第40話 国を滅ぼす海の星と、国を救ったヒトデの手
海底に衝突して止まっていたアイリスを回収し、そのまま『ブルースフィア』近くに辿り着いた俺たち。
「わぁ~……まるで大きなシャボン玉に包まれてるみたいですね!」
「我らも似たような感じだぞ」
まるで巨大な泡に包まれたような場所。
その中には人間を始め、魚人でも足のある種族が生活している。
泡と言うのはもちろん比喩で、それなりに頑強な魔力の膜で覆われている。
「あっちの泡がない方はなんでしょう?」
「主に地上では生活できないような種族が生活している場だろうな」
人魚族などは足が魚だ。
水中の方が暮らしやすいのだろう。
「俺らの用事があるのは泡の方だ。まずはそこの冒険者ギルドに行って情報を集める」
「わかりました! よいしょ、よいっしょ……!」
先ほど超高速の水中遊覧を経験したとは思えないタフさでアイリスがぴょんぴょん跳ねていく。
たどたどしいながらも、水中ジャンプをものにしようと頑張っている姿が微笑ましい。
「(マールはさすがに上手ね)」
一方のマールは、既に地上での『フライ』と変わらないほどの制御力を発揮している。
さすがの器用さだ。
「絶望:はなれたら……はじけとぶ……はなれたら……ばくはつする……ぶくぶく……」
「(コアちゃん……)」
そしてコアちゃんは……ずっと俺の頭にしがみついている。
精一杯の力を発揮しているところから考えると……どうやらコアちゃんの身体能力は一般的な人間レベルのようだ。
「(この状況でその考察をするところが、サイコパスって言われるのよ!)」
「(ん……?)」
何を言っているのだろうか。
仮にコアちゃんの力が強力なモンスターと同じものだとしたら危険だ。把握しておく必要があるではないか。
「あ~~~れ~~~!?」
「(……ほら、アイリスがまた衝突するわよ。ブルースフィアの泡が割れちゃうかもね)」
「(大丈――いかん!)」
なぜそうなったのかわからんが、再び猛烈な勢いでブルースフィアの泡に跳んでいくアイリス。
気付いたときにはちょうど衝突して――国を包む泡に亀裂が入る瞬間だった。
「――っ!」
思考と魂と魔力を加速し、一瞬を無限に圧縮。体感的には静止した時の世界。
空気が漏れるよりも速く、国全てを蹂躙し尽くすであろう水圧。それを防ぐために――。
「『絶対防御』『内圧維持』『因果復元』――」
保護に必要な魔法を片っ端からかける。
どうにかほとんど影響なく、見た目的にも変化はなく修復できた……はずだ。
「……間に合ったか」
「(……久しぶりに、物理法則が泣いて逃げ出すレベルの神業ね)」
恐らく、内側にいた人はほとんど変化を感じなかっただろう。でなければ、変化を感じるほどの時間もなく一瞬で国が滅んだはずだ。
「……えへへ、またやっちゃいました!」
「さすがアイリス! まさか国の防壁に突っ込んでいくとはな!」
この顔は……わかっていないな。
「推測:……いま、われた……?」
「ああ。一瞬にも満たない時間だったがな」
「考察:……つまり……?」
「国が爆縮する寸前だったな」
「懇願:……かえる……ぶくぶく……」
俺の頭を締め付けるコアちゃんの力がさらに強まった。先ほどまでのが全力ではなかったか。
そして、どうやら会話を聞いていたらしいアイリスが青い顔をしている。
「あ、あの……もしかして私……とんでもないこと、しちゃいました……?」
「ああ。軽く国が消失するところだった」
「…………」
何を言っていいかわからない様子でへたり込むアイリス。
「……心配だったら、しばらくマールと手を繋いで行動したらどうだ?」
「お? いいぞ! 頼りになる我が手を繋いでやろう!」
「……ありがとう、ございます……」
ここで、出会った時の『マールぴよちゃん』の意趣返しをしないところが、彼女のいいところだ。
「(たぶん、3歩歩いたから忘れたのよ)」
「(かもしれない)」
それもまた、彼女のいいところだ。
「ルシアン殿、あちらが入国用の出入口のようです」
少し離れたところにいたユリエナの手招きに応じ、門らしき場所へと向かう。
この門を起点として入口と防護壁が分かれているようだ。
サハギン族の門兵から簡易的な入国検査を受け、中に入る。
「おお! こんなにも亜人が多いとは!」
地上の町とは反対に、水棲亜人が多く町を歩いている。
対して人間はごくたまに見かける程度だ。
「ですが……ケガをされている方が多いですね」
「そうだな」
アイリスの言うように、ほとんどの者がどこかしらに包帯を巻いている。
それは人間も亜人も関係なく、ケガをしていないのは子どもくらいだ。
「冒険者ギルドはあそこのようだな」
地上でも海中でも、世界共通の看板を見つけ、建物の中に入る。
中の様子は――残念ながら、ほとんど人はいなかった。
「ようこそ、冒険者ギルドへ! 人間さん、どのようなご用件ですか?」
「ほう、人魚の受付嬢か」
この国とは逆に、下半身が水の膜で覆われており、プカプカと宙に浮いている。
細長い魚の下半身に、人間の上半身の人魚。残念ながらギルド職員共通の服は着ている。
「そうよ! 何を隠そう、私このギルドで1番人気の受付嬢、オンディーナちゃんでっす!」
「確かに美しいが……その割には閑散としているな」
「むぅ! 今はみんなカース種を倒しに行ってくれてるんですぅ! それと……ケガしちゃう人も多くって……」
ブロンドの長い髪に青い瞳、整った顔立ちは間違いなく美しいと言える。
その顔を曇らせて見つめる先には、ギルド併設の酒場。
そこには何人も大けがを負っている者――中には四肢の一部が欠損している者もいる。
閑散としているのは、人がいないからではなく悲痛に沈んでいたからだったようだ。
「……俺たちは救援要請を受けて、そのカース種への対処のためにやってきたのだ」
「本当ですか! よかったぁ~、今はヒトデの手も借りたいくらい困ってたの!」
独特な言い回しだが、要は猫の手を借りたいくらい困ってるということだろう。
「これが冒険者証だ」
「はい、Fランクのルシアン君ですね! よろしくお願いします!」
「(あれ? てっきり『“F”ランクぅ!? ぷっぷー! そんな小魚みたいなよわよわおにーさんなんか必要ありませ~ん! ざーこざーこ♡』って言われるのかと思った)」
「(想像が具体的すぎる)」
恐らくだが、人間が『この国に来れる』という時点で相当の腕前だと判断したのだろう。
この受付嬢、案外悪くない。
「それで依頼なんだけどね、特別に設定されてる訳じゃないの! そのかわり、今はカース種の魔石の買い取り価格が通常の2倍になってます!」
「なるほどな。とにかく数を減らせと。原因とかはわかっているのか?」
「それがぜ~んぜん! 2か月くらい前から急に増えたってことくらいしかわかってないのよぉ!」
「そうか」
ならば仕方がない、地道に探すとしよう。
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次話の投稿は
18時10分頃
20時10分頃
となります!




