第33話 禁忌魔術師の弱点と、角が生えたコア
Sランクダンジョン第30層に辿り着いた俺たちの前にいたのは――。
「ミラ……?」
まるで死ぬ直前のミラそのものの姿。流行り病でベッドで横になってそのまま……。
「懇願:たすけろ」
「……ん?」
落ち着け、ミラのはずがない。
彼女は今俺の肩に乗ってポケっとしている。
「(んあっ? 呼んだ?)」
「(あの目の前の少女に見覚えあるだろう?)」
「(あー……何だか私に似てるかも? 小っちゃいけど)」
8歳頃だったか、当時のミラそのものだ。
メイド服に身を包み、銀髪と白い肌はそのまま。
死の直前だったこともあり、目の下にクマがある
一方でミラと異なるのは、まず表情がとても無機質で、いわゆるジト目と言うやつか。
加えて、かつてのロルウェンナのように角が生え、体のところどころに黒い痣のようなものが生じている。
体を瘴気で侵されているようようだ。
「懇願:たすけろ」
「…………」
どうやら助けて欲しいらしい。
懇願なのに命令されている。
「お前はダンジョンコアだな?」
「肯定:わたしはおまえのしこうにある……だんじょんこあとどういつのもの」
「助けろというのは……その纏わりついている瘴気からだな?」
「肯定:じぶんでは、たいしょふのう」
このダンジョンに入ったときから感じる視線、その正体はこいつだったか。
どうやら俺らの能力を見て、瘴気への対処が可能だと判断したのだろう。
「思考にあるって……ルシアンの思考を読み取っただと!?」
「ああ、ダンジョンに足を踏み入れた時から視ていたな」
「なっ!? では我のえっち――叡智な考えも!?」
「……安心しろ。お前らは俺の魔力で防御してある」
ダンジョンに入ってからここまでにエッチなことを考える暇があったとはな。
「えと……ではなぜルシアン様の思考は読み取れたのですか?」
「防がなかっただけだ。敵意は感じなかったし、マールと違って読まれて困るものはないからな」
『んなっ!? 我だって別に……困ることなどない!』と必死に取り繕おうとしているマールだが、すでに“遅い”。そんなに言うなら、少しだけ守りを薄くしてやろう。
「肯定:ざこにようはない。『個体名ルシアン』、おまえだけでじゅうぶんだとはんだん」
「雑魚!? この我を雑魚だと!?」
「肯定:いちばんつよいものいがいは、ざこ」
「ぐぬぬぬぬっ!?」
雑魚と言われて腹を立てるのはわかるが、このままと話が進まなさそうだ。
マールには悪いが話を続けよう。
「助けを求めているのはわかった。だが、なぜミラの姿なのだ? しかも生前――亡くなる直前の」
「回答:このすがたのほうが、たのみをきいてくれるとはんだん」
「(え!? 私あんな顔だったの!?)」
なるほど。俺の思考や記憶を読み取った上で、最も願いを聞き入れてくれそうな姿を取った訳だと。
舌足らずな話し方もそのためか。何だかあほっぽいし。
「否定:わたしのちしきは、たいないにきたにんげんによりアップグレードされる。おまえのなかの『絶対に助けると決意した対象:ミラ』よりは、こうすいじゅんとすいそく」
「(え~っ? ルシアンってばそんなこと思ってたの~? うっそーやっだーはずかしー! きゃー! かわいいルシアンね!)」
「(……ちっ)」
こいつに思考を読み取らせたのは間違いだった。
だがこいつは勘違いしている。
恐らく、いや間違いなくダウングレードしているな。
「まあいい。お前を治療する理由はない」
「懇願:たすけろ」
「いや理由がない」
「検索――検索――完了」
そう言った瞬間、ダンジョンコアがおもむろに服を脱ぎだした。
「(ちょっと待ってー!?)」
「ちょっ! ダメですよ!? 何してるんですか!?」
しかしアイリスが目にも止まらぬ速度で服を着せ直す。
素晴らしい反応速度だ。俺もさすがに幼子の裸を見る訳にはいかないからな。
「回答:にんげんが、つよくのぞむこうどうを『個体名:ルシアン』にていきょう」
「どういうことですか!?」
「推測:はんしょくこういと、かんがえられる。とくに、“死”をかくごしたにんげんに、おおくみられる」
「はぁっ!?」
ああ……いわゆる『死の間際ックス』か。
人間に限らず生物は危険や死を感じると子孫を残す本能が刺激される――つまり交尾したくなるというからな。
「願望:わたしもしてみたい」
「…………」
「願望:にんげんのからだをえたこともあり、かのじょたちのいうところの『もっと激しく突いてぇ!』をけいけんしてみたい」
「――っ!?」
「考察:『個体名:マールグリッド』のいうところの『ルシアンにおもいっきり揉み』――」
「やめろぉっ!!!」
マールが急いで口を塞ぐ。
一体何を揉みしだくというのか。後でその願いは叶えてやろうと思う。
だが、今のこいつの行動から考えるに……トラブルしか生まない気がするな。
どうやらミラの肉体を模倣したことで思考が人間寄りになってしまったらしい。
このままだとダンジョンに来た冒険者をところかまわず食い散らかしかねん。
「悪いが、お前を破壊する」
「驚愕:検索――検索――『個体名:ルシアン』に効果的な解――推測――考察――解、無し――いやだ――推測――推測――いやだ――」
ミラに似た……姿だけ似た少女に手を伸ばす。
その姿は、むしろ逆効果だったな。せめて苦痛を感じさせないように破壊してやろう。
「しにたくない……――考察――考察――」
「…………」
ミラの今際の言葉を呟いたのは偶然か、それとも――。
……やれやれ、仕方がない。
「……お前、魔道具や装備は作れるか?」
「回答:つくれるがおまえのつくるものにはとてもおよばない――推測――」
「ならば、俺たちについてこい。そして俺たちのために装備を作れ。それができるなら、助けてやろう」
いかに俺でも無から有を作るのは骨が折れる。
ダンジョンと言うくらいだからその辺は得意分野だろう。
「困惑:それでいいのか? おまえののぞむものが……つくれるとはおもえない」
「人間はな、何も最上級のものだけが欲しい訳じゃない。疲れた体に安っぽい酒が欲しくなるようにな」
「困惑:よくわからない。だが――」
やれやれ、やはりこいつの作戦は成功だったようだ。
「そのていどでいいのなら、ぜひもなし」
「(もうルシアンったら! やーっぱり私には弱いのね!)」
「(…………)」
ミラが嬉しそうに頬を叩くのがうっとおしいし、アイリスやマールもニヤニヤしているのが腹立つ。
さっさと治療してしまうか。
「提案:おまえがいうところの『死の間際ックス』もしてみないか?」
「…………それは『提案』じゃなくて『懇願』だろうが」
治療の後で常識を叩き込まなければな。
「困惑:思考回路及び演算結果に問題発生?」
「人間の感情と言うのは定義付けが難しいんだ。これから学んでいけ」
「……りょうかい」
さて、話も決まったことだし作業に入るか。
1番手っ取り早いのは、やはり存在そのものを書き換えることだろう。
「『真魂顕現』……む?」
やはりというかなんというか、魂の存在が書き換わっているな。
加えて刻まれた術式は術者以外の魔力を通さないものになっている。
俺の魔力の質を変化させて術式に介入して――。
「あなた、お名前はなんていうのかしら?」
「検索――考察――回答:『コアちゃん』」
「うふふ、コアちゃんね?」
「懇願:よびすてにするな、ざこ。『コアちゃん』ちゃんとよべ」
「え、ええ~……?」
「(私たちの方が『困惑』だわよ……)」
魔法陣の解除と魂の書き換えに手間取っている間、アイリスたちとダンジョンコア――コアちゃんがコミュニケーションを取っている。
マールよ、匂いを嗅いでも何もならんと思うが……。
「よし、少し時間はかかったが治療完了だ」
「驚愕:理解不能。意味不明。まだ30びょうもたっていない……推測:『個体名:ルシアン』はにんげんではない……?」
「人間だ。あとその変な呼び方やめろ。アイリスたちを『ざこ』というのもな
「受諾:わかった」
口は悪いが……悪気はないらしい。
知識の偏りがあるだけなのかもしれんな。
「……自分の状態を確認してみろ」
「解析:――――完了。まほうじんのさくじょだけでなく……わたしのそんざいがかきかわってる?」
「ああ。治すついでに、お前の姿を今の幼いミラの姿で固定させてもらった。ふとした瞬間にダンジョンになられると困る」
「受諾:かんしゃしてやろう」
治してやったのに上から目線、しかも無表情。
まあ状況を見るに、この姿になって間もないから仕方ないか。少しずつ“人間”を学んでいけばいい。
「要望:つのはほしい」
「角? 魔人化のやつか?」
「肯定:かっこいい」
「……わかったよ」
左右非対称の黒い角を生やしてやった後、コアちゃんを連れてダンジョンから帰還した。
誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!
★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!
明日の投稿は
12時10分頃
18時10分頃
20時10分頃
となります!




