第31話 下着隠ぺい魔法と、暴かれた真実
――翌朝。
食事に課題はあったものの、十分野宿を満喫した俺たち。
「さて。今日も行くか」
「ですね!」
「うむ!」
昨日に続いてダンジョンコアを汚染した犯人捜しである。
『魂の痕跡』が示す光のラインに沿って街道を進んでいたのだが――。
「……近いな」
「え?」
およそ2時間ほど進んだところ。
その先1キロほどの場所で光が示す人物の魂が見つかった。
「……どうやらあの集団の中にいるようだ」
「あれは……どこかの軍でしょうか? 野営地のようですが……何か騒がしいですね」
アイリスが言うように、かなりの人数の兵士が留まっているようだ。
国の紋章入りの旗がところどころに設置してある。
なにやら騒いでるのは、突然光り出した魔術師に驚いてのことだろう。
「演習や訓練と言う感じではなさそうですが……」
「ふむ」
「(きな臭い……これはまさしく事件の匂い!)」
「(最初から事件なのだが)」
ダンジョンの暴走を目論んでいたであろうからな。
とはいえ、もしかしたら国単位での陰謀の可能性があるな。
「よし、幻覚魔法で対象に近づいて調べるか」
対象だけを呼び出しすことも可能だが、この陰謀が個人なのか国なのか知る方法がある。
「『魂装幻夢』
「あ、それ私たちの下着を隠してる魔法ですね!」
「そうだ。本来は下着だけでなく様々な幻覚を相手にみせる。今回は我々全員に“違和感を感じさせない”ようにした」
「そんなことまで……すごいですね!」
「(今の流れで堂々と説明しきるルシアンもすごいと思うよ)」
「(自信と魔法の強度は比例する。何も問題ない)」
それよりも今は犯人捜しである。
「(それに、いつまでも光り輝くままにさせておくのはかわいそうだものね)」
ミラの言う通り、その犯人と思われる魔術師が仲間の兵士に指さされて笑われている。
今助けてやるからな。
「『精神強制支配・深』」
「わぁ! 禁術指定の魔法、『精神強制支配』のルシアン様バージョンですね!」
「その通りだアイリス。だんだんお前もわかってきたな」
「(染まってきたとも言うわね――まあいっか)」
仲間にバカにされる怒りと光ることによる羞恥に顔を赤らめていた魔術師、今度は虚ろな表情で上を向いたままの状態に。
精神支配が効いている証拠だ。
これなら質問にも真実で答えてくれるだろう。
「お前の名前と所属は?」
「……私の名はモブンコス。所属はサイドイールの魔術師軍の長だ」
突然虚ろな顔で自己紹介を始めた男に、周囲の兵士たちも不思議な顔を浮かべている。
このまま進めるか。
「お前らはなぜここにいる」
「近日中に起きるであろう『キサトラネム』の騒動にいち早く駆け付けるためです」
「なぜだ? 何が目的だ?」
「我らサイドイールは小国、故に迷宮都市の危機を我々が制圧して多額の謝礼金や魔道具、そして迷宮都市への影響力を得ようという算段です」
「(なるほどな)」
突然機密であろうことを語り始めたモブンコスに対し、周囲の兵士が慌て始めた。
『それは最重要機密事項だぞ!』『誰かに聞かれたらまずいんじゃ!?』という言葉が聞こえてくるが、つまりは国単位での陰謀で確定だ。
「魔術師長! 何を言っているんですか!」
「誰か! 長の口を塞げ!」
慌てて口を塞ぐ兵士たち……邪魔だな。
既に国が関わっている言質は取れたし、用済みなんだが……近くの奴ら全員に『精神強制支配・深』でもかけておくか。
「あ、あれ? 兵士さんたち全員ボーっとし始めちゃいましたね……」
「ルシアンがここにいる全員に『精神強制支配・深』をかけたのだ!」
「全員!? 1000人以上いそうですよ!?」
「まあルシアンだからの~」
さすがに全員でもないし1000人でもない。
999人だ。どうやらちょうど1000人編成の軍隊らしい。
「(何で1人残したの?)」
「(そいつを見て見ろ)」
「(……あ、タライの上でバナナ食べてる!)」
「(そうだ。運命のいたずらを感じるだろう? この偶然、魔術師としては無視できない)」
さて、落ち着いたから質問の再開だ。
「なぜ騒動が起こると知っている?」
「私がダンジョンコアを汚染し、暴走したダンジョンそのものが暴れ出すからです」
「その方法をなぜ知っている?」
「それは――……」
何も答えない。
恐らくはバルトスの時同様『精神強制支配・深』より強力なロックが何者かに施されているのだろう。
「ならば覗かせてもらう。『精神侵入』」
モブンコスの精神――記憶を覗く。
見覚えのある場所……初心者ダンジョンのコアの前でいかにも冒険者風な男が会話をしているが――また『認識阻害』の魔法だ。
「(およそ200年前……俺が20歳の頃に愛用していた術式だ)」
そしてその術式はバルトスの時と同じ。どうやら同一人物らしい。
「(解除……やはりか。黒い外套で全身や顔を隠している)」
男は実に周到で、魂の痕跡や素性に関わるもの全てを隠滅している。
「(まあいい。話の内容によると……やはりこの男がダンジョンコアを表出させ、汚染の術式を刻んで――)」
そしてなぜか途中でモブンコスに代わり、去っていった。
なるほどな。
これ以上必要な情報は得られなさそうだが、これで十分だろう。
「(ふぅ……)」
「(どうだった?)」
意識を浮上させてモブンコスの記憶から脱すると、それを察したミラに話しかけられる。
「(ああ、やはり例の人物が関わっていた。どうやらこいつはただの使い走り――名前通りの器だったな)」
「(……ふぅん)」
「(それともう1つ、重要なことがわかった)」
本命は、別にある。
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