第13話 さらばひよこ――絶世の魔人と、国宝をオモチャ扱いする男――
――翌朝。
「お、おはようございます……ルシアン様……」
「アイリス、おはよう」
「こ、この服すごいですね! 寝て起きても皺1つありません!」
昨夜、胸だけとはいえ明確に男女としての関係を結んだ俺たち。
そのはずかしさからか、アイリスがごまかすようにワンピースの『付与魔法』に触れる。
「ああ。常に美しく、いかなる時も俺の大事な人を守るだろう。そう願いを込めた」
「ルシアン様ったら……! そんなこと言われたら……」
「(あーもう! アイリスたら完全に女の顔になってるじゃない! はぁーやだやだ!)」
“その存在のあるべき姿を固定させる”魔法を応用した『自動洗浄』に『自動修復』。
他にも物理的にも魔法的にも強固な守りを発揮する『絶対防御』に加え、こっそり他の男からの接触を弾く魔法も付け加えている。
俺は人の物を奪うのは好きだが、奪われるのは嫌いだ。
「(さすが、人の妻に手を出そうとした人は違うねー!)」
「(……あれは俺じゃない、分体だ)」
「(デートの約束したのはあんた本人でしょ!)」
む、つまり分体は俺のものに手を出そうとしたということか? 実に許しがたい。
やはり分体など作るもんではないな。
「そ、それで……今日はどうします?」
「実はやることが決まっていてな。おい、ひよこ!」
「ぴよぉ~……まだ眠いよぉ~……」
未だにベッドで寝ているマール。
こいつはたった2日で身も心もひよこになってしまったらしい。
「起きろ」
「へっ!?」
指を弾き、回復魔法で眠気を治して無理やり起こす。
「……まだ寝てたかったのにぃ~……」
「いつまで子どものふりをしているつもりだ?」
「……ふぇ? どうしたの、お兄ちゃん……?」
「いいのか? これ以上恥ずかしい歴史が増えても」
「…………」
しらばっくれる気だったらしいマールも、観念したのかその幼い見た目に似合わない表情で呟く。
「やはり……気が付いておったか」
「当たり前だ」
「マ、マールちゃん……?」
忌々しげにつぶやくマール。
彼女の豹変っぷりに驚くアイリスだが、今は放っておこう。
「……ということはお主! 知っててあんな辱めを!?」
「何のことだ? それよりも早く元の姿に戻れ」
「……むぅ。幸か不幸か、この首輪のせいで魔力が練れぬのだ……」
すると今度は悲しげな表情で首輪を指で摘まむ。
コロコロ表情が変わるところは、見た目通りの子どもみたいだ。
バルトスの毒牙にかからずに済んだのは、間違いなく幸運だろう。
「『奴隷の首輪』……」
「そうだ。里1番の魔法の使い手と自負している我でも、この首輪はとれなんだ……」
「バルトス……! 許せない!」
確かに、肉体を操作できるのはかなり高度な魔術、そして魂がないと成しえない。
マールが実力者であることは疑いようのない真実ではある。
その彼女を封印できていたということは、この首輪はかなりの質らしい。
とはいえ――。
「『奴隷の首輪』を外すのは簡単だろう?」
「何を――我とて何度も試したが無理だった。あのヒキガエルも言っていた、『国宝級の首輪だ』と」
「……ひどい!」
バルトスとしては、それほどこいつを大事に手元に置いておきたかったのだろう。
マールとしては嬉しくないだろうが。
「とりあえず、在るべき姿を現せ――『真魂顕現』」
「なっ!?」
「マールちゃんが……マールさんに!?」
半透明の精神体として、マールの本来の姿が浮かび上がる。
肉体を変化させることは誰にでもできるが、魂の姿を変えることは誰にもできない。それこそ神と俺くらいだろう。
本来のマールは大体25歳くらいか。
胸部も立派なものを持っており、非常に柔らかそうだ。
白と黒の色はそのままに、膝まで伸びた長い髪が特徴的。
きりっとした顔立ちは、先ほどまでぴよぴよ言っていたとはとても思えない。
「――そう、我の本来の姿はかような美しさを誇り――」
「ほれ、外したぞ」
「――んなっ!? あの首輪をこの一瞬で!? ヒキガエルが国宝と豪語していたものだぞ!?」
「まあ、多少は複雑な構造だったが……おもちゃと変わらん」
奴隷化の魔法回路を自身の魔力を介入させて破壊。
当然装着された本人がそれを行えば効果が発動して首が締まるが。
「今後のためにも教えておこう。『奴隷の首輪』を外すには、首輪の効果が発揮される前に一瞬で解除すること」
「いやだからそれができぬと――」
「それか、今のお前のように精神と肉体を分離させ、精神体で魔法を使い首輪を破壊する、だ。わかったか?」
「わかるか! まず精神が肉体と分離するとかの意味がわからん!」
「何言ってんだ」
この程度の魔法は本にも乗ってるし、使いこなす魔術師も何人か知っている。
ああそうか、マールは秘境で過ごしていたようだから、知らないのかもな。
「お前ならすぐできるさ。それよりも精神を肉体に戻して、見た目も戻したらどうだ」
「どうやって戻れと……あ、体に入れる」
肉体に戻ったマール。
そして体を先ほどの精神体と同じ姿に戻す。
「おお! これでようやく助かった実感が沸いたぞ!」
「それはよかったな」
しかし、マールは体を小刻みに震わせ始めた。
嬉しすぎて泣きたくなったのだろうか。
「感謝する……感謝はするが、しかし……! 先日受けた屈辱は忘れんからな!」
「何がだ?」
「何って……!」
「ちゃんと言葉にしないとわからん」
「……子ども用の食事を――」
「どんな?」
「……ハ、ハンバーグ――」
「情報は正しく伝えろ」
「……くまさんハンバーグとうさぎさんの茹でニンジンとママのミルクを我に与えたことだ! ひよこの服だってそうだ!」
「ああ、似合っていたぞ。ミルクも『おいちー!』って喜んでいたな」
「ふぬぬぬぅ~……!」
しかしいいのだろうか。
大人の体になったことでひよこ服は無残な姿になり、代わりに現れた豊満な胸が彼女の動きに合わせぽよんぽよんと躍っている。
俺の注意をそちらに逸らすという作戦なら、大成功だが。
「(2日連続でおっぱい拝めてよかったわね。しかも違う女の!)」
「(しかも巨乳)」
加えて言うなら、その先端は本人の気質同様にとても恥ずかしがり屋なようだ。
つまり、陥没。
これは希少だ。魔術的な観点から言えば、内向的な魔力の流れが肉体に作用した結果か。
いや、そんなことはどうでもいい。今はただ男として、その秘められた蕾を暴きたいという欲求の方が勝っている。
「マールさん! お胸が!」
「へ? んなぁ!?」
「と、とりあえずこちらを……私のお古で恐縮ですが」
「ふぐぅ……誰にも見せたことなかったのにぃ……」
恥ずかしそうに泣きながら、アイリスの古いワンピースを着るマールだが。
「き、きついな……」
「……ですね」
サイズが全く合わず、むしろぱっつんぱっつんに体のラインが強調されて非常にけしからんことになっている。
これで町中を歩き回れば、バルトスじゃなくても良からぬ考えを持つ者が寄ってくるだろう。
「とりあえず、アイリスくらいの年齢に体を操作して……」
「……胸のところだけサイズがあってませんね」
「もう少し……10歳くらいかの」
「怒っていいですか?」
「すまぬて」
息をするように肉体を操作するマール、やはり魔術師としては一流と言っても過言ではない。
そんなことを考えながら2人を眺めていると、『くるるるる』と腹が鳴る音が響いた。
「わ、我ではないぞ!?」
「私でもありません!」
「(~~~!!!)」
そう、犯人は――。
「ミラが腹をすかせたようだ。ちょうどいい、このまま旅立つとしよう」
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