第10話 【悲報】大賢者ザイモスさん、瘴気に口を塞がれる。王女様はルシアンの匂いで現実逃避中。尚王妃は――
※王国側のお話になります。視点が切り替わっておりますのでご注意ください。
ルシアンがソニプロフェン王国を追放されてからしばらく経った頃。
「ねえあなた。最近物騒な噂を聞いたのだけど」
ルシアンの分体と、伴侶である王の目の前で情事を起こしかけた張本人である王妃。
彼女が声を落とし、そして少し遠慮がちに話しかける。
「……何だ」
「何でも、王都内で黒い靄がでたとか。わたくし心配で夜も眠れませんわ」
王とてその噂は耳に届いていた。
そして原因と現状についても。
「その件は既に我が宮廷魔術師長――いや、今は『大賢者ザイモス』と名乗っているのだったか……彼が対処している」
「……あの『大賢者』が?」
「そうだとも。彼に任せておけば何の問題もない。既にその正体が薄い瘴気だということを突き止め、浄化を施した」
自信満々に答える王とは対照的に、王妃の顔は優れない。
「でも……彼は頼りないというかなんというか……」
「何を言う! 彼こそはこの国の――歴代最高の魔術師でなのだぞ!」
「……ルシアンはいないの?」
「その名を2度と口にするなっ!!!」
「……申し訳ありません」
王妃とてバカではなかった。
魔術についてはさほど詳しくない彼女だったが、それでもルシアンの底知れぬ優秀さに気が付いており――そして気が付けば情事に及ぼうとしていたのだ。
「(どうにかして彼とコンタクトを取らないと……そうだわ)」
彼女が次に向かったのは、娘の部屋。
ルシアン本体と情事に及んでいた王女である。
「セシリアンナ、入るわよ」
「……はぁ~~~……」
返事の代わりに聞こえたのはため息。
扉を開け、そして王妃もため息をつく。
「はぁ。またあなたはそのネックレスを眺めてばかり」
「……母さん、ルシアンはどこ?」
「あなたも知っているでしょう。彼は王国を追放された」
「……私もついて行きたかった」
このやり取りも、既に何度交わしただろうか。
王妃は辟易しながらも、いつもと同じ言葉を返す。
「ダメに決まってるでしょう。あなたはこの国の王女として治世に励むことが決まっている」
「う~ん……」
「それに、あなたの婚約者であるアザビエルに知られたら……」
「え~? あの若ハゲと結婚とかほんと無理」
「セシリィ、お願いだからそんなこと言わないで」
本当にこの娘は、誰に似たのか。
そう思いつつも王妃は本題を切り出す。
「そのネックレス、ルシアンから贈られた物なのでしょう?」
「ん、多分ね」
「多分?」
「気がついたらベッドに置いてあったの。でもルシアンの匂いがするから間違いなし」
「…………」
貴金属に匂いが付くのだろうかと訝しむ王妃だが、今はそれに賭けるしかないのも事実。
首を軽く振り直し、娘に尋ねる。
「どうにか、そのネックレスを使ってルシアンに会えないかしら」
「は? 無理でしょ。意味わかんないし」
「そ、その通りだけど……なんかこう、魔術的な何かを使って……」
「どんだけ必死なのよ。てか母さんも未だにルシアン狙ってんの? ウケるんですけど!」
「…………違うわよ。何か胸騒ぎがして……」
王妃がそう言った瞬間、悪い予感が事実であることを示す叫びが聞こえた。
「きゃあああああ!?」
「な、何かしら!?」
耳をつんざくような、怯えるような女性の声が響き渡る。
「い、行ってみましょうか……」
「……うん」
さすがに尋常なことではないと、2人震えながらも声の元へと向かう。
幸か不幸か、声の主のメイドはすぐ近くにいた。そして原因も。
「お、王妃様……! これ、何ですかぁ~?」
「こ、これが……瘴気……」
見るのは初めてであったが、噂と王の話からその黒い靄の正体――瘴気だと見抜く王妃。
「瘴気?」
「あ、ううん。何でもないわ」
「ふぅん?」
ここにはメイドもいるし、めったなことは言わない方がいいと判断した彼女。
そもそも王妃も瘴気の正体を知らないのだ。
「どうしました!? むむ、これは……」
「ザイモスさん……大丈夫なんでしょうか」
「ははは! 心配いりませんよ王妃殿下、それに王女殿下も。この大賢者ザイモスが華麗に浄化してご覧いただきましょう!」
「お、お願いします」
不安を押しつぶされそうになりながらも、それでもザイモスを信じるしかない彼女たちは祈るような目で彼を見つめる。
その眼差しに満足した様子のザイモスが口を開く。
「“魔素よ、命の源たる魔素よ。我が願いを聞き届け、その姿を現せ。清浄なる空気、正常なる──ぬぐぅっ!?」
しかしザイモスが詠唱を始めると、その魔力に反応するように瘴気が動き出す。
しまいには、まるで意思があるかのようにザイモスの口に侵入しようとする黒い靄。
「ぬぐぉっ!? んごごご!?」
「え? ださ……」
「セシリアンナ!」
誰もが思っていたことだが、王女だけが口にしてしまう。
しかしそれに対する怒りで、ザイモスが戦意を取り戻した。
「――――カァッ! 正常なる場を! 『ピュリファイ』!」
ザイモスの魔法により、薄い瘴気がさらに薄くなり、やがて消滅した。
「はぁはぁはぁ……どうですか? 見事なものでしょう! 瘴気というのはとても厄介なもので常人には触れるだけで害を及ぼします! しかぁしっ! このザイモスの手にかかればご覧いただいたように、きれいさっぱり浄化することすら可能! 心配など無用です、どうぞ大船に乗ったつもりでお過ごしください! わっはっはっはぁー!」
「めっちゃ早口で喋るじゃん」
呆れながらもその通りだと思った王妃だが、さすがに危機を救ってくれたのは事実。口には出さなかった。
出さなかったが――。
「……ルシアンがいたらなぁ~、ちょちょいのちょいだったんだろうなぁ~……はぁ~……」
「ちょっとセシリィ!」
「もごもごぉ……」
「(その通りだけど! その通りなのだけど!)」
王妃が慌てて娘の口を塞ぐ。
その指先は不安か、あるいはザイモスへの不信感からか、はたまた笑いを堪えるのに必死だからか……小刻みに震えていた。
そしてついに、王女の言葉にザイモスが怒りの表情で言葉を返す。
「あんな軽薄で不遜で傲慢な女にモテるだけの糞生意気無能小童など不要! このザイモスがいかなる時も王国を守って見せましょう! これにて失礼します」
肩をいからせて去っていくザイモス。
しかし彼は気づいていない。浄化したそばから、王城の影がより深く、より不気味に濃くなっていることに……。
この話で本日の更新は終わりです。
お読みくださり、ありがとうございました!
明日の投稿は
12時10分頃
18時10分頃
20時10分頃
となります! ぜひぜひまた来てください!
誤字脱字、感想などいただけたらうれしいです!
★★★★★いただけたら泣いて喜びます!!




