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死なない男は生きる意味を知らない 〜猫獣人の少女と始まる旅〜  作者: 三島 勝仁
第一章 出会い

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空想と現実



『ギルバート、後に英雄と呼ばれる剣士。

古代迷宮を踏破し、伝説の剣を得る。

最古の竜に認められ、竜の力を授かる。

幾多の試練を越え、魔王を討つ。

かくして彼は 魔王を討ちし英雄と称された。』


 『英雄ギルバート記 著者不明』



 物語はいつもそうだ。

 英雄の華々しい活躍だけを描く。

 きっと伝説の英雄だって、失敗の1つや2つはあったはずなのに。

 偉業のみが語り継がれ、伝説となる。


 セシルは固い石床を、コツコツとブーツの踵を鳴らしながら歩く。

 伝説の英雄たちは、ページを一枚めくれば、街へと帰還する。

 だがセシルたちは、現実を生きるしがない冒険者でしかない。

 例えダンジョンを踏破したとはいえ、そこで物語は終わらない。

 ちゃんと、帰り道があるのだ。

 ――そう、この終わりの見えない、延々と続く長すぎる廊下のように……。


「いつまで続くんですかー!!??」


 その場にへたり込んだセシルの叫びが、長い廊下に虚しく反響する。

 だが、この問いに答えが返ってくることはなかった。



 ――――――



 ――数時間前。


 まぁなんてことはない。

 彼――ルークに出会ってから、何度も見た光景だった。

 もったいぶる必要もないので、端的に言うと、

 ルークがやらかしたのだ。


 玉座の間を出て、来た道を戻っていた時にそれは起こった。

 ゴーレムと戦った玉座へと続く通路を抜けた時、セシルは背中を撫でるような、小さな違和感を覚えた。

 セシルと同じ違和感を他の2人も感じたようで、皆で振り返る。

 

 すると、今入ってきた扉が忽然と姿を消していた。


「え?」


「あ……」


「…………。」


 セシルは困惑の声を漏らす。

 ルークはやってしまった、と困り顔。

 ヴェルはまぁ、いつも通りだ。


 そして、セシルは再度前方へ視線を戻すと、さらに困惑する。

 そこは自分たちが通ってきた道とはまるで違っていた。

 ごつごつとした石畳。

 ジメジメとして、カビと錆びの臭いが漂う。

 まるで洞窟のようだった。


「――地下牢だな」


 ヴェルは周囲を見渡し、手近な鉄格子に手をかける。

 中に人はおらず、かつて人だったものだけが静かに横たわっていた。


「どうして、急に……」


 戸惑うセシルに、ヴェルは冷たいとも取れる声色で言う。


「さぁな」


 と言いつつもヴェルは、ちらりとルークに視線を向ける。


「僕のせいじゃないよ!?……たぶん」


 ルークは顔をあさっての方へ向けながら、口笛でも吹くように口を窄める。


「まぁいい、進むしかあるまい」


 ヴェルはそういい、自分が先頭になって歩き出す。

 

 ここまでなら、ルークのせいだ、とまでは言えない。

 だが、問題はここからだった。


 結論から言えば、地下牢から出ること自体は容易だった。

 普通に歩いて出ていける出口があったのだ。


「――待ってください、扉の奥、何か音がします」


 地下牢から出るための扉に、ヴェルが手をかけた時、セシルが声をかける。


「俺が行く、下がっていろ」


 ヴェルはそう言うと、静かに扉を開け、奥の様子を伺う。


「……あれはなんだ?」


 ヴェルは目の前の光景が理解できず、それに近づく。

 

 扉を開けたヴェルの視界に飛び込んできたのは、


 ――巨大な足の裏だった。


 ヴェルはその正体に気づき、ため息を残して、セシルたちの元へ戻る。


「ど、どうでした?」


 おずおずとセシルが尋ねると、ヴェルはルークに視線を向けながら、扉の奥を顎でしゃくる。


「――見てこい」


 ヴェルに促されて、2人が恐る恐る扉の向こうを覗く。


「……あ」


「――ゴーレムが……詰まってる」


 出口へ向かう唯一の通路を、周囲の石壁を削り取りながらもがくゴーレムが、完全に塞いでしまっていた。


「――これは、僕のせいだね……ごめん」


「っぷ、ふふっ、あはは」


 素直に謝るルークだったが、その顔に悲壮感はない。

 地味に危機的状況なはずなのに、セシルは思わず笑ってしまった。

 

 全てが一筋縄ではいかない、これが冒険なのだ。

 英雄たちの冒険は、こんな間抜けな事態にはならない。

 これは私たちだけの特権だ。

 さてここからどうするか、3人で一生懸命考えよう。

 それが、しがない冒険者にしか味わえない冒険の醍醐味なのだ。

 

 その姿を見ていたヴェルが地下牢へと戻っていく。

 セシルにはその横顔が、少しだけ笑っているように見えた。



 ◇



 ヴェルは、ジメジメとした洞窟のような地下牢をひたすら歩く。

 この地下牢は、回廊になっているようで、一周回ると元の場所に戻ってくる。


 (出口は、この扉だけか)


 ここは地下牢だ。

 入り口が複数あるわけもない。

 全ての牢は施錠されており、そのうち約半分は現在も使用中のようだ。

 彼らの刑期はすでに終えているだろうが、朽ちた体では出ていくことはできない。


 (やはり、あのゴーレムをどうにかする方がいいだろうか)


「セシルちゃんはさー、牢屋に入れられたら、どうやって脱獄する?」


 することがなくて暇になったのか、ルークは入り口の階段付近で、雑談を始める。


「ルークさんも何か探してくださいよ。――それに、私は脱獄なんて考えません!ちゃんと反省して、出られるのを待ちます!」


「えー、でも無実の罪で牢屋に入れられたらどーする?」


 ルークは、なおもセシルに話しかける。


「んー、それは悲しいですけど。それでもちゃんと説明して、誤解を解くしかないと思います」


 セシルはその状況を思い浮かべているのか、自分の手も止まってしまう。


「セシルちゃんはいい子だねー。――ね、ヴェルならどうする?」


 突然水を向けられるヴェルだったが、話は聞こえていた。


「俺か?――俺は出られるのを待つ。いくらでも待てるからな」


 ルークは、そうじゃなくてさー、と周囲の牢屋を見渡す。


「ここの人たちも、脱獄とか考えたことあるんじゃない?それっぽい形跡とかないかな?」


「そう思うなら、自分で探してください」


 ルークは、はーいと生返事を返すと、一つ一つ牢屋を確認していく。


 (地下牢…無実の罪…脱獄…仕掛け…転移か…ふむ。)


 ヴェルは、考えながら地下牢をぐるぐると歩き回る。

 そして見つけた。

 牢屋の中に、壁を削ろうとした跡が残っていた。


「おい、あったぞ」


 ヴェルの言葉に、ルークがどれどれ、と牢屋を覗き込む。


「あー、確かに壁が削られているね、でもこれってどうなの?」


 ルークが疑問に思ったのは、壁を削った方向だ。

 その牢は角に位置しているので、掘るならば、上か、奥だ。

 横の壁を削っても、隣の牢にしか出られない。

 一見なんの意味もないように思えた。


「牢屋に入れられて、気がおかしくなってしまったのでしょうか?」


 セシルも牢屋を覗き込むが、それ以上の情報は得られない。

 ヴェルは隣の牢を確認する。


「こちらの牢に何かあるかもしれん。開けられるか?」


 ヴェルは隣の牢の錠前を指差し、セシルへと尋ねる。


「はい!やってみます!」

 

 セシルは頼られたことが嬉しかったのか、尻尾を僅かに弾ませて気合いを入れる。

 取り出したピッキングツールを錠前へと差し込む。

 だが、錠前は古く、錆びついている。

 なかなか思うようには行かず、そのまま10分ほどが経過した。


「んー?どれどれ、貸してごらんよ」


 ひたいに汗を流しながら格闘するセシルの横で、ルークが声をかける。


「ルークさんもこういうのできるんですか?」


 セシルの言葉にルークは、首を横に振る。


「いいや、鍵開けは得意じゃないなぁ、けどさっ」


 そう言うと、ルークは錠前を強く握り、牢屋の鉄格子に足をかけた。


「ふん!!」


 そのまま一気に錠前を引っ張り、体をのけぞらせる。


 ガシャン!と鉄格子が揺れる音と共に、ルークが後ろに倒れて転がっていく。


「ルークさん!大丈夫ですか!?――そんな無茶苦茶するから……」


「いてて、頭ぶつけたー。――でも、ほら」


 ぶつけた頭をさするルークの手には、外れた錠前が握られていた。


「壊れてたみたいだね」


 からからと笑うルークに、セシルは少々複雑な顔をする。

 自分の手に持ったピッキングツール、それとルークを交互に見て、ため息をつきながら道具をしまう。


「開いたか、では中を調べる」


 ヴェルは早速牢の中を調べ始める。

 だが、中は特に変わった様子もなく、他と変わらない普通の牢屋に思えた。


 だが、セシルは隣の牢屋と見比べてみて、ひとつ疑問に思い、2人に問う。


「――この牢屋、隣の牢屋よりちょっと狭くありません?」


「あー、ほんとだ、半歩分くらい狭いね。この壁だけ他のより厚いみたいだ」


 セシルの言葉にルークが両手を広げて、牢の長さを測る。


「隣の牢屋の方は、この壁を削ろうとしてたのなら……」


 セシルは壁の表面をぺたぺたと触っていく。

 そして指先が小さな窪みに引っかかった。

 そこを手で押し込むと、石壁の一部がズズッと奥へ移動した。


「ここ!何かあります!」


「おおー、ちょっといいかな」


 そう言うとルークは腰の剣を外し、鞘を握って石壁をさらに押し込む。

 すると、カコン、と軽い音がしたのち、ガラガラと歯車の回る音がして、石壁が床に沈んでいく。

 そして、ガシャンという音と共に、下へづつく階段が現れた。


「やっぱりあったね、脱獄の仕掛け」


「脱獄……なんですかこれは」


 脱獄にしては仕掛けが大掛かりすぎる。

 概ね、王の隠し通路といったところだろう。


「行ってみるか」


 ヴェルはそう言うと、狭い階段を半身になって降りていく。

 セシルとルークもそれに続き、下まで降りていく。


 そして階段を降りた先には、暗く湿った石の通路がどこまでも続いている。

 それは、英雄の伝説には一行たりとも記されることのない、名もなき冒険者たちだけの、あまりに泥臭い『物語の続き』だった。



 ――――――



「なんで、そっちから帰ってくるんですか……」


 ダンジョンの入り口付近にキャンプを張っていたレイが、げんなりとした様子でヴェルに言う。

 


「出口が塞がってな、隠し通路から出てきた」


「あまり壊さないでくださいって言ったのに」


 レイは頭を抱える。


「それはこいつに言え」


 ヴェルはルークを指し示す。


「こんにちはー、久しぶりだね、レイ」


 レイはルークを見るなり、状況を察した。

 またあなたですか、と呟くとヴェルが背負っているものに目を向ける。


「それで、セシルさんはなぜ背中に?見た感じ緊急ではなさそうですが」


「眠った」


「疲れたんだろうねー、隠し通路抜けるのに半日くらいかかったからね」


 ケラケラと笑うルークに、どうせこいつが原因かだろうと、レイは適当に当たりをつける。


「それで、中はどうでしたか?――澱み、は除去できましたか?」


「ああ、問題ない。あとは向こうの仕事だ」


 ヴェルは見張りの兵をチラリと見やる。


「それより、彼女を休ませる。無理をさせたようだ」


「準備はできています。すぐ出発しましょう」


 ヴェルはセシルを馬車の荷台に寝かせて、荷物を下ろす。

 程なくして、馬車は街に向けて走り出す。

 ダンジョンの入り口が、徐々に遠ざかっていく。

 思えば今回の探索は、ヴェルは一度も死んでいない。

 こんなことは稀だ。

 そのおかげか、アクシデントはあったものの、予定よりは早く終えることができた。


 ヴェルは傍らで眠るセシルを見る。


「頑張ってたねー、セシルちゃん」


「ああ、よくやってくれた」


 ヴェルはそう言うと、セシルの髪が口に入ってしまっていることに気づく。

 一瞬どうしようか迷ったが、ヴェルはそっと髪に触れて、セシルを起こさないよう整える。


「それで、セシルちゃんは何を持って帰ることにしたの?」


 ルークは、ヴェルとセシルを温かい目で見ながら問う。


「――聞いていたのか?」


 確かあの時こいつは寝てたはずだが。


「まぁね」


 そしてヴェルはセシルが両手に大事そうに握っているものを指差す。


「それだ――魔法の羽ペンだそうだ」


「ん?何に使うの、それ」


「インクが切れず、無限に書き続けられるそうだ」


「何それ微妙」


 ルークは思わず吹き出してしまうが、それ以上は何も言わなかった。

 もしかしたら、彼女の初めての冒険を、書き記しておきたかったのかもしれない。

 馬車は絶えず揺れ動き、沈みゆく夕陽の中を、彼らの帰る場所へとひたすら走る。

 

 むにゃむにゃと、何かを呟くセシル。

 彼女は、どんな夢を見ているのだろうか。



 




一部加筆修正いたしました。

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