第21話 若返りの秘術と、禁断の母娘丼
マールの家の客間にて、茶をいただきながら状況の説明をする。
話が終わった後、ロルウェンナは驚きながらも嬉しそうに笑って娘に告げた。
「よかったわね、マール。これで巫女の役目は終わり。あなたも好きに生きられる」
「その通り! 母上よ、我はルシアンと共に旅に出るぞ!」
「ええ! 本当に……よかったわね、マール……」
ロルウェンナ自身も巫女としての重責を担ってきたのだ。
辛い思いをしたこともあるだろうし、今も娘を羨んでもおかしくない。
しかしマールを見つめる眼差しは、一片の曇りもない慈愛に満ちたもの。
「ふふふ、マールったら……ルシアン様にそんなに引っ付いちゃって!」
「べ、別に……いいではないか!」
「そうね、まるで物語の英雄様みたいに助けられちゃったものね!」
「……べ、別に……ふん!」
『ふん』と言いながらも腕を放さないマール。
先ほど揉みしだいたときにも感じたが、圧倒的柔らかさ。
「(鼻の下! 伸びすぎ!)」
「(誰だって伸びる)」
しかしこの柔らかさを堪能する前にやらなければいけないことがある。
「失礼、ロルウェンナさん。少しいいでしょうか?」
「ルシアン!? まさか母上にも手を出すと!?」
「まぁ!」
それはいい考えだ。
ロルウェンナは年齢からは考えられないくらい色っぽい。いや、年齢相応とでもいうべきか。
マール以上の豊満な肉体に、持て余しているであろう性の波動。
彼女が望むなら、やぶさかではない。
「むっきー!(ばかぁー! ばかぁー!)」
「こほん。もしよろしければ、ロルウェンナさんの魔人化の影響を消し去ることができるのですが」
「へ? あ、はい……私てっきり……」
てっきり……何だというのだろうか。
もはやミラのペシペシなど露ほども気にならない。
「――いえ、そんなことが可能なのですか?」
「ええ。このままですと、魔人化の影響は止められません。近いうちに死ぬ可能性が高い」
「……そう、ですね」
どうやらロルウェンナ自身も理解していたようだ。
「マールは……?」
「彼女くらいの状態はちょうど釣り合いが取れていますので。魔法を使うという点で言えば、むしろ通常の状態よりもいいとも言えます」
「そうなんですね! では……マールちゃんと同じくらいにしてもらえると嬉しいです!」
ロルウェンナは本当に娘を大事に思っているようだ。
その証拠に、遂にマールちゃんと呼んでしまった。
俺らの前では遠慮していただけで、普段はそう呼んでいるんだろう。
「では失礼して――『真魂顕現』」
ロルウェンナの魂を表出させ、その情報を書き換える。
破壊せざるを得ない部分もあるので、その分を『魂贈与』で補う。
「(あー! また自分の魂削ってる……)」
「(いいだろう。寝たら直る)」
「(そういう問題じゃないよぉ~……)」
ミラの言いたいことはわかるが、この程度でロルウェンナが治るのなら安いものだ。
そして最後に――。
「んっ――んあああんっ!? だ、だめルシアンさまぁっ!? らめぇぇぇ! は、入ってくりゅぅぅぅ!!!」
「(終わり! もう終わり! 魔力の供給終わり!)」
アイリスの時と同様、魔力の譲渡である。
しかしロルウェンナ、色っぽすぎる。
「……ルシアン様……」
アイリスを見ると彼女も状況が理解できているようで顔を赤らめている。
「はぁはぁ……い、イっちゃいましたぁ~…………あれ?」
「……母上、何も申しませんが、鏡をどうぞ」
角が落ち、肌に張りが戻った彼女は、母というよりも、姉妹と言った方が合っている。
未亡人の色気はそのままに咲き誇る大輪の華のようだ。
「まあ! マールちゃんそっくり! それにお肌や角も……」
術は無事に成功、これでロルウェンナのことは何も心配ないだろう。
心配なのは、母親の痴態を目の当たりにしたマールである。
「(わかってたんなら別室に行っててもらえばよかったのに)」
「(…………)」
「(それよりもさ、『魂贈与』控えたら? ロルウェンナさん『この御方は自分の命を削って私のために……なら、この命も体も全て彼に……』とか思っちゃてるよ?)」
「(…………)」
ミラよ、人の心を読む出ない。
しかしロルウェンナもさすがは先代巫女、俺が魂を分け与えたことがわかっているらしい。
「本当に嬉しい……そうだ、お礼に母娘丼をお作りしますが、いかがでしょう?」
「はい!」
「(即答すなっ!)」
即答ではなく、じっくり考えれば許してもらえるのだろうか。
しかし期待とは裏腹に、本当に料理を作り始めたロルウェンナ。
「(残念だったわね! ぷぷぷー!)」
「(……腹も減っていたし、ちょうどいい)」
彼女を待つ間、客間でゆっくり過ごしていたのだが……。
「……マールさん」
「何だアイリス」
「その……近すぎませんか? ルシアン様に」
「いいではないか」
役目から解放された反動か、それとも元からの性質か、ずっと俺の腕にしがみついて寄りかかっているマール。
魔人というより犬みたいなやつだ。
「よ、よくありません!」
「我は今回のことで気が付いたのだ。幸せは自分で手に入れるものだと!」
「なっ!?」
「故に我は遠慮せん! 全力でこの幸せを享受する!」
「そんな……これが『遠慮しない』ということ……私、負けてる……?」
「わっはっは! 出会ったのはそっちが先だが――」
「いいえ! 私も負けません! 失礼します!」
反対の腕にしがみついてきたアイリス。
マールと比べて小ぶりだが、より主張のある感触が伝わってくる。
「きぃー! (ちょっと! 何でアイリスまで! 放しなさいよぉ!)」
「ミラさんにも遠慮しません!」
「ふふふ、2人とも我の武器には勝てないということがわからぬのかの?」
「むっきぃぃぃ!!!」
「いえ! ルシアン様は私の胸の方が好きなはずです! ですよね!?」
「そんな訳ないだろう! さっきの村の男どもの視線を見たか!? みな羨ましそうに……なあルシアン!?」
みんな違って、みんないい。
◇◇◇◇◇◇
――その晩。
親子丼(文字通り)をいただいてしばらくゆっくりしていると、マールが問いかけてくる。
「この後は……どうするのだ?」
「ああ。実は『退廃の腕』のように、邪神の一部が封印されている場所に行こうかと思っている」
実は先ほど、邪神の魔石を少しだけミラが吸収したのだが。
やはり邪神の魔力は質がいいらしく、ミラの魂定着にも効率がいいとわかった。
そのため、別の邪神の部位を探そうと思ったのだ。
「そういうことじゃ……むぅ~……」
「マールさん、ちょっと……」
「何だアイリス……え?」
アイリスがマールを手招きし、コソコソと内緒話をしている。
「……そんなまさか!?」
「はい。なので……ミラさん待ちです」
「そ、そうか……ま、まあ! 我は待つことに関しては一家言持ちだからな! 問題ない!」
「その割には残念そうですね。わかりますけど」
何を言っているか見当つくが……ここは黙っておこう。
どうやらマールが聞きたかったのはこれからのことではなく、“今夜”のことだったらしい。
「マールちゃん、明日にはもう行っちゃうの?」
すると別室で何かをしていたらしいロルウェンナが、手に何やら黒い布を持ってきた。
「母上……そうだが、『ちゃん』付はやめてくれと……」
「なら、はいこれ」
マールの言葉を無視し、ロルウェンナが手渡したのは服だった。
黒地に浴衣のような巫女服。襟、袖口、裾と帯が赤く染色されている。肩から二の腕にかけて縦に開くスリットが動きやすさを損なわないようにしているようだ。
「これは……?」
「これね、いつもの巫女服じゃなくて……邪神が復活した時用の戦闘服なの。でも、もう必要ないから……マールちゃん、着て行って」
「母上……」
どうやらマールが知らなかっただけで、ちゃんと邪神への対処も考えられていたらしい。
なかなか質のよい素材で作られているな。
「いい品ですね。これに少しだけ魔法を付与しても?」
「もち――」
「そんなことまでできるんですかルシアン様! でしたら私も一緒に作業させていただいても!?」
マールの言葉を遮り、すごい勢いでロルウェンナが食いつく。
俺の両手を取り、キラキラ輝く瞳を向けてくる。
「あ、ああ……もちろん。マールよ、いいか?」
「……いいけど」
「では――」
その後、俺が付与魔法を施す傍らでロルウェンナが裁縫で浴衣に装飾を施した。
なかなかうまいもので、金糸で蝶を形作っていく。さすがの手腕(文字通り)だった。
夜も更け、近くで作業を見ていたアイリスたちも全員寝床に向かってしばらく。
さすがの手腕(意味深)だった。
しかし陥没ではなかった(だが、それもいい)。
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次話の投稿は
18時40分頃
となります!




