第30話 野宿の情緒と、テイクアウトのリゾット
――翌朝。
「おはよう! ルシアン! 見てくれ!」
「……朝から元気すぎる」
マールの奴め、魔人ではなく間違いなく犬人だ。
ないはずの尻尾をバタつかせているのが見える気がする。
「見てくれ! この魔法陣を解析して我なりの考察をだな!」
「おお、どれどれ……」
どうやら一晩中ダンジョンが残した『転移』の魔法陣を解析していたようだ。
それにしても元気だな……。
「……悪くない。だが転移先でどのように体を構築するの、元の場所にあった物質はどうなるのかという問題が――」
「ふむふむ……なるほどなるほど……!」
パッと見たところの問題点を指摘していく。
マールは自身の間違いを指摘されているのにもかかわらず嬉しそうな顔で言われたことをメモしていく。
実に素晴らしい。
「――それと、爆発する」
「なんと! たっはー!」
「(何で『爆発』が1番嬉しそうなのよ!)」
爆発はロマンである。
だが、このマールの様子なら……もしかするとひょっとするかもしれないな。
こういうやつが将来偉業を成し遂げるのだ。
「(ルシアンも諦めた『転移魔法』?)」
「(ああ)」
俺も研究していたが、その途中で放置している『転移』の魔法。
だが1つ負け惜しみさせてもらうと、目標を先に『ミラの人体固定化』の研究に移しているだけで、まだ途中なのだ。
いや、見苦しいな。
今はマールの研究を楽しみにしていよう。
「1つアドバイスするなら、転移先の指定を明確な物にするといい。俺の『位相転移』の際もそうだからな」
「おお! 確かに何もない空間を指定するよりも格段にイメージと指定がしやすい!」
このまま魔術談議に花を咲かせるのも悪くないが、暇そうにミラをつっついているアイリスのことを考えるとかわいそうだ。
それに今日やるべきことは一応ある。
「マールよ、話はここまでだ。そろそろ行くぞ」
「お? 今日は何をするんだ!?」
「(何に対しても元気いっぱいね……)」
もしかしたら、さらに元気になるかもしれん。
「野宿でもしようかと」
「んんなぁぁっっ!?」
尻尾が振り切れて吹っ飛んだ気がした。
「野宿、ですか?」
「ああ。ついでに、といった感じだがな」
「ついで……ということは、他に目的があるんですか?」
「うむ。実は昨日のダンジョンコアの異変を引き起こした人物に気になることがあってな」
「気になること?」
「あの程度の術式しか組めない者が、ダンジョンの肉体を破壊――つまりコアの露出ができるとは思えない。それを調べようかと」
それともう1つ――。
「(ルシアンが編み出した術式が組み込まれてる、こっちが本題でしょ?)」
「(……まぁな)」
俺の過去を知る人物なのか、はたまた――。
とはいえそれを今アイリスたちに言う必要はないだろう。
「さすがルシアン様です! ダンジョンを危険な物にしようとした犯人を捜すということですね! 私も気になっていたのです!」
「あ、ああ……まあな」
「(ぷぷ! アイリスの笑顔がまぶしいね! 直視できないね!)」
アイリスのようにまっとうな理由ではないが、やましい理由でも――ないことはない。
「ほれ、マールも行くぞ」
「ま、待つのだ! 今『必要な物リスト』を作っておる!」
「遠足の準備をする子どもか」
今必死にリストを作っている紙、さっきまで俺のアドバイスをメモしていた紙じゃないか。
知らないぞ? 転移した先で『バナナ』になっても。
「どうせ1度街の中心に行くから、必要そうな物はその場で買えばいい」
「むぅ……わかったぞ」
ようやく腰を上げたマール、そしてアイリスと共に初心者ダンジョンへと向かう。
道中の串焼きを売っている屋台を全て制覇しながらようやくたどり着いたダンジョン入口には、大きな文字で『ダンジョンやってます』と書かれていた。
どうやら、既にギルド職員たちによる調査は終わったらしい。
「早いですね! もう再開ですか」
「街の中心にある初心者ダンジョン、需要が高いからだろう」
「なるほど! だからこそ、犯人は許せませんね!」
「ああ。今からその犯人の足取りを追う。『魂の痕跡』」
「わぁ! きれいな光のラインが見えます!」
昨日コアの周辺にあった魂の痕跡。それらから既に犯人の物と思われる痕跡は把握していた。
その魂の痕跡を半径1キロほどの範囲で光らせているのだ。
「このラインが犯人の歩いた道だ。街の奥から来たものと、入口に向かっているものがあるな……」
「では入口の方に犯人は進んだ……追いましょう!」
「ああ」
突然現れた光のラインに驚いている人々の間を縫って進んでいく。
それは入口を通り過ぎ、街道に出て……ずっと先、視界の先まで続いていた。
「これは……なかなか遠そうですね」
「ああ。だから野宿だ」
「納得です!」
たまにはこうしてゆっくり進むのも悪くはない。
「うふふ、お散歩デートみたいですね!」
「……そうだな」
ちょうどあちこっち動き回る犬もいることだしな。
◇◇◇◇◇◇
――日が暮れ始めた頃。
「今日はこの辺で野宿とするか」
「おお! ついに……ついにだな!」
何をそんなに喜んでいるのだろうか。
「ルシアンは寝床を用意してくれ!」
「わかった」
「アイリスは食料を捕ってくるのだ!」
「へ? あ、はい!」
「た、焚火を……我が焚火を用意するぞ!」
突然仕切り始めたマール。
周囲の枝を必死になって集める様は、まさに犬。
とても微笑ましい。
「(きっと一生懸命シミュレーションしたのね……私には何もないのかしら?)」
「(焚火に飛び込まないように気を付ける仕事があるぞ)」
「(言われなくても飛び込まないわよ!)」
しかし今の姿のミラにできることと言ったら、俺の頬を叩くくらいしかない。
「……さて、ご要望通りの物を用意したぞ」
「おお……さすがルシアン! わかっているじゃないか! 魔法で『高級宿を作る』と言い出したら怒るところだったぞ!」
魔界の倉庫から取り出して設置したテントは、ごく一般的なもの。
素材はエンシェントドラゴンの皮で出来てたりするが、それでも常識の範囲内――野宿の雰囲気を壊さないものだ。
「(少しだけ残念そうなのは、怒るところもシミュレーションしてたのかしら?)」
「(ふっ。かもしれんな)」
魔術の研究において、あらゆる事象を想定して検討することは非常に重要である。
マールも魔術師として板についてきたな。
「……よしっ! 薪はこれくらいでいいだろう! 後はこの『誰でも簡単! 火起こしキット―ダンジョン内では気をつけて―』を使えば……」
「(買ってたね)」
「(買ってたのか)」
火打ち石を燃えやすそうな布の近くで弾くマールの顔は真剣そのものだ。
てっきり串焼きを頬張っていただけかと思っていたが、しっかりしている。
「――付いた! ふぅ~……なかなか大変だったぞ!」
「やったな」
「うむ! 星空の下、燃える木の匂いと音……最高だ!」
「ああ、たまには悪くない」
火の近くに腰かけると、マールも俺の横に来て肩に寄りかかってきた。
「ルシアン、ありがとうな。我のやりたいことを叶えてくれて……」
「……何のことだ? 火が付く原理を体験すれば火の魔法の解像度も上がる。魔法の研究のためだ」
「素直じゃないやつめ……だがそこもまた愛おしい」
そう言って口付けをしてくるマール。
『口付けにおける心拍数の上昇がもたらす魔力の操作への影響』を調べるため、この状況を作り出しただけなのだが。
「(そこまで素直じゃないと病気ね)」
「(…………)」
心を読むなと言っている。
「ルシアン様! マールさん! お待たせしました! 食事を取って来ましたよ!」
「アイリス、ありが――なっ!?」
「『本日のシェフのおすすめリゾット~朝採りハーブとバナナを添えて~』です! いやー、店主の方も困ってましたが、何とかなりました!」
「(食事を『捕って』……ああ、『取って』か……ええ……?)」
まさか野宿で店の料理を食べることになるとは。
そして転移を経なくてもバナナを手に入れたな。
「野宿……我の野宿がぁ~……」
「へ?」
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次話の投稿は
18時40分頃
となります!




