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死なない男は生きる意味を知らない 〜猫獣人の少女と始まる旅〜  作者: 三島 勝仁
第一章 出会い

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神の不在と滅びた王国


 三者三様のちょっとずれたやり取りの後、3人は扉の奥へと踏み込んだ。

 目の前に現れたのは、幅が十数メートルはある謁見の間へと続く道。

 道の両脇には、剣を構えた鎧が立ち並び、その切先を天へと向けている。


「おおー、すごい……」


 思わず漏れ出たセシルの言葉が響く。


「この先が、玉座か」


 ヴェルはそう呟くと、道の中央を無遠慮に歩いていく。

 だが道の中程まで進むと、そこでぴたりと足を止める。

 周囲を観察するヴェルに、後続の2人も足を止めて警戒する。


「あれだな」


 ヴェルが指差すさきには、一際大きな鎧があった。

 玉座へと続く扉の両脇に、剣を地面に突き立てて佇む二つの鎧。

 その高さは5〜6メートルほどだろうか。


「ヴェル、あれってもしかして……」


「ああ」


 ルークとヴェルは互いに同じものを思い浮かべているようだ。

 セシルには何かわからないため、黙って耳を傾ける。


「――ゴーレムだ。おそらく、まだ動く」


 そう言うと、ヴェルはセシルの元へと戻る。

 そして持っていた荷物と光る杖を預ける。


「ここで待て、俺がやられるようなら、入り口まで逃げろ」


「わかりました」


 セシルの返事を受けて、ヴェルは再び鎧の騎士へと向き直る。


 ルークは、ヴェルの横に並び立ち、歩調を揃えて歩き出す。


「――やるのか?」


「ああ、もちろんさ、君に任せっきりにはできないよ。――セシルちゃんはちょっと離れててね!」


 ルークはコキコキと首を鳴らし、腰の剣ではなく、小さなスリングを構える。


「ゴーレムってのは、核があると思うんだが、さてどこだろうね」


「まぁ、頭だろう」


 短いやり取りの後、2人は示し合わせたように、ヴェルは右、ルークは左の鎧へ向かって走る。


 2人が近づくと、鎧のゴーレムは錆びた体を引きずるように、ズズズと重たい音を立てながらゆっくりと動き出す。

 

 そして左右で寸分違わず同じ動きで、構えた剣をそれぞれの相手に向けて振り下ろす。

 ヴェルはそれを横に転がるようにして避ける。

 大剣が床を砕き、石片跳ねる。

 そのいくつかがヴェルの腕や足に当たり僅かに血が滲む。

 だがヴェルは気にした様子もなく、ゴーレムの足元へと走っていく。

 

 一方ルークは剣を避ける気配がない。

 そして振り下ろされた剣は、ルークの僅か数センチ横の地面に突き刺さる。

 セシルには剣が勝手に逸れたようにも見えた。


 ヴェルは硬質化した拳で、剣を振り下ろしたゴーレムの足を撃つ。

 グワン、とまるで大きな鐘を殴ったかのような轟音が鳴り響く。

 だがその一撃はその巨体をわずかに揺らす程度で、ゴーレムは再び剣を構える。

 鏡砕でバラバラにすることはできるだろうが、だがその場合この階層ごと崩落しかねない。


 (ヴェルの攻撃は、周囲を巻き込むからなぁ)


 ルークはよそ見をする余裕すら見せながら、相手の攻撃を的確に避けていた。

 ゴーレムの動きはあまり早くはないが、一撃が重い。

 まともに受ければタダでは済まないだろう。

 だが、このくらいからまず当たることはないだろう。


 ルークはゴーレムの攻撃を避けながら、スリングで攻撃する。

 相手に痛痒があるとは思えなかったが、各部の関節や頭などを狙う。

 

 ――硬い。並の攻撃では、どこを狙っても破壊には至らないだろう。

 しばらくの間攻撃をつづけ、何か突破口を探っていた。 

 その時、不意にそれは起こった。

 

 遮蔽物や床の凹凸などない広い空間だったため、足元への注意力がおろそかだった。

 そして現在ルークの幸運値は高めにしてある。

 滅多なことでは何も起こらないはずなのだが。


 ルークが剣を避けようとして、一歩踏み出した時に、滅多に起こらないはずの"それ"は起こった。

 足元の石床が、ぐにゃりと歪んだ。


「あれ?」


 次の瞬間、ルークの片足が渦に沈んでいた。

 身動きの取れなくなったルーク。

 そこへ振り下ろされるゴーレムの大剣。


「ちょっと待ってよ!嘘だろ!?」


「ルークさん!」


 セシルは杖を置き、ルークの元へ駆け出す。

 ルークが挽肉になってしまったのではないか、と青ざめる。

 だが大剣が振り下ろされた場所には、ルークが持っていたスリングだけが残されており、ルークの姿は忽然と消えてしまった。


 ルークが居た場所に走るセシルは、その場所に転移の渦があるのを見て、頭を抱える。


 (ルークさん、またなんて運の悪い……)


 ルークがどこへ飛ばされたかわからない以上、こちらのゴーレムはセシルが引き受けるべきだろうか。

 判断に迷うセシルだったが、そうしなければこのゴーレムもヴェルの元へと参戦してしまう。

 流石に分が悪いだろう。

 

 撤退か迎撃か、一瞬迷った末にルークが落としていったスリングを手に取る。

 そして散らばった瓦礫を一掴みして、ゴーレムへと放つ。


 ゴーレムの硬い鎧に軽い音が響く。

 もちろん痛痒にはならない。

 だがセシルは戦いを見ていて気付いた。

 あのゴーレムは、守護する扉から一定以上は離れないのではないかと。

 そのため距離を保ちつつ、こちらへ注意を向ける。

 その後ヴェルの判断を仰ごう。


「ヴェルさーん!!ルークさんが渦に!」


「――――……。」


 ヴェルはセシルへ何か返答したようだが、鎧の音がうるさくて聞こえなかった。

 ただわずかに肩を落として、深いため息をついたのだけは見えた。


「――撤退しますかー?」


 再度大声で叫ぶセシルだったが、

 その瞬間、耳を塞ぎたくなるような、空間が軋む音が鼓膜を震わせる。


 バキッと音がして、ヴェルが魔力を圧縮し、檻を形成した。

 左手を掲げて、硬く握ったまま微動だにしない。


 (壊すつもりでしょうか?それはまずいのでは……)

 

 だが、ヴェルの必殺の拳が放たれることはなく、視線はルークが消えた渦の方へと向けられる。


 セシルにも見えた。

 転移の渦から、ルークが飛び出してきた。

 セシルはゴーレムとの距離を測りながら、なおもスリングで引きつける。


「セシルちゃんありがとうー、戻ってきたよー!」


「大丈夫なんですかー!?」


 セシルが声を上げると、ルークは頭の上で大きく丸を描き、腰の剣を引き抜きゴーレムへと駆け出す。

 セシルは、ルークの軽い態度に毒気を抜かれながら、スリングで援護をする。


「どうやって倒すんですかー!?」


「もう考えてあるよ!そのままこっちに引き寄せて」


 ルークはそう言うと、さきほど吸い込まれた渦の方へとゴーレムを誘導していく。

 セシルにも何がしたいのかわかった。

 渦で転移させるつもりなのだ。

 あそこに渦があったのは、不運ではなく、幸運だったのか、セシルには判断できない。


 そしてルークは外套を外し、渦の前でひらひらと振る。

 まるで猛獣でも挑発するかのような仕草だ。


 (あーふざけていますね)


 緊張感ないなぁ、とセシルは戦闘中にも関わらず、思わず顔を綻ばせる。


「はーい!いってらっしゃーい」


 ルークは振り下ろされる大剣をひらりとかわすと、剣が渦に突き刺さる。

 そして徐々に飲み込まれていく。

 ゴーレムも剣を手放せば、己は助かっただろう。

 だが、ゴーレムは決して剣を離すことはなかった。

 狭い渦へ、巨体が捩れながら、ギュルギュルと軋むような音とともに吸い込まれていった。


 最後に、渦に向けてルークは胸に手を当て、優雅に一礼をした。

 まるでダンスのパートナーへ向けるレヴァランスのように。


 きっと彼の中では、鳴り止まない歓声が響いていることだろう。

 だがその静かな歓声は、ヴェルの現実的な一声によって破壊される。


「――終わったのなら、こちらを手伝え」


 そこにはいまだ左手を掲げたまま、微動だにしないヴェルが立っていた。



 ――――――



「――では、解くぞ」


「いいよー」


 剣を振り上げた体制のまま、なんと10分以上も放置されていたゴーレムが、ついに解き放たれる。


 直前の動作を継承した大剣が、ヴェルのすぐ横に振り下ろされる。

 その瞬間、ルーク、セシル、ヴェルの3人が同時にロープを引っ張る。

 そして引っ張られたロープはゴーレムの体に巻きつき、その両足と両腕を固定した。


 その後ヴェルとルークによって、ロープを何十にも巻き直され、ゴーレムは完全に沈黙した。

 ギシギシと鎧が擦れる音が時折聞こえるが、虫のように這うことしかできないゴーレムは滑稽で、哀れだった。


「――すると、あとはこの部屋だけだね」


 ルークは扉の前に立ち、罠の類がないかを念入りに調べる。

 だが、流石に玉座の間へと続く扉には罠はなく、ゴーレムだけが守りの要だったようだ。


「じゃあ、開けるよ」


 ルークが言うとヴェルが頷き、2人で錆びついた扉を押し開ける。

 すると、その奥から内側にわだかまっていた魔力が一気に溢れ出す。

 それは七色の鈍く光る霧のように見えた。

 魔力が可視化できるほどに、濃いということに他ならない。

 セシルとルークは溢れ出す魔力にあてられる。

 霧を浴びると、ピリピリと肌が焼けるような感覚があり、頭の奥で鳴る耳鳴りに、僅かな吐き気を覚えて口元を抑える。


「ミストか……お前たちはそこで待っていろ」


 ヴェルは2人の様子を見て、中には入らないほうがいいと判断して、単独で扉の奥へ踏み込む。

 少し進むと、玉座が見えた。

 そしてヴェルは玉座の前に立ち、それを眺める。

 玉座には、豪華な服に寂れた王冠を被るスケルトンの姿があった。


 玉座のスケルトンが、ゆっくりと頭を上げた。

空洞の眼窩がヴェルを見つめる。

そして軋むような音を立てながら立ち上がり、ヴェルへと手を伸ばした。

 ヴェルは拳を構え、魔力を集中させようとして、その魔力は霧散した。


 スケルトンはヴェルの前までくると、その場に跪く。

 ヴェルは握った拳をだらりと下げて、警戒を解く。

 そして祈りを捧げるかのように、両手を合わせた。

 そしてスケルトンはヴェルの後ろへと視線を送る。


「――それがお前の、最後の意思か」


 ヴェルは、ゆっくりと後ろを振り返り、入ってきた扉の上を見る。

 

 そこには、巨大な石碑があった。

 神々の創生と破壊を描いた、古代の石碑。

 スケルトンはヴェルを通じて、あの石碑へと祈りを捧げていた。

 そしてヴェルは王のスケルトンへと向き直り、その額に触れる。

 その瞬間、スケルトンはぼろぼろと崩れていき、落ちた王冠がヴェルの足元へと転がった。


 スケルトンが崩れたのち、しばらくすると霧が晴れて、魔力の濃度が薄くなる。

 ヴェルは玉座の間から出て、外で待つ2人に声をかける。

 

「終わった。もう入っていいぞ」


 セシルとルークは顔を見合わせてから、ゆっくりと中へ入っていく。


「スケルトンがいたのかい?」


 ルークは服と王冠だけになったそれを見て、ヴェルへ尋ねる。


「ああ、いた」


 ヴェルは転がった王冠を拾い、灰となった王のスケルトンにそっと被せる。


 (あいつも言っていたな、せめてこれくらいは、か)


 ヴェルは、これになんの意味があるかなどわからない。

 この王のスケルトンに憐れみなどない。

 だが、こうしなければいけないと思った。

 それが何故かは、わからなかったが。


 

 ――――――



「大きな石碑ですね、神々の戦いでしょうか?」


 セシルは大きな石碑を見上げて、その荘厳さに圧倒されている。


「そーだねー、神様ってのは本当にいるのかな?」


 ルークは玉座へと腰掛けて、呑気な声を出す。


「――いる。確か、ドゥールとオフィリアだ」


「え?神様の……名前ですか?」


 ヴェルの言葉にセシルが聞き返す。


「ああ」


「神に名前なんてあったのかい?聞いたことないんだけど」


「ああ、俺も聞いたことはない」


 ヴェルの言葉にルークは首を傾げる。


「ヴェルも聞いたことないって、じゃあなんで知ってるのさ?」


 ヴェルは少し間があってから、答える。


「さぁな、俺にもわからん。――だが思い出した、それだけだ」


 ヴェルはそれだけ言うと、玉座の間を後にした。

 


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