第14話 禁忌の倉庫と、毛玉(ヒロイン)の正体
「行くって……」
「そりゃあ、マールを送っていくんだろう?」
いいながら、空間を裂くように手刀を切る。
「これは……!?」
「なんと……」
「裏の世界――通称魔界だ」
切り裂かれた割れ目から見える、赤い空に真っ黒な地面や木々。
それだけでこちらの世界――現世界とは異なるものだとわかる。
「な、何だか息苦し……うぐっ!」
「おっと、すまない」
胸を押さえて座り込んだアイリスを魔力で包む。
アイリスは魔力に関して常人レベル、漏れ出た瘴気だけでここまで影響があるということを忘れていた。
「行けるか?」
「は、はい……すみません」
アイリスとマールを連れて裂け目の先、魔界へと侵入する。
感じられる気配と魔力、どれもが現世界のやつらとは比べ物にならない。
現世界でのSランクモンスターなど、ここでは最下層クラスだ。
「俺から離れるなよ。これだけの瘴気の濃さ、人間なら即モンスター化する」
「そう、なんですか……? 今はあまり感じませんが……」
「そりゃあ俺の魔力で守ってるからな」
地面や木々が黒いのも全て瘴気の影響だ。
かつて戦った『死の森』のカース・フェンリルの魔石も多少黒かったが、こちらの生物と比べれば全然だ。
「ここが俺の倉庫だ。中は安全だから、好きに動いてもいいぞ」
「お邪魔します……あれ、見た目より広い……」
「魔界は次元が不安定でな。それを利用して中の空間を広げている」
「次元が……不安定?」
見た目は小さめの一軒家。
中は……だいたい100メートルずつだろうか。
「ああ、だからこの世界では強固な魂の持ち主しか生存できない。俺もかつては苦労したよ」
まだ15歳くらいの頃だったか……魔界に入るたびに肉体がひしゃげたものだ。
今は逆にそれを利用するまでに至ったが、当時は大変だった。
「つまり……不思議空間ってことですね!」
「……それでいい」
魔術の腕と理解はいまいちらしいアイリス。
逆にマールはどうだろうか。
「ん? なんだ?」
「いや……案外落ち着いてるなと思っただけだ」
「ああ。我の一族は禁足地『退廃の腕』において瘴気を抑える役目を担っている。故に――」
「故に?」
「ここのヤバさとお前のヤバさが理解できている。もう考えることは諦めた!」
「……そうか」
魔術師において思考を放棄することは死を意味する。
後でこってり絞ってやろう。
「ミラよ、早速ごちそうだ」
「(待ってましたぁー!)」
小屋に置いてあった大きな魔石、その上に飛び乗ったミラが魔石の魔力を吸い始める。
「あ、あの……もしかしてですけど、この魔石って……?」
「ああバルトスに貰ったんだ。これほどの魔石はそうそうお目にかかれない。この魔界でもな」
瘴気をふんだんに吸収したどす黒さ、そしてここまでの大きさを誇る魔石。
さぞや強力なモンスターであっただろう。
だからこそ、この魔石を宿していたやつを倒した存在が気にはなる。
「お、おい……これはなんだ!?」
倉庫の中を物色していたらしいマールが声を上げる。
「それは『隷属の腕輪』だな」
「『隷属?」
「ああ。さっきのおもちゃと違って、作成者――俺以外の魔力を一切通さない。加えて奴隷化と異なり、装着者の思考を操って積極的に尽くす奴隷になる」
「思考の操作!? それは禁術指定じゃ!?」
まあ。
「おい! これは何だ!? 尋常じゃない魔力が込められているぞ!?」
「ああ、それは単なる『極大炎球魔法』を連続で放つ杖だ」
「『極大炎球魔法』!? 炎属性の最高位魔法じゃないか!? それを連発で!?」
定型化された魔法など、最早興味も脅威もない。
「おい! これはダメだろう!?」
「ん? ああ、ミラ用の人体の失敗作だ」
「人体の創造も禁術指定だぞ!? どの国でも倫理的に禁止されているはずだ!」
「『倫理など糞くらえ』、お前も魔術師なら肝に銘じとけ」
どうも複雑な構造だとうまく魂が定着できないらしく、放置している人体だ。
魂の蘇生を成した当時、もう少しうまくやれていればこうはならなかったのだが……仕方がない。
とはいえ人体の作成自体は非常にうまくいったのでそのまま取っておいている。
「けっぷぃ!」
「あ、あんな大きな魔石がもう……ミラさんって食いしん坊なんですね……」
「きゅー!? きゅっきゅー!」
人語じゃなくてもわかる。『あんたに言われたくないわ!』、だと。
「その……ミラというのは……」
「ん? あの毛玉のことだ」
「そう言うことじゃなくて……」
マールが言いたいのは、ミラがどういう存在か、ということだろうか。
「ミラは俺の幼馴染で、昔病で死んでしまってな。今はもふもふの体に魂を蘇生させて定着させている。その維持に大量の魔力が必要なんだ」
「(あんたも、人を食いしん坊みたいに言わないで!)」
そうは言ってないが……。
「死んだ? 魂の蘇生と定着? 禁忌だらけではないか!」
「大切な人のためならば、禁忌くらい犯すだろう?」
「いやいや……何があってもやってはいけない、それが禁忌や禁術なのでは……?」
どうやらマールは大切な人を失ったことはないらしい。
その方が幸せでもあるが。
「禁術? 禁忌? そんなこと誰が決めた。無能が御せない力を怖がって名前をつけただけだろう。そんなものに縛られて生きていくなんてごめんだ。俺は俺の目的のためにやりたいことをやっているだけだ」
「……なるほど……」
なにやら考え込んでいる様子のマール。
彼女には彼女の抱えているものがあるのだろう。
「さて、用も済んだし『退廃の腕』とやらに向かうか」
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次話の投稿は
18時10分頃
21時10分頃
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