩和する魔力障壁がなかったらどうなっていただろう。
「だから言っただろう。守ると」
「疑問:どうなってる?」
「かなりの速度で移動しているが、結界内は安全――ほら、見えてきたぞ 『高位風魔法』」
逆向き噴出で速度を落とし、いざ瘴気の根源と対面。
「あれは! 物語では常に巨大ダイオウイカと対を成す存在と語られる――巨大クジラか!?」
「例えはわからないが、クジラではあるな」
「お、大きい……!」
目の前に現れたのは……まだ随分離れてるのに視界に収まりきらないほどの巨大な生物。
ブルースフィアすら小さく見えるほどの巨躯。その全身から、深海をどす黒く染め上げるほどの濃厚な瘴気を、呼吸のように吐き出し続ける――深海の王者、『深淵の鯨』、そのカース種だった。
「――キュォォォォォォ……ッ!!」
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次話の投稿は
20時10分頃
となります!




