第23話 黄金の蝶と、未来への翼
――翌朝。
「よしっと! それじゃあ行きましょうか!」
声を上げたのは、旅支度を終えたらしいロルウェンナだった。
「母上? どこに……?」
「もっちろん、あなた達と一緒に!」
「んなぁっ!?」
これには全員驚きを隠せなかった。
「(ねえ?)」
「(……なんだ?)」
「(あんたのせいでしょ?)」
「(………………いやあ?)」
「(ロルウェンナさん、つやつやしてるもの)」
「(はは、俺の『魂贈与』のおかげかな!)」
「(魂だけじゃないでしょ! あげたのは!)」
ミラは勘違いしている。
あれは魂の安定には濃厚な接触が必要だっただけである。しかしそれを指摘するのもミラがかわいそうなので黙っておいてやろう。
それよりも、ロルウェンナのことだ。
一緒に旅立つという話、昨夜はしていなかった。
「……巫女としての役割も無くなったじゃない? だから……私もこの村を出たいなって」
「母上……やはり父上とはうまくいってなかったことが……?」
マールの話から推測するに、亡き父は“大切な存在”ではない、つまり関係はよくないものだと思っていたが、どうやらその通りのようだ。
「うん。あの人も結局村長さんと同じ、私を道具のようにしか見てなかった。時には……村長さんに差し出されたことだって……」
「(はいあのじじいの死刑決定! こんな村滅ぼしちゃいましょ!)」
村人全員がそうって訳じゃないだろうに。
だがまあ、そう言うことなら同行するのは別としても、ここから連れ出した方がいいだろう。
彼女が安心して過ごせる場所が見つかればいいが。
それと――。
「今も苦痛に苛む過去の記憶など不要だろう。その過去の記憶をなかったことにできるが?」
「なかったこと……記憶の操作ということかしら?」
「その通りだ」
マールと同じく巫女を務めていたロルウェンナ、魔法についての理解はあるようだ。
「……ん~……なら、村長さんのこと全部忘れたいかな」
「村長だけでいいのか?」
「うん。あの人との生活も辛かったけど、それがあるからこそ次に思いを寄せる男性への気持ちが深まるなって!」
「……わかった。『真魂顕現』」
それもまた1つの真理だろう。
苦い経験があるからこそ、輝くこともある。
だが、あの村長は成長の礎にもなれない、無駄な存在だったということだ。
「終わったが、どうだ?」
「……ん~……よくわからないかも!」
それもそうだったな。記憶を消されたかどうかなど本人にはわからない。
「それじゃあ気を取り直して、出発しましょ!」
「あ、うむ……母上、本当に行くのか?」
「もっちろん! マールちゃんが心配だしぃ~!」
「その……な、『ちゃん』付けはやめて欲しいというか……いつまでも子ども扱いしないで欲しいと言うかな……」
なんとなく明るくなった気がするな、ロルウェンナ。
しかし……意味深にこっちを見てウィンクするのはやめていただきたい。
「(一夜の過ちであれば、赦す。さもなくば――)」
「(…………)」
「(消す)」
記憶を、だろうか。
魂を、じゃないだろう。さすがに。
少しばかり恐怖に震えながら外に出ると、何人かの村人が目の前にいた。
「ロルウェンナさん、マールちゃん。聞いたよ、里を出るって」
「この里の役目も終わり。わしらもどっかに行こうかねぇ~」
「あんたも羨ましいな。そんなに美女を引き連れてよ!」
「っていうかロルウェンナさん角は……? なんだか若返ってるみたいだし!」
村中の人が見送りに来てくれたみたいだ。
「角はね、ルシアンくんが取ってくれたの」
「なんと! まるで、辛かった役目と共にここに置いて行けと言わんばかりじゃの!」
「うん!」
このおばあさん、なかなか洒落たこと言うな。
微笑ましく思っていると、村人のなかに村長らがいることに気が付いた。
「ま、待て! マール様……それにロルウェンナ様も!」
「えと……どなたでしたっけ……?」
「な、何を……?」
きょとんとした顔のロルウェンナ。対する村長は信じられないようなものを見る顔をしている。
こういう自尊心の高いやつには、相手にされないことの方が堪えるだろう。
「ん~、よくわからないけど! 心に羽が生えたみたいに軽い!」
「ま、待ってくれ……」
「それじゃあ失礼しますね! みなさんもどうかお元気で!」
「置いてかないでくれ……」
既に誰からも相手にされていない村長。
ちなみに息子は焦点の合わない目で空を飛ぶ鳥を眺めている。
これからの人生を想うと……自業自得だな。
「(女の敵に容赦は必要なし!)」
「(同感だ)」
足取りの軽いロルウェンナを先頭に、名もなき里を出る。
もうここにはいろんな意味で来ることはないだろう。
「なんだかワクワクしちゃうね、マールちゃん!」
「あ、ああ……うむ」
「そうだ! ワクワクついでにそのお洋服の魔法使ってみてよ!」
「お?」
昨夜夜遅くまで俺とロルウェンナでいじっていた巫女服。
右側太ももの部分に手の平と同じくらいの蝶が金の糸で刺繍されていた。
「その刺繍はロルウェンナがお前を想って一生懸命縫っていたものだ。これから自由に舞い踊るマールに相応しいとな」
「うん! そのちょうちょにね、ルシアンくんが魔法付与してくれたの!」
母親の愛、それを生かさずして何が魔術師か。
我ながらいいものができたと自負している。
「(その母親と昨晩なにしてたんでしょ~ねぇ~?)」
「(…………)」
くっ!
「……魔力を服に通してみろ」
「わかった――おお! 蝶が飛んでいる!」
魔力を通すことで、刺繍の蝶に似た3匹ほどの金色の蝶が舞う。
「もちろん見た目だけじゃないぞ。『飛行』は使えるか?」
「もちろんだ! まあまあ難しいがの!」
「使ってみろ」
風属性に属する飛行魔法。バランスのとり方や速度など、複雑な魔力操作が要求される高度な魔法だ。
「む? おお! 何だかいつもより魔力が練りやすい!」
「そうだ。その蝶が周囲の魔素を整えるから、魔力の操作をしやすくなる」
「おお! これはいいじゃないか!」
それに加え――。
「見ろ! まるで鳥のように飛べるぞ!」
「そこは蝶って言ってあげた方が……あれ?」
「どうしたのだアイリス?」
「下着が見えません!」
「……スケベ――え? どういうことだ?」
「本当に何も……闇に吸い込まれるような……」
そう、下着はまるで黒く塗りつぶされたように見えなくなるのだ。もちろん、俺以外に。
「その蝶が幻覚魔法を起こして下着が見えないようにするのだ。裾は短めだからな」
「なんと! そんなに我の下着を他のものに見せたくないと!」
「む。何を言うか。魔術師の極致は、パンチラすら概念的に否定することにある」
「ルシアンもかわいいことを言うではないか! 安心しろ、我は既にお前だけのものだぞ!」
フライを維持したまま器用に抱き着いてくるマール。
巫女服の補助があるとはいえ、やはり優秀な魔術師だ。
「さて、マールの装備の状態も見れたことだし……さくっと『ライブラ』に向かうか」
「……またあれか……」
マールの不安げな顔を横目に、魔界への次元を開いた。
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7時30分頃
18時40分頃
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