第25話 勘違いの母娘丼と、事実の母だけ丼
「彼女たちはあなたとどういった関係なのか」
『冷鉄の美女』。
まさしくその言葉に相応しい、冷たく鋭い視線と声。
「(おーこわっ! こりゃあ色々バレてそー! ぷぷぷ!)」
「(まさかこっそり念話で教えたのか?)」
「(そんなことしないってばー)」
……いや、まあいい。
ミラが告げ口しようが何だろうが関係ない。俺は自分に恥ずべきことはしていないのだから。
「マールは俺の女だ。お前と同じくな」
「まあ! ……こほん。ではそちらのお方――ロルウェンナさんは?」
「(リエラったら……自分のこと言われて顔が緩んでるね!)」
計画通り。
このまま押し通る。
「ロルウェンナはマールの母親だ」
「……母親?」
「……そうだが?」
「それだけの相手に、あなたの大切な魂を与えたのですか? いいえ、何か他の意図があるに決まっています」
鋭いな……。
前までリエラは魂の状態を見る『魂視』はできなかったと思ったのだが。
「どうせあなたのことだから『母娘丼でも食べたいなー』などと思ったのでしょう?」
「おお! 母上の母娘丼は美味だぞ! よく知っておるな、リエラ殿!」
「え? えーっと……いえ……何となく、です」
純粋な目をしたマールの、純粋な言葉。
『母娘丼』が卑猥なものを指すのではなく、食べ物のことを指していると疑っていない。
「わ、私も……ぜひ1度ご相伴に預かりたいですね!」
普通に生きていれば『おやこどん』は、食べ物である。当然だ。
これはリエラ、墓穴を掘ってしまったようだ。
『冷鉄』の下に赤みが差している。
危ないところだった。マールの純粋さに救われたな。
「こほん……この話はいいでしょう。では早速ですが、ギルド職員採用の面接をいたしましょうか?」
「え? いいんですか?」
「はい。私無駄なことは嫌いですので。今日は私の手も空いてますし、日を改める必要はありません」
「助かります~!」
「では奥のギルド室までどうぞ。ルシアン様もよろしければ」
飛び入りにもかかわらず職員採用をしてもらえるとは有り難い。
しかもギルド長であるリエラ自ら面接してくれるとは。
「(なんだかんだ言って、ルシアンの知り合いだから融通してくれてるみたいだね)」
「(リエラのやつ……)」
さっきまであんな態度取ってたのに。
いじらしいやつめ。
「ではそちらに……ルシアン様はどうぞギルド長の椅子にお座りください」
「なんでだよ」
しかしリエラは俺の言葉を無視してソファに座る。
背の低いテーブルを挟んだ向かい側のソファにロルウェンナも座るように促して、面接が始まった。
「動機等は問いません。ギルド職員――先ほどのやり取りから、受付をご希望かと思いますがよろしいでしょうか? 見た目は問題ありませんが……」
「はい!」
「(やっぱりギルドの受付さんって美人さんしかなれないんだ!)」
まあ……ギルドの顔だからな。
「女性の受付職員として最も気を付けなければいけないのは、男性冒険者との接し方です。中にはしつこく関係を迫ってくる愚かで野蛮な輩がいるのも事実。大丈夫ですか?」
最初に聞く内容がこれとは。
「大丈夫だと思います! これでも長く生きてますので、男性のあしらい方は得意なんです!」
「……そうは見えませんが」
「そんなことないですよ? それに、今は断る理由がありますから!」
こちらを見てウインクを飛ばすロルウェンナ。
「中にはとても威圧的な男性もいますが……」
「ん~……それって『カース・フェンリル』とかよりも怖いです?」
「へ? そんなことはないかと思いますが……」
「なら大丈夫です! 私こう見えても怖いモンスターとたくさん戦ってきたんですよ!」
「なんと……」
そう言えばマールやロルウェンナのことちゃんと説明していなかったな。俺との関係ばかりで。
「私とマールちゃんは瘴気が発生する近くの里で、『カース種』を倒す中心的役割を果たしてきたのです!」
「そうなんですか?」
「はい! ついでに人生経験もそこそこ豊富なので、いろんな相談にも乗れちゃいますよ!」
「……なるほど。その度胸と包容力があれば、荒くれ者の冒険者たちも一瞬で手懐けられそうですね」
とはいえ、人生経験と言えば100年も生きているリエラの方が豊富だろう。
ロルウェンナも40代とはいえ、そのほとんどを里で過ごして来た訳だし。
「……ちなみに、意中の男性が突然別の女性を――それも2人も連れてきたらどうします?」
どこかで聞いたような話の相談が始まったんだが。
◇◇◇◇◇◇
「ということでぇ! ギルド職員に採用されました!」
あの後恋のお悩み相談が始まり、だんだん愚痴大会になったところで俺は退出。
それからしばらくして出てきたロルウェンナ、無事に採用されたらしい。
「よかったな」
「はい! ついでに職員用の宿舎にも泊まれるように手配してくれるそうなので助かりました!」
どうやらちゃんと事務的な話もしたらしい。
「新たな門出だ。俺も助力は惜しまない。何かあればすぐに言ってくれ」
「うふふ、ありがとうルシアンくん! 頼りにしてるね……色々と♡」
「(消す?))
「(頼むからやめてくれ……)」
認めよう、迂闊だったと。
まさかロルウェンナがここまで付いてくるとは思わなかったのだ。
「(これに懲りたら、誰彼構わず女の人に鼻の下を伸ばすのはやめるのよ?)」
「(誰彼構わずでは――いや、なんでもない。心しておくよ)」
ロルウェンナがいい女だったから、などとミラに言っても怒りを買うだけだ。
『賢者は黙して語らず』である。
「でしたら早速ですが、ルシアン様に最初の利用者になっていただきましょうか」
「ん?」
「別の用事があっていらしたのでしょう? ロルウェンナさんの受付嬢として初めての業務にご協力ください」
「ああ、そういうことか。いいだろう」
今回の件でリエラも俺に対していい意味で緊張感を払拭できたようだ。
これまでずっと赤面でどもっていたからな。
「初めて……緊張しちゃいますね! 優しくしてね、ルシアンくん……♡」
「……うむ」
「(は?)」
いかん、ミラがまた人化しようとしている。
厄介なことになる前に要件を済ませよう。
「では……俺たちは『退廃の腕』のような瘴気が溢れている場所を探している。邪神の一部が封じられているような、な」
「なるほどなるほど~! ということです、ギルド長!」
「ほう、やるな。自分では対処できないことは上司を頼る。基本的だが大切なことだ」
「でしょ!」
「(甘すぎない?)」
「(知らなかったのか? 俺は褒めて伸ばすタイプだ)」
褒めて伸びないタイプは、“書き換え”る。
「……瘴気、ですか。でしたらちょうどいい情報があります。邪神と関係あるかはわかりませんが……」
「構わない。聞かせてくれ」
「はい。実は最近、迷宮都市国家『キサトラネム』のとあるダンジョン奥で急に瘴気が発生する事態が発生したのです」
「ほう?」
ある日突然瘴気が発生したということか。
瘴気の発生の原因はなにも邪神だけが理由ではない、気にはなるな。
「現在ギルドとしても緊急依頼として原因の究明にあたっているのですが、なにぶん狭いダンジョン内で強力な『カース種』に苦慮しています」
「ダンジョンか……久しぶりに潜ってみるのも悪くない。マールとアイリスはどうだ?」
「我はいいぞ! ダンジョンは話でしか聞いたことないからな! むしろ行ってみたい!」
「私も問題ありません! 困っている人もいるでしょうし」
ならば決まりだな。
「では私の方でルシアン様宛に『指名依頼』を出させていただきますね。そのダンジョンは現在Bランク以下は立ち入り禁止ですので」
「頼む」
未だに俺はFランクだからな。
昇格試験を受けるのがめんどくさい。
「『指名依頼』、ですか?」
「はい、ロルウェンナさん。ギルドを介した依頼は基本的には誰でも請け負うことができるのですが、こうして対象を指定することもできるのです」
「なるほど~。でもどうしてわざわざ? それなら個人的にお願いすればいいんじゃ……」
「事情は色々ありますが、1番は第三者であるギルドを介することで報酬などの保証が得られることが挙げられますね。その分手数料がかかりますが」
今回のように、本来は参加資格がない依頼を受けるために『指名依頼』とすることもある。
他にもあるが、まあいいだろう。
「では冒険者証をよろしいですか? ロルウェンナさん、依頼書の発行は――」
手続きのやり方を教える様子を眺めながら冒険者証を手渡す。
木製の、“F”と大きく刻まれた冒険者証だ。
「あいつ……Fランクのくせにギルド長から指名依頼だと……?」
「しかもあんな美人な受付嬢と知り合い……一体何者だ?」
「知らねぇのかよ。あいつはな……『伝説の掃除屋』だ」
遠巻きで俺たちのことを見ていたらしい冒険者たちがコソコソと話しているのが聞こえた。
最後の奴は前来た時にいたのだろうか。適当なことを言っているが。
「――これでよしっと! こちらが『指名依頼書』です! ルシアンくん、気をつけてくださいね」
「ああ。ここに戻る約束をしているからな」
『ただいま』を言いにこなければいけないんだと。
リエラもいることだし、しばらくはこのギルドを利用するとしよう。
俺に距離は関係ないからな。
さて――。
「母上、その調子で頑張るのだぞ! 我もルシアンの横で頑張るからな!」
「うん! マールちゃんも気を付けてね!」
「うむ、行ってくるぞ!」
「いってらしゃい!」
次の目的地、迷宮都市国家『キサトラネム』へ。
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12時10分頃
20時10分頃
となります!




