第19話 顕現せし希望の正妻と、青い空
「アイリスもマールも、下がってなさい。ルシアンの隣は、あんたたちにはまだ早いわ!」
その言葉と共に現れたのは、ミラの本来の――人化した姿。
月光のような、透明感のある長い銀髪。深い漆黒の瞳は、吸い込まれるような神秘的な魅力を放つ。
肌は透き通るように白く、少し病弱な印象を与える、
リボンを媒体に顕現した、黒を基調としたゴスロリ服に身を包んだ、人化したミラだ。
「ミラさん……なのですか?」
「う、美しい……」
「そうよ? かわいすぎてびっくりしちゃった?」
アイリスたちに対して胸を張るが、誰に対抗してか巨乳の姿。
本当は絶壁――いや、みなまで言うまい。
本来の姿と異なる形状を維持するために、その分多くの魔力を消費しているな。
「あんたらはそこで見てなさい!」
「――はっ!? ミラ!? 本当に大丈夫なのか!? 相手は邪神――!」
マールの言葉に返事は返さず、ミラが結界の外に出る。
そして――。
「とぉぉりゃあああっ!」
「――――ッッ!?!?」
邪神を思いっきり殴りつけた。
その威力は、叩きつけられた地面が大きなクレーターとなるほどだ。
だが真に恐るべきはそこじゃない。
ミラが殴ったときに生じる、ガラスが割れるような音。その正体なのだ。
「まだまだぁ!」
自身が吹き飛ばした“右手”の元へ、ふわりと跳躍。
人差し指を掴み、何度も地面に叩きつける姿はまるで人形で遊んでいる様。
ミラによる蹂躙が始まった。
「す、すごい……!」
「し、しかし……あれほどの瘴気に触れても大丈夫なのか……?」
マールの懸念、それも当然だ。
魔界の瘴気同様、あの“右手”に触れてしまえば、常人なら一瞬で魔人化する。
「ミラは1度死んで生き返った身――つまり、死すらも『拒否』する概念を有している」
「死を拒否……? どういう……?」
「そうだな……簡単に言うと、ミラは望まないものを拒否するできるし、拒否したいものを概念的に破壊できる」
「……なるほど!」
アイリスは思考を放棄したようだ。
逆にマールは興味深そうに観察している。
「概念……魔術……そんなことが……」
「それこそが神々の戦い。これはその一端だ」
その演目としては、少々あの“右手”では役者がが足りないが。
「ミラが殴りつける際にガラスの割れるような音が響くのがわかるか?」
「あ、ああ……」
「あれは“右手”の存在を拒否――つまり魂そのものを破壊している音だ。“右手”の存在そのものが欠けているだろう?」
「……す、すごい……!」
感嘆の声を上げるマールだが、彼女も本当の意味では理解できていないだろう。
だが、未知の発見、そして謎への挑戦。それこそが魔術師としての本懐だ。
「うりゃうりゃうりゃうりゃーーー!!!」
「~~~!? ―――ッ!!」
ミラの連撃に対し、“右手”が必死の様子で黒炎を噴出する。
しかしミラに届く瞬間、ガラスをひっかくような音とともに雲山霧消する。
「効かないわ! けど、お返し!」
「――ッ!?」
「さぁ、最後はあんたが決めなさい! ルシアン!」
「――――ッッ!?」
まるでボールのように、地面に叩きつけられてバウンドした“邪神の右手”をこちらに向かって蹴とばすミラ。
まあいいだろう。
「『万象反転・神魔転生』」
『退廃の腕』中の瘴気を魔石に変換しているように、邪神の存在そのものを書き換えて魔石へと変換。
「じゃ、邪神が……魔石に!?」
最早瘴気の原因となている邪神の“右手”は既に存在しない。
蹴とばされた勢いのまま、大きな音を立てて地面に深々と突き刺さった巨大な黒い魔石があるだけだった。
これほどの大きさの魔石、大国の国家予算程度にはなるだろうか。
ミラの人化3回分くらいだろうが。
「やーっぱり! ルシアンったら、手が離せないなんて嘘じゃない!」
「…………」
たまには、というよりアイリスたちに対してミラの見せ場を作ってやりたいという優しさは伝わっていないようだ。
「……マール、そろそろこっちもだ」
嵐のような風と共に渦を巻き、魔法陣の中に吸い込まれていく『退廃の腕』一帯の瘴気。
黒い霧が、徐々に薄くなっていく。
「どんどん黒い霧が晴れて……空が……!」
「……ああ!」
そして――。
「――終わったぞ」
「……ルシアンも間違えることがあるのだな」
「何?」
「始まったんだ……我の運命が!」
黒い霧が晴れ、青い空の元。
マールの唇が頬に触れた。
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