第32話 正攻法と、マグマ風呂
ダンジョンの暴走を企てた魔術師。
彼の記憶から別の本命を探り当てた俺たちは、とあるダンジョン前にいる。
「ここは……Sランク『黒鉄鍛し紅海』というダンジョン、ですね」
「ああ。恐らく鉱石やマグマ、もしくは水などがモチーフになっているのだろう」
入口横に設置されている看板。
高ランクのダンジョンほど知能が高くなるのかモチーフやテーマ性が出てくる。
その特徴をに基づいて冒険者ギルドが名付けるらしい。
「前回は“邪法”で攻略したから、今回は“正攻法”で行こうと思う」
「おお! ついに我の思うようなダンジョン攻略だな!?」
「腕が鳴りますね! ですがマールさん、高難易度ダンジョンは本当に死んじゃうトラップが多いですから、気を付けてください!」
「わかったぞ!」
多分わかってない。
「俺の傍を――30メートル以上は離れないようにな。その距離なら死んでも死なない」
「ははは! 訳が分からん! いいから行くぞ!」
「まあ待て。悪いが、今回は俺が仕切る」
「……うぬぅ」
まるで犬が耳と尻尾を垂らすようにしながら落ち込むマールだが、それでもちゃんと後ろから付いてくる。
「ほれ、紅海の名にふさわしいダンジョンだぞ」
「……おお! これは……もしやマグマと言うやつか!?」
入口を抜けた先は、火山――その山頂のようだ。
目の前にぐつぐつと煮えたぎるマグマが広がっている。
しかし……ダンジョンに入った瞬間から何者かの視線を感じるな。
「おかしいですね……ここまでマグマに近いと暑いはず……」
「そうなのか? それより服から『ピー』という音が聞こえるぞ!?」
「ああ、お前らの服は『絶対防御』と『環境調整』の魔法が付与されているんだが、本来人間が耐えられる危険を超える場所に来ると警告音が鳴る」
「んんっ!?」
痛さや熱さは命の危険を知らせるサイン。
無視しないよう保険として施している。
「それじゃあ……本来は死ぬほど暑いということか?」
「即死はしないだろうがな。そう言うことだ」
「なるほど……」
「服を脱いで解析するのは戻ってからにしろよ?」
「な、何を言っておる……今すぐ脱ぐ訳なかろう!」
いいやあの顔は脱ごうとしていた。
「まったく……ほら行くぞ」
「はい! ――え? どどどどうしてマグマの中に入るんですかぁっ!?」
「近道」
「えええええええええっ!?」
周囲に魔力の膜を張りながらマグマに浸かっている俺、徐々に体が沈んでいく。
このままでは2人とはぐれてしまうな。
「おい、俺から離れるなと言っただろう。死んでしまうぞ」
「近づいた方が死んじゃいそうです――ええい! ルシアン様のばかぁー!」
「アイリス!? よし、我も――ルシアンのあほー!」
2人とも勇気を振り絞って俺の近くに飛び込んでくる。
その頑張りに免じて悪口を言ったことは許してやろう。
「あ、あの……正攻法じゃなかったでしたっけ……?」
マグマに包まれながら、アイリスが納得できないというような顔で聞いてくる。
「正攻法だ。耐性を極めれば誰でも入れる。そしてこのマグマの下に『転移罠』がある」
「て、転移罠ですか? それって……死んじゃうやつじゃ……」
「基本的には大きな危険の先に飛ばされるのは間違っていない。だが、その転移先でさらに転移することで大幅なショートカットが可能なのだ」
「は、はぇ~……」
既にこのダンジョンの解析は完了している。
どこの転移罠がどこに飛んでにどれがショートカット足りえるは把握済みだ。
「あれだ。魔法陣が光っているのがわかるか?」
「おお! この前貰った『転移』の魔法陣とよく似ているな! だが細かいところが異なる……」
「ほう、この一瞬でよく見抜いたな」
この前貰った魔法陣もそうだが、ダンジョンにある魔法陣は全て一般には解読不明とされる古代文字で描かれている。
「研究は今度だ。触れるぞ!」
「は、はい……!」
「あっ、待て――」
待っていたら日が暮れてしまう。
マールの言葉を無視して転移罠に触れると、浮遊感の後に別の場所に飛ばされたのがわかった。
「こ、ここは……?」
「どうやら純粋な隠し報酬部屋のようだ」
「あれは宝箱か!? 開けてもいいか!? 開けたぞ!」
「マールさん!? 宝箱にも罠があることがあるんですよ!?」
「もう開けちゃったぞ……だが、何もなかった――このマント以外はな!」
なぜかドヤ顔でマントを掲げるマール。
俺の付与した魔法には劣るが、なかなかの一品らしい。
「マールよ、何が付与されているかわかるか?」
「むむ……『防護』に『浄化』、それに……『熱耐性』かの?」
「惜しい。『完全熱耐性』だ。だがこの短時間で素晴らしい解析だ」
「……わっはっはっ!」
「(相変わらず誉めて伸ばすわね……けど、確かにすごいかも!)」
小国の国宝程度の価値はありそうだ。残念なのは、ここに来るまでに『完全熱耐性』が必要そうなことだが。
「さて、そこにある転移魔法陣に触れよう」
「うむ!」
飛んだ先はダンジョンの5層。
これだけでも十分のショートカットではある。全部で30層もあるが。
「次は……目の前にあるな」
「……お宝を手にして転移で戻った先の魔法陣……いかにも罠っぽいですね」
「ああ。触れるぞ」
「……ですよねー……」
再度魔法陣に触れる。
目の前には――。
「モンスタートラップと言うやつだな」
マグマのような流動体生物の『マグマスライム』や巨大な虫『グランドワーム』と言ったAランク、中には『火山竜』のようなSランクのモンスター。
それらが洞窟の内部のような狭い空間の中にうじゃうじゃいる。
「マール、アイリス。行けるか?」
「はい! こういうわかりやすいのなら大丈夫です! 行きます!」
「(強くなったねぇ、アイリス!)」
力強い宣言と同時に駆けだし、即座に頑健なドラゴンを一刀両断して見せるアイリス。
「我もいけるぞ! 『エアブレイド!』『エアブレイド!』」
マールも負けじと風の刃を放つ。
低位の魔法だが、同じ場所に連続で当てることで巨大なワームを無駄なく切り刻んでいる。
「(前回の反省をいかして、素材を壊さないようにしているね! 偉い偉い!)」
「(ああ……いや、それだけじゃないな?)」
戦い続けるマールの様子を見ていると、いくつかの魔法が首元に出現しているのが見て取れる。
「マールよ――」
「気が付いたかの!? これが今の我の研究の成果だ! まだ安定はしないが!」
嬉しそうにはしゃぐマール。
どうやら『転移』のコツを掴みかけているらしい。
無形である魔法だからイメージしやすいのだろう。
「(え? すごくない? ルシアンだってその境地に辿り着いたのは――)」
「(ああ。転移の研究を始めて2週間はかかっていたはず。マールの奴、やるな)」
アイリスもマールも、順調に成長している。
本当にこれからが楽しみだ。
「――ふぅ~、終わりました!」
「ふっふっふっ! 我の勝ちだ! 我は20体ちょうどだぞ!」
「……私は12体ですが、ドラゴンを3体も倒しましたよ!」
「ぐぬぬ……」
その後も同じように――針の山に落ち、毒の霧を吸い込み、敵の群れを殲滅し、マグマに沈むことで、俺たちは通常の攻略なら数ヶ月かかる階層を数十分で駆け抜けていった。
そしてその先で見たものは――。
「ミラ……?」
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次話の投稿は
18時40分頃
となります!




