第3話 死を禁ずる魔術師と、森に咲いたロケットおっぱい
ソニプロフェン王国の辺境にある『死の森』。
そこは、吸い込むだけで肺が腐りそうなほど濃密な、黒色の瘴気に包まれていた。
霧のように広がる瘴気は、人間の侵入を拒むかのようだ。
「(王国に近いから瘴気が濃いね!)」
「(そうだな)」
これほどの瘴気、中を進めるのはそれなりの実力者でなければ無理だ。
魔力で防がねば、常人なら数分で魔物化してしまうだろう。
「ん……? あっちで人と何かが戦ってるな」
「(へ? 私には感じないけど……)」
距離にしておよそ10キロ。
『魂感知』を使えばどこに何がいるかは概ね把握できる。
瘴気が濃いからか、この距離ではミラには感知できないようだ。
「行くか」
『身体強化』の魔法を使い、脚力を強化して目的地へと向かう。
ほんの数十秒ほどでたどり着いたそこには、巨大な狼と戦う1人の少女が。
「くっ……! 騎士の誇りにかけて……ここで、倒れるわけには……!」
銀色の鎧に身を包んだ一人の少女が、膝をついていた。ボロボロの剣を杖代わりに、必死で立ち上がろうとしている。
少女の前には、瘴気によって変異した巨大な黒狼――Sランク級の魔物『カース・フェンリル』が、今まさに飛びかからんとしていた。
「まあ待て」
「グルッ!?」
カース・フェンリルを魔力で押さえつけ、少女へと向き合う。
「もし、そこの――」
「だ、ダメだ……早く逃げろ……!」
「なっ!?」
振り返った少女は……鎧が砕けて片胸が露出していた。
しかも話でしか聞いたことのなかった存在。小ぶりだが、まるで背伸びするかのように先端を差し出している胸。
つまり、ロケットおっぱい。
「ふっ。ダメだと言われたら逆らいたくなるのが性根でね。助太刀しよう」
「(おっぱいしか見てないじゃん! バカぁー!)」
さもありなん。
俺とて健全な男子である。
「逃げろ……Aランクの私でも歯が立たない……!」
「ふむ」
この年で――恐らく10代後半か、それなのにAランクとは、なかなか将来性もある。
そして何より……いい胸だ。
だが、なぜこの子犬が動けないかは理解していないらしい。
「――禁忌指定術式、『死の返済期限」
「ガルルァッ!?」
指先をパチンと弾く。
その瞬間、カース・フェンリルの足元に魔法陣が浮かび上がり、黒く怪しげな光を発した。
同時に奴の肉体がボロボロと塵になって霧散していく。
体の時間と魂を、魔法によって『未来へ先送り』させたのだ
「(肉体と魂を老化させていく魔法……いつ見てもえぐいわね!)」
「(そういうな。魔石だけを取り出すなら効率的だ)」
「(禁術指定の魂操作魔法を効率のためだけに使わない方がいいと思う……)」
目の前には、Sランクに相応しい大きさの魔石が落ちていた。
ささっと『位相転移』で別空間にある倉庫に移動させる。
「……こ、これは……奇跡、か……? あなたは……?」
折れた剣を握ったまま呆然と俺を見上げている少女。
無理もない。“理を外れた魔法”、見たこともなければ聞いたこともないだろう。
「……いや、それよりも……私の代わりに、依頼を頼まれてくれないか……?」
「ん?」
「瘴気の森でしか咲かない『暗黒の月』……幼い女の子の治療のため、私は……」
どうやら、その花を手に入れるために無茶をしたらしい。
たしか『暗黒の月』はとある病気の治療に使ったっけな。一般的には貴重な物。
それを幼い子のために命を懸けるとは……なかなかいい女じゃないか。
「頼む…………」
「え?」
少女は最後まで口にすることなく、体から力が抜けてしまった。
いや魂が抜けて行って――死ぬ!?
「(だから言ったじゃん! おっぱいだけ見ちゃって……お腹の傷!)」
あ、ほんとだ。めちゃくちゃ抉れている。
内臓まで見てしまった。
おっぱいどころか内臓まで見られてしまえば、少女も恥ずかしいだろう。
「……わかってたよ。この傷で戦って……辛かったろうに」
「(……その顔を見たら、『ボケッとした』なんて言われないのにね)」
まじめな顔するのは、強敵の前と女性の前だけだからね。
ミラの奴、受付嬢に言われたのを根に持ってるな。
「仕方ない。まだそんなに時間も経っていないし――」
「(……あれ、やるの?)」
ミラが悲しそうな目で見つめてくる。
いいじゃないか、どうせ飯食って寝たら治る。
少女を抱え、彼女を包み込むように魔力を展開させる。
「『魂贈与』、と『極大回復』」
俺自身の魂の一部を譲り渡し、肉体から分離した少女自身の魂を繋ぎとめる役目を果たす。
残念ながら俺から定期的に魔力の補充が必要になるが……背に腹は代えられないだろう。
それと、そのままの体ではまた死んでしまうので、ついでに体も修復させておく。
「あ……あぁ、っ……ふ、ぁ……っ」
「お、どうやら魂は繋ぎ止められたようだな」
膨大な魔力を直接流し込む副作用で、少女の頬が瞬時に真っ赤に染まり、熱っぽい吐息を漏らす。
要は気持ちいいらしい……気持ちいいで済めばいいのだが。
俺の魂を分け与えたこともあり、その快感は通常以上のはず。
その証拠に、無意識ながらもせがむように俺の腕を掴んでいる。
「(……ちょっとぉ! その子への魔力供給、長くない!? もういいでしょ早く離れなさいよ!)」
「(いや、もうちょっと必要だ)」
「(このドスケベ! はぁ~……また魔力依存の『運命共同体』が増えちゃったね。しかも女の子!)」
肩の上でミラが飛び跳ねているが、今は無視だ。
魂が定着するまでは――ようは意識を取り戻すまで確認しないと。
数分ほどすると、少女は混濁しながらも意識を取り戻したようで、ぼんやりした顔で俺をじっと見つめている。
「……貴方は……神様、なのですか……?」
「いいや、ただのFランク冒険者さ」
「そんな、まさか……」
再び意識を失った彼女を横抱きにし、空っぽになった胃袋と相談する。
「(……さあ、ミュリエラに『お土産』ができたな。帰ったら飯でも奢らせるか)」
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19時20分頃
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