第15話 位相転移と、里から逃げた巫女
次の目的地。
マールの里帰りの手伝いとミラのご飯(魔石)補充のために禁足地と言われる場所に向かう。
「あ、ああ。『退廃の腕』は『フゾスタール』という国の奥地にある。あのヒキガエルの家からだいたい1週間はかかるはずだ」
「まあまあ遠いな」
「まあの」
魔界の倉庫から出て、適当なところで立ち止まる。
「この辺でいいか」
「何をして……そうか、また次元を裂いて――んなっ!? あれは『フゾスタール』の王城!?」
「魔界は次元が不安定と言っただろう。それを利用して、こうして転移しているんだよ」
これを俺は『位相転移』と呼んでいる。厳密に言うと違うが、まあ似たようなものだ。
「なぜだ!? どうしてだ!? 1週間はかかる距離だぞ!? そんなことがあっていいのか!?」
「不可能を可能にするのが魔法だろう」
「ならば我にもできというのか!?」
「いずれできるだろう」
「…………そうか」
怒ったり考え事したり忙しいやつだ。
だがこうして考え込むということは、彼女なりに成長しようとしていること。
素直な奴は嫌いじゃない。
「(ふぃー! やっぱりこっちは落ち着くわね! 魔界は相変わらず息苦しいもの!)」
「(瘴気、それに魔素の濃さが段違いだからな)」
次元の裂け目を超え、フゾスタールの王城が遠目で見えるところに降り立つ。
『退廃の腕』の場所は知らないので、後はマールに案内してもらわねば。
「マール、案内頼む」
「……それがのう……」
何やら言いにくそうにもじもじしているマール。
「我は里から出たことが無くて……詳しい場所がわからんのだ。誘拐されたときは馬車の中であったし……」
「……そうか」
「さ、里の決まりでな! 巫女となるものは外に出てはいけないと決められておる!」
そう言うことなら仕方がない。
しかしよく『フゾスタール』の城のことはわかったな。
「それは……お辛いでしょう?」
「アイリスよ、そうなのだ! 我は里の決まりに従うのが嫌でちょっとだけ抜け出して……その先でバルトスに捕まってもしもうて……」
掟に逆らって里を抜け出た日にたまたま誘拐に合うとは。
マールもなかなかツイていないらしい。
「その里の方向、恐らくだがあっちだな」
「わかるのか!?」
「ああ、だいたい10キロってとこか。濃い瘴気を感じる」
「10キロ先の瘴気を感じられてたまるか!」
「探知範囲を広げただけだ。普段はさすがにもっと狭い」
「伸ばせて1キロだ!」
まあまあやるじゃないか。
リエラもそのくらいと言っていたはずだし。
「まあまあ、方向も分かったことですし! 歩きながら話しましょう! 私、マールさんのこともっと知りたいです!」
「アイリス……お主本当にいいやつだの。何が聞きたい? 何でもいいぞ!」
では、その陥没した――。
「里の……巫女さんは何をしているのですか?」
「うむ。『退廃の腕』で発生した瘴気を結界内に抑える役目を担っておるぞ。巫女というのは、その魔術を中心になって行う者だ!」
「なるほど、だからそんなに魔法が得意なんですね!」
「まあの……と言いたいところだが、こいつのせいで我などまだまだだと悟った」
それは素晴らしいことだ。
上達へのは、自分の未熟さを見つめるところから始まる。
「でも、どうして里の外に出てはいけないのです?」
「瘴気はいつどこで爆発するかわからんからの……いつでも対処できるようにな。それと危険な魔物にも対処することもある」
「そうなんですか……あれ? じゃあ今頃里は……?」
「先代の――母上が変わってくれているはず……多分……」
まあ、そうだろう。
巫女と言っても特別な力があるとかではなく、ただ生涯を瘴気への対処に捧げさせられている程度の物らしい。
しかし、だからこそ抜け出したくなる気持ちもわかる。
「別に、お前じゃなくてもいいんだろ?」
「…………」
「魔法の能力に優れていれば、お前じゃなくても」
「……そうなのだ。ただ、我の家系が最も優れた魔力を宿すからと……その程度のことで一生里に縛られる。里から出るな、1歩も出ちゃダメだと」
ほう。
「だから、抜け出してやったのだ!」
「わかるぞ。ダメだと余計に言われたらやりたくなるのが人間だ」
「うむ! その通り! 例えこの逃亡が禁忌だと言われて、我は後悔していないぞ!」
先ほどは禁忌はダメだ禁術もダメだと言っていたはずのマールだが……この短時間で考えが変わったらしい。
精神は大人だが、成長速度は今の見た目通りらしい。
「気を付けよ。そろそろ瘴気の影響が出てくる場所だ」
「何だか息苦しいかもです……」
話しながら進むこと数時間ほど。
マールの住んでいた里とやらはまだ見えないが、他の場所よりも数段瘴気が濃くなってきている。
「1つ気を付けなければならぬことがあっての」
「マールさん?」
「……我々は瘴気を抑えることはできるが、その影響を受けたモンスターを閉じ込めておくことはできん」
「というと……」
「つまりな、瘴気に侵されて通常よりも強く狂暴化したモンスターが出てくるかも知れぬということだ」
「……『カース種』、ですね……」
かつてアイリスを死の淵へと案内した『カース・フェンリル』。
彼女にとっては苦い思い出だろう。
「ま、まあ……この辺はまだ問題ないだろうが……の」
『カース種』はより本能的な生き物である。
自分より弱く、おいしい魔力の持ち主を見つければ一目散に寄ってくる奴らだ。
ということで――。
「お、噂をすればお出ましだぞ。魂の構造から――恐らく『カース種』だろう」
アイリスの剣を握る手の力が、強くなるのを感じた。
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次話の投稿は
21時10分頃
となります!




