第29話 Sランクの栄華の終わりと、一夜の奇跡
指名依頼を終え、冒険者ギルドへと向かう。
どうやらここからそう離れていない――どころか徒歩5分で着いてしまった。
「(そりゃあ都市の中心にギルドがあってもおかしくないわよね)」
「(そうだな)」
迷宮都市なのだから、最も人通りの多いところに設置されるのは当然か。
本来ならこのダンジョンもたくさんの冒険者で賑わっていただろう。
「失礼」
ライブラのギルドよりも数倍はある冒険者ギルド、その扉を開けて中に入る。
喧騒。酒と汗の臭い。どこも大して変わらんな。
「あ? お前は……」
「ん? 酒臭っ」
こいつは……名前は何だったか。
仲間を囮に使って生き延びたやつ。
「くくく……ぎゃっはっはっはっ! 大層な口を利いてた割にもう逃げ帰ってきたのか!? 俺らは1週間以上もあそこで調査をしてたってのによぉ! やっぱりてめぇは口だけのクズ野郎だったって訳だ!」
「……あなたねぇ! 仲間が亡くなったってのにお酒なんか飲んで……っ!」
「あん? 弔いってやつだよ! それより嬢ちゃんかわいいじゃねぇか。どうだ、俺のパーティに入らねえか? ちょうど欠員がでて困ってたところだ。ガハハハ!」
「こいつ――っ!!!」
アイリスが怒りに体を震わせ、今にも斬りかかかりそうな顔をしている。
「アイリスよ、かようなクズのためにお前の美しい顔を歪ませるでない」
「マールさん!? ですがっ!」
「だが、怒りはもっとも。ルシアンよ、この者に格の違いを思い知らせてやれ」
格の違いも何も……まあ事実だけを述べればいいか。
「調査は終わった。今頃報告を受けたギルド職員が確かめるための準備をしているだろう」
「何……?」
「だから、調査は完了した。無駄な1週間、ご苦労だったな」
「……てめぇ……」
俺の言葉を聞いていた周囲の冒険者から押し殺すような笑い声が聞こえてくる。
「ホラ吹いてんじゃねえ! 俺ですら逃げることしかできなかった――」
「カースコボルトの集団だろ? ほら、記念に目玉をやるよ」
「なっ!?」
アイリスのカバンからこっそり抜き取った目玉をダなんとかに手渡す。
さすがに偽物じゃないことがわかったようで、真っ赤だった顔を青く染め上げて震え出した。
「おいおいダルゲンよ……今のマジか?」
「あ、ああ……いやそんなはずは……」
一緒に飲んでいた冒険者仲間と思われる男から声をかけられるも、震えてばかりいるダルゲン。
どうにもならないと思ったのか、その男が俺に話しかけてくる。
「あ、あんた……何者だ……?」
「俺か? 俺は……そうだな、ただの“Fランク”冒険者だ」
「え、Fランクぅ~!?」
少しばかり“F”を強調していったが、これくらいは大目に見てくれ。
「おいおいおい! それじゃあダルゲンが……Sランク冒険者ができなかった依頼を“Fランク”が!?」
「そういうことだな」
「そんなバカな――」
尚も信じられないと言った様子の、ダルゲンの酒飲み仲間。
しかしちょうどいいところに冒険者ギルド職員が大声を上げながら建物に入ってきた。
「緊急依頼! 立ち入り禁止していた通称『初心者ダンジョン』の異変が解決された模様! 誰でもいい、我々と一緒に調査してくれるパーティはいないか!?」
その言葉を聞いた瞬間、ギルド内の時が止まったのを感じた。
そしてぼそぼそと、少しずつ声が聞こえてくる。
「えっ……じゃあまさか本当に……?」
「Fランクが!? 俺も行ったが……すぐに逃げ帰ったぞ!?」
「ダルゲンの奴、あんなに偉そうなこと言ってたのに……」
「何だっけ? 『てめぇは口だけのクズ野郎』?」
「自己紹介のつもりで言ったんじゃない?」
最後の言葉で、ギルド内が一気に爆笑に包まれてしまった。
「ギャッハッハッハッ! ダルゲン! お前……ギャハハハハ!」
「だっさっ! あんなイキり散らかしてたのに! あっはっはっ!」
「普段威張ってるからバチがあたったな! さあぁみろ!」
どうやらダルゲンのやつ、他の冒険者からも嫌われていたらしい。
俺としては、実はそこまで仕返しをしたい気持ちはない。仲間を犠牲にしたことも含めて。アイリスに知られたら怒られるだろうが。
「……金はここに置いておく」
そう言ってダルゲンは逃げるように去っていった。
◇◇◇◇◇◇
――その夜。
アイリスたちを宿で待たせ、俺は1人とある場所へと向かう。
そこはダルゲンの仲間である女性冒険者がいるという宿だ。
部屋の前に着き、ノックをするが返事はない。それどころか、魂の様子から今にも死にそうなのがわかる。
「失礼するぞ」
解錠しドアを開けると、そこには手首から血を流して倒れている彼女がいた。
「……あんた……さっきの……」
既に手首を切ってから、そこそこ時間が経っているようだ。
血の気のない顔と、焦点の定まらない瞳は既に亡霊のように見える。
「『極大回復』」
「……これは……そんな魔法を無詠唱で……でも、余計なお世話だよ」
体の傷は治せても、精神の傷は中々癒せない。
弱々しく呟く唇はなおも震えていた。
「ジェインに……会いに行くんだ……」
「何を言っている」
「何って……謝るのさ。許してもらえないと思うけどね」
「だから、何を言っている。ジェインはお前に恨みなど持っていないぞ」
「……あんたこそ、何を」
「むしろ自身を誇りに思っていた。最愛の女性の命を守れたのだから、と」
ここからは、本人に直接聞いた方がいいだろう。
ジェインの遺品――この女性に渡すはずだったであろう指輪に籠った、彼の魂に。
「『真魂顕現』」
顕現するは、誇りと共に散った彼女の恋人。
彼の表情はとても晴れやかなものだった。
「そんな!? ジェイン!? ジェインなの!?」
「マリアナ、無事でよかった」
「ジェイン! ごめんね、ごめんね……見殺しにしちゃって……ほんとうにごめんなさい……!」
「何を言っている。先ほど彼が言ったように、俺はお前を守れて嬉しいんだ」
「ジェイン……ジェイン……うぅぅ……」
2人の邪魔をすべきではないな。
「一夜限りの、よき夢を」
女性冒険者の部屋を後にし、夜の町を進む。
適当な路地裏に入り、後を付けて来ていた無粋な男に声をかける。
「せっかくのいい夜に、とんだ邪魔者が入ったものだ」
「うるせぇ……お前のせいで俺は……」
ダルゲン。
どうやら“Fランク”に劣ると同業者に馬鹿にされたことを腹に据えかねているらしい。
立派な剣を持った右手が、怒りにプルプル震えている。
「死ね――なっ!? 体が……動かない!?」
「相手の実力を計れないとは……お前こそコネでSランクになったんじゃないか?」
「何をした!?」
「何も。特別なことはしていない」
ただただ圧倒的な量の魔力でダルゲンを包み込み、動けなくしているだけだ。
「『真魂顕現』」
「なっ!? これは……俺か!?」
ダルゲンの魂を表出させる。
そして――。
「ふむ。お前は仲間の足を切ったのだったか」
「し、仕方がなかったんだ! より価値のある俺が生き残るには――!?」
「お前も同じ苦しみを味わうがいい」
「――へ? あれ?」
ダルゲンの魂、その下半身を消失させる。
これで魂が足を認識できず、再び書き換えない限り動かせないだろう。
膝から崩れ落ちるように、倒れるダルゲン。
「何をした!? 足に力が入らない!?」
「さぁ? ところで……相当トイレを我慢していたようだな。盛大に漏らしているようだが」
「……は? そんな訳――なんじゃこりゃあ!?」
「用は済んだみたいだな。これにて失礼する」
自身の下半身から漏れ出る尿と汚物に絶叫を上げるダルゲンを置いて、薄暗い路地裏から明るい表通りへ。
俺への『用事』と、トイレを済ませる『用』をかけるとは。我ながら洒落が効いている。
「(どうでもいいけど、エグイことするね~)」
「(自業自得だろう。愛し合う2人を引き離した報いだ。何よりアイリスに不快な視線を向けた罰だ)」
それでも命まで取らなかったことを褒めて欲しい。
魔術師に転身して研究に励めば取り戻せる程度に収めてやったのだ。
「(くっくっくっ……奴が俺も知らない魔術の深淵を見せてくれるかもしれないしな)」
「(え~? 無理じゃな~い?)」
「(『無理』、『不可能』、それらを覆す反骨心と執念さえあれば不可能なことなどない)」
「(え? なんかあの男のこと応援してる?)」
「(まさか)」
だが、何を差し出しても目的を果たすという執念は嫌いじゃない。
「(ま、何でもいいけどぉ~。それより、そろそろお腹減って来ちゃった!)」
「(ああ、アイリスたちも待っている。そろそろ戻ろらなきゃな)」
俺だって、大切なもののためなら――。
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7時30分頃
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となります!




