第11話 くまさんハンバーグと、ぴよちゃん
バルトスでの件が落ち着き、後のことを全てリエラに任せた俺たち。
今は近くにある馴染みの町『ホイミラ』に来ている。理由は1つ。
それは――。
「お待たせしました。『くまさんハンバーグとうさぎさんの茹でニンジン~ママのミルクを添えて~』でございます」
そこの宿屋が、珍しく子ども向けの料理を出してくれるからだ。
くっくっくっ……喜べマールよ。
お前のためにここまで来てやったのだ。
「まあ! かわいいくまさんの形のハンバーグ! よかったね、マールちゃん!」
「わ、わ~い! うれしいなぁ~!」
「くまさん好きなの~?」
「う、うん……だいすきー!」
無邪気な笑顔を装いながらも、その下には恥ずかしさが見え隠れしているのを感じる。
「『ママのミルク』はおいちいですか?」
「お、おいちー!」
「ぶふっ!?」
しまった、つい噴き出してしまった。
「ルシアン様……?」
「す、すまない。少し水が気管に――コホン」
「まあ……お気を付け下さいね。ふきふきっと♪」
「ああ、ありがとう」
口周りを拭いてくれるアイリスの手つきが、子ども――マールにするようなものと同じ気がしてならない。
というか自分で拭けるのに……恥ずかしい。
「(ぷっぷー! 策士策に溺れるとはこのことねー!)」
「…………」
まだだ、まだ我が策はこの程度ではない。
夕食を食べ終わったところで、部屋へと向かう。
今回は3人部屋だ。
「……何だか、家族のお泊りみたい……ですね」
「そうだな」
顔を赤く染めて照れているアイリスには悪いが、今日はそういうことはしない。
さすがに子どもの前では、というのもあるし、何よりミラが許さない。
「(ねえ! 言っとくけど! アイリスとはまだダメだからね!)」
「(わかってるよ)」
一夜限りの遊びだったり娼館だったりするときはミラも何も言わないのだが、リエラやアイリスのように“本気の相手”との場合はこうして止められる。
「(私が最初! 絶対!)」
「(はいはい)」
そのおかげで俺には100年以上恋人と結ばれたことはない。
まあ、いずれにせよ今日の所は色っぽい展開にはならないのだが。
なぜなら――。
「マールよ、その服では寝苦しかろう。お前に服をくれてやる」
「へ? あ、ありがとうお兄ちゃん!」
「ほら……ひよこさんだぞ?」
どこからともなく取り出したのは、子ども用の薄い着ぐるみ状の服。
全身ピンク色をベースに、小さいひよこがこれでもかと描かれており、フードを被ると着衣した本人がひよこみたいに見えるかわいらしい洋服だ。
「まあ! マールちゃんに似合いそう!」
「か、かわいいなぁ~……うれしいなぁ~……」
「早速着せてあげまちゅね!」
「ひゃっ!?」
さすがアイリス、ただ者ではないと踏んでいたが……ものの数秒で着替えさせてしまった。
その身体能力、鍛えあげれば名を遺すものになるぞ。
「(服の着替えでそこまで言う?)」
「(何を言う。今の動きは、意思に対して体が完全に一致して動いていた――つまり、脳の運動指令が骨格筋に遅延なく正確に伝わり――)」
「(はいはい。それより見て! 本当にかわいいね!)」
視線をマールに戻すと、プルプルと震えながら真っ赤な顔で俯いている彼女が見えた。
「うむ、かわいいじゃないか。よく似合っているぞ」
「本当に! うふふ、かわいいひよこさんでちゅね~」
「あ、ありがと……」
耐えがたい羞恥に悶えながらも、我々の厚意を無下にできないとみえる。
「ほら、フードを被ると……まあ! かわいいひよこさん!」
「……うぅ」
「かわいいでちゅねー、ぴよちゃん♪」
「ぴ、ぴよ……」
「きゃー♪ かわいいねぇ! とうといねぇ!」
「ぴよぉ……」
マールを恥ずかしがらせるのが目的だったが、アイリスの意外な姿も見ることができた。
「(弟がいたって言ってたし、面倒見がいいのかもね)」
「(そのようだな)」
マールもマールでアイリスの包容力に安心したのか、すやすやと眠っている。
こうしてみると本当に子どもみたいだ。
「(『おいちー!』は傑作だったね! 今度からかってあげよっと!)
「(くっくっくっ……俺としては、なんだかんだひよこの服を気に入っているのがツボだ)」
恥ずかしそうにしながらも、何度も姿見をチラチラ見ているのに気が付かぬ俺ではない。
我ながらよきものを贈ったものだ。
「ふふ、見てください……かわいい寝顔ですよ」
「そうだな」
そうだ、今のうちにアイリスにも言っておかなければならないことがある。
「アイリスよ、明日の夜大事な用がある。今日と同じでマールを寝かしつけたら、な」
「――!? は、はい……はい!」
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次話の投稿は
18時10分頃
21時10分頃
となります!




