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死なない男は生きる意味を知らない 〜猫獣人の少女と始まる旅〜  作者: 三島 勝仁
第一章 出会い

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幸いと災い


「おー!ヴェルじゃないか。久しぶりだな!こんなところで会えるなんて、運が良かった」


 今しがた天井から転落してきた男は、なんてことないようにこちらへと向かってくる。


「さっき上で誰かに石を投げられてさ。君たちの他にも誰かいるのかな?」


 ヴェルは青年の言葉を受け、崩れた天井を見上げる。

 そして青年へと向き直ると、淡々とした口調で言い放つ。


「――さぁな」


「まぁいいや、君に会えたのなら、無事に脱出はできそうだ――と、その子は?」


 青年は、ヴェルの背中に隠れたセシルに気がつく。


「従業員だ」


「従業員?ああ、なんでも屋の!前から募集してたもんね、やっと見つかったんだな」


 ヴェルは、ああ、とだけ返事をし、セシルの前から半歩横にずれる。


「は、はじめまして!セシル・レイトと申します。――あなたは?」


 セシルが自己紹介をし、ヴェルと親しげ(?)に話す青年に興味が湧いた。

 青年は背は高いが、若干猫背気味のため、ヴェルよりも頭の位置は僅かに低い。

 腕まくりをした袖から、羽毛のようなものか見えていることから、鳥の獣人だろうか。


「――僕はルーク!ルーク・エンジール。ヴェルの友達さ!」


 ルークがヴェルへ軽快にウインクを飛ばす。

 見開かれた金色の瞳は、闇世を見通す梟のそれだった。


「――お前がそう呼ぶなら、否定はしない」


 ルークの言葉に対してヴェルの答えは、少々冷たいようにも思えたが、様子を見る限り、ルークはそれで満足らしい。


 (――ヴェルさん……友達いたんですね)


 セシルは2人を見て、意外そうに心の中で呟く。


「ヴェルにだってね、友達くらいいるよ!この僕がそうなんだからね!」


 セシルの表情を読み取って、ルークが得意げに言った。

 セシルは声に出ていたか、と錯覚し反射的に口元を抑える。


「ははっ!君は正直だね」


 ケラケラと朗らかに笑う青年に、セシルはジトッとした目で非難する。

 そんなやり取りの中、ヴェルが口を開く。


「――それで、お前はここで何をしている?」


 ヴェルの言葉に、ルークは悲壮感を露わにしてぐったりとうなだれる。


「聞いてくれよー、僕はこの前まで龍王国にいてさ、その帰りに魔物に襲われたんだ」


「そうか」


「それでね、山道を逃げていたら、突然土砂崩れで道が塞がってさ、そしたらその中から洞窟の入り口が出てきたんだ!そこでやり過ごそうとしたんだけど、魔物が入り口に陣取ってね、奥に進むしかなかったんだ」


「それで、ここに着いたのか?」


 ルークの言葉を引き継ぎ、ヴェルが続きを促す。


「そうなんだよ、まさかダンジョンとは思わなかったけどね、だからちょっとだけ探索しようと思ったんだ!」


「そうか、気をつけて行け」


 それだけ言うとヴェルは、背中を向けてスタスタと歩き出す。


「え?」


「ちょっと待ってよ!」


 セシルとルークはヴェルの行動に、互いに顔を見合わせる。


「ヴェルさん、せっかく知り合いに会えたのに、いいんですか?」


 セシルの援護を受け、ルークはさらに勢いづく。


「そうだよヴェルー、久しぶりに会ったんだし、一緒に行こうよー」


 ヴェルは足を止めて、深いため息をつきながら振り返る。


「お前と居ると碌なことにならん、手間が増える」


「そんなこと言わないでおくれよー」


 そう言うとルークは、ヴェルを追い、瓦礫の上からひょいと飛び降りた。


「あ……」


「――はぁ……」


 ルークが床に着地する直前、ルークの体が不意にぐにゃりと捩れた。

 そして布を絞るようにぐるぐると回転し――


「え?ちょ、まっ」


 わずかな断末魔とともに、渦の中に吸い込まれてその姿を消した。

 

 その1秒後。

 再び天井付近に出現したルークが、瓦礫の上に再度叩きつけられて、気絶した。


「はぁ……」


「ルークさん!」


 ヴェルはもう一度深くため息をつくと、気絶したルークの体を担ぎ、セシルに告げる。


「――休憩だ」



 ――――――



「ヴェルさん!開きましたよ、宝箱!」


 ふふーん、と満足気な表情のセシルに、何がそんなに楽しいのかと、ヴェルは理解ができない。


「そうか、では離れていろ」


 そして、セシルと交代するように、ヴェルが宝箱の前で膝をつく。

 宝箱の蓋に手をかけ、ゆっくりと押し上げる。


「――どうです?大丈夫そうですか?」


 少し離れた場所で、壁から顔だけを覗かせたセシルが尋ねる。


「ああ、罠はないようだ」


 ヴェルはそう言って興味を失ったようで、宝箱の前から退く。

 ひょこひょことセシルがやってきて、宝箱の中を覗き込む。


「うわぁ、すごい!金貨がこんなに……」


 宝箱の中には、眩いばかりの金銀財宝が詰め込まれていた。

 ゴクリと、思わず息を飲むセシルだったが、ついこの間もこんな光景に出くわした気がする。

 セシルは見なかったことにした店の引き出しを思い出す。


 宝箱の中は、金や宝石の他に、豪奢な飾りのついた短剣や、淡く光る水晶など、さまざまな物が放り込まれている。


「ヴェルさん!ヴェルさん!すごいですね!」


「ああ」


 ぴょんぴょんとはしゃぎ回るセシルだったが、そこにヴェルから忠告が入る。


「――持ち帰れんがな」


「――え?」


 一瞬の静寂の後、セシルはもう一度聞き返す。


「え、持ち帰れない?」


「ああ、これは調査依頼だ、ダンジョン内のものを持ち帰ることは基本的に禁止されている」


 ヴェルの言葉にセシルは開いた口が塞がらない。


「じゃ、じゃあ、なんで宝箱開けたんですか?」


「ん?――開けたかったのだろう?」


「そ、そんなぁー」


 セシルは宝箱の前でヘナヘナと萎れていく。


「こんなにお宝があるのに、見ているだけなんですか?」


「ああ、そう言った物が欲しければ、自分でダンジョンを見つけるしかないな」


「そうなんですね、残念です」


 がっくりとうなだれるセシルに、ヴェルはほんのわずかにだが、顔を綻ばせる。


 (先ほどまで、あんなにはしゃいでいた娘が、コロコロと忙しいものだ)


「――ひとつだけだ」


「え?」


 ヴェルの言葉にセシルは顔を上げる。


「ひとつだけなら、持ち帰ってもいい。――今回の報酬で、買い取らせてもらおう」


「い、いいんですか!やったー!」


 喜びに飛び跳ねるセシルを、心なしか温かい目でぼんやりと眺めるヴェルの姿がそこにはあった。


 (へー、随分と優しいじゃないか、ヴェル)


 この微笑ましい光景の中。

 部屋の端に雑に転がされていたルークは思う。

 ――さて、これはいつ目を覚ましたものか、と。



 ――――――



 その後ルークが目を覚まし、3人で探索を再開した。

 だか、セシルはヴェルが言っていた言葉の意味をすぐに理解した。


 (――この人、すごく運が悪い)


 3人で歩いていても、ルークの足元だけ突然崩れる。

 よろけた先に瓦礫が落ちてくる。そして終いにはヴェルを巻き込んで派手に転倒する。


 ふざけているとしか思えない不運の連続だった。

 だが、そのどこか作り物めいた光景が、紛れもなく現実で起こっている。


 それが探索を再開して1時間もしないうちに、2度も3度も起こる。

 そんなルークの腕に嵌められた認識表は、銀。

 セシルよりも高位の冒険者で、探索においては銅級のセシルよりも慎重で、かつ的確だ。

 それなのになぜこんなことになるのか。

 セシルは不思議で仕方なかった。


「あの、ルークさん?――えっと、その……いつもこんな感じなんですか?」


 セシルはなんと尋ねて良いかわからず、曖昧な質問をする。

 ルークは、体についた砂を払いながら立ち上がる。


「ん?ああ、僕はちょっとばかし特殊な体質でね。こういうのはよくあるんだ」


「――よく死なずに生きていられるものだ」


 その隣でヴェルものそりと立ち上がる。


「そこはまぁ、死なないように調整してるからね」


 ルークの言葉に、セシルは何か引っかかる部分があった。


「調整、ですか?」


「うん、僕は自分に降りかかる不運と、そして幸運を自在に操れるんだ。運命操作って言うらしいよ」


 ルークはさらっとすごいことを言い、セシルは耳を疑った。


「え、それってすごいことなんじゃ……ではなんで不運なことばかり起こるんです?」


「うん、それはね……」


「――おい、それはあまり話さない方がいい、と言われてなかったか?」


 説明しようとするルークの言葉を遮って、ヴェルが口を出す。


「あーあの情報屋ね。いいさ、誰彼構わず話すわけじゃない。ヴェルのそばにいる人なら、信用できるさ」


「ならいいが」


 ヴェルはそれ以上口を挟むことはなかった。


「まぁ、僕の運命操作ってのは、便利な能力なんだけど、本当はあまり好きじゃなくてね」


 セシルは、本当に自分が聞いてもいい話なのか自信が持てなかったが、口は挟まなかった。


「自分の運命を幸運に傾ければ、良いことしか起こらない、逆に不運に傾ければ今みたいになる。その幸運と不幸の度合いは際限なく調整可能だよ」


「それって……最強なんじゃないですか?」


 セシルの言葉に、ルークはわずかに表情を曇らせる。


「――そうかもね」


 少し寂しげな表情をしたまま、ルークは、でもね、と続ける。


「君も冒険者なら覚えておいた方がいい、人にはね、分相応ってのがあるんだよ。過ぎた幸運は、自分が幸せになれても、その代償に周囲を滅ぼすんだ」


「それって、どういう……」


「…………。」


 意味なのか、と尋ねようとしたがルークは沈黙にて返答する。


「――だからね、君もどこかで大きな幸運に出会った時は、独り占めせずに、誰かと分かち合ってあげて欲しい」

 

 セシルは、静かに頷く。

 ルークの言いたいことはよくわからなかったが、不思議とセシルの胸の中にスッと収まった。


「だからね、僕は自分の幸運で人を傷つけるより、不幸でいた方が気が楽なのさ!」


「そうだったんですか、優しいんですね。ルークさん」

 

 セシルの言葉にルークは元の表情にもどり、からからと笑う。


「まぁちょっとだけなら問題ないから、今から見せてあげるよ!幸運の威力というものを!」


 そう言うとルークは指を鳴らす。

 それと同時に、数メートル先を歩いていたヴェルが、廊下の突き当たりの扉を開けた。

 その瞬間、空気の流れなどない地下空間に、何故か突風が吹く。


 その突風は、セシルの股の間を駆け抜けて、不自然なほど真上へと吹き上がった。


「え?――きゃあああ!」


 セシルは慌ててスカートを押さえるが、その時にはすでに遅い。

 振り返ったヴェルとルークに、新調したばかりのお気に入りをバッチリと目撃されてしまった。


 (み、見られた!?ヴェルさんに!?一緒に暮らしててもそんなこと起こらなかったのに!――なんで!こんなところで……)


 たまらずその場にうずくまるセシルに、バッチリと見てしまったにもかかわらず、視線だけはあさっての方へ向けたルークが説明する。


「――うん、本来なら、君は僕の頬を張り倒しているだろう。でもヴェルがいたことにより、僕にその不幸は起こらない、幸運だけを享受したことになるね。うん……聞こえてないね」


 ぼそぼそと説明するルークなど、一切視界に入らない。

 セシルの視線は、いまだこちらを向いたまま無表情を貫く男に向けられる。


 (見られたことは恥ずかしいですが、でもお気に入りのやつを付けてきて良かった)


 セシルは恥ずかしさのあまり、若干ずれた結論に至る。


 ヴェルは、不可思議に起こった突風の方が気になるようで、周囲を見渡す。

 

(ルークが入ってきた洞窟と、こちらの入口が繋がったのか?)


 だとしたらコイツはどこを通ってこちらへきたのだろう、と不思議に思うヴェルだったが、すぐに考えるのをやめた。

 そしていまだうずくまって悶えるセシルを見て、小さなため息を残すと、扉の奥に踏み込んでいった。


 


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