第17話 封建的な里と、震える巫女の指先
「歓迎しよう! ここが『退廃の腕』の瘴気を封じる我が一族の里だ!」
マールの暮らしていた里、そこは石造りの壁に民家が立ち並ぶ普通の村だった。
「(思ったより普通ね。てっきり木と藁でできたお家ばっかりかと思ってたわ!)」
失礼だが、俺もそう思っていた。
だがこのような場所に居を構えるとなると、頑強にしなければやってられないのだろう。
村を囲む石壁にも保護魔法が幾重にも施されている。
「マ、マール様!?」
「マール様が戻られたぞ! 急ぎ村長に知らせよ!」
「マール様! どうぞ中にお入りください!」
マールの存在に気がついた門兵が慌ただしく叫び出す。
「そなたらもしばらくこの里で寛いでくれ。我が直々に持て成そう!」
「お前が話を聞きたいだけだろう?」
「……まあの!」
魔法のことになると楽しそうな笑みを浮かべるな。
短い付き合いだが、彼女がいかに魔法好きか理解できた。
「ここが我の家だ。母上ー! 誰かおらぬかー!」
「マール! マールったら……心配したんだから!」
「むぐぇ」
30代半ば程の母親らしき人が飛んできてマールを抱きしめる。マールの年齢を考えればもっといっているのだろうが……。
マールをそのまま成長させたような、美しい顔立ちと爆乳だ。彼女も陥没なのだろうか。
一方で、髪の毛と瞳の黒の比率は多く、ほとんど瘴気に侵された状態だというのがわかる。さらに頭からは真っ黒で歪な角が左右アンバランスな長さで生えてきている。
どうやら、先は長くなさそうだ。
「マールったら……無事でよかった……あの人と同じような目にあったと思ったら……本当に心配だったのよ……!」
「……すまぬ」
男の生活している気配は感じない。どうやら母親のセリフからも父親は亡くなっているようだ。
先ほどマールは大切なものは失っていないようなことを言っていたが……。
「あ、あら? この方たちは……」
「彼らはルシアンという魔術師で、実は――」
場所を玄関から客間へと移し、マールが事情を説明する。
散歩していたところ悪い貴族に誘拐されて俺に助けられ、ついでにここまで護送してもらった、と。
「まあ! そんなことが……ありがとうございました、ルシアン様。私、マールの母のロルウェンナと申します」
「いえ、美しい女性が困っていたら助けるのは当然ですよ。ははは!」
「(何そのキャラ、喋り方キモイんですけど! 鼻の下伸びてるしっ!)」
口には出さないが、マールやアイリスも目を見開いて俺を見ている。
「しかし巫女殿、少々迂闊でしたな。万が一その貴族に処女を散らされていたとしたら……次代の巫女が生まれない可能性があったのですぞ!」
「村長……面目ない」
マールが戻ってきたと知らされたのだろう、いつの間にかここにやってきていた村長とやらが、言葉は丁寧だが威圧的な態度でマールを叱責する。
「(どういうこと?)」
「(恐らく処女信仰の一種だろう。処女の血は魔力媒体として優れているという迷信から、優れた子を産むのに処女であることが求められている。割とよく聞く話だ。全くのデタラメだがな)」
「(ふ~ん? それが本当なら、私とルシアンの子も――何てこと言わすのよばかぁー!)」
「(勝手に言っただけだろうが!)」
今のは俺、悪くないよな?
「こんな事態があったのです。そなたの希望で先延ばしにしていた我が息子ダニーとの子作り、今夜にでもおこなってもらいたい!」
「それは…………いや、せめて彼らが旅立った後にしてもらえない、だろうか……」
「何を言っておる! ダニーも巫女との子作りのために……そなたがいつ戻ってもいいように、ここしばらくは里の女に手出しせずに“聖力”を貯めていたのだぞ!?」
「だ、だが……」
マールの表情を見るに、そのことも里を出た一因のようだ。
ダニーとやらも、村長は良いことのように言っているが……ただのクズだろう。なんだ聖力って。ただの精力だろうが。
仕方ない、話に出たついでに少しだけ手助けしてやろう。
「失礼、マール殿は外の世界に、魔法の探求に興味がある様子。これを機に彼女が里を出ることを――」
「ならぬっ!!!」
「(――びっくりしたぁ! なによこのおじいさん急に大声出して!)」
威圧的な態度を隠そうともせず、村長が激高して続けた。
「巫女なしでは瘴気が溢れて世界が滅びる! マール様の役割は、巫女として世界を守ること! よそ者が口出しするな!」
「…………」
マールが何も言わず、悲しそうに顔を伏せる。
その運命自体は仕方がないと理解しているのだろう。
ならば、なぜ里を抜け出したのか。
なぜあんなに楽しそうに笑っていたのか。
「……確かに人は生まれ持った役割――王には王の、民には民の、巫女には巫女の役割がある」
「その通り! 里を出るなど許されぬ! 無理に決まっているだろう!」
「……マールよ、お前はどうしたいんだ?」
悲しげな顔をさらに歪ませ――しかし数瞬の後に取り繕ったように笑いを浮かべる。
「……我はこの里の巫女。なればこそ、責務を果たすのみ! ルシアン、気遣ってくれてありがとう……」
その指先は微かに震えていた。
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