第40話 『最終決戦Ⅳ』
俺と魔王が同時に動き出す。
輝く剣を構えて魔神へと疾走する俺を魔王が瞬時に創り出した魔弾や無数の魔法が追い越す。
魔神の動きは緩慢で、高速で飛来する魔弾を避けることは不可能に近かった。
着弾。
限界まで圧縮されていた魔力が一気に解き放たれ大爆発を引き起こす。
果てしない数の攻撃魔法が流星群のように降り注ぐ。
その威力は爆発の反動で魔神の巨体を揺らすほどだった。
立て続けに大爆発が起こり、耳をつんざくような轟音が王都を席巻する。
「ふん、だろうな」
魔神を隠していた黒煙が全て消えた時、魔王は歓喜も落胆もない、想定内だと言いたげな口調で呟いた。
魔神の巨体にはダメージが一つも入ってなかった。
完全なる無傷だ。
刃圏に魔神を捉えた俺は跳躍し、眩い輝きを纏った一撃を放つ。
しかし、極光の刃は突如として出現した防御障壁によって封殺されてしまう。
俺は瞬時に状況を理解し、追撃を中止して着地。
魔王がいるところまで後退した。
「簡単には斬らせて貰えないようだ」
「倒す手順が増えただけだ。差したる問題ではない」
魔王の意見に同意した。
今の俺にはかつてないほどの力が全身に漲っていた。
それは全盛期すら越える有様だ。
勇者因子の恩恵か、共に戦っているのが魔王だからなのかは不明だ。
とにかく全てを成し遂げられるような全能感が全身を支配している。
それまで大した動きを見せなかった魔神が動き出す。
折り畳まれていた翼が耳障りな音を立てて展開された。
その数は全て合わせて六枚。
翼が全て開き切った瞬間、毒々しい輝きを放つ。
その輝きは徐々に束ねられて、破壊光線となって無差別に攻撃を開始する。
鼓膜を破りかねない異常な高音。
破壊光線は連なる建物を容赦なく切断し、大地を破壊していく。
「魔神というより破壊兵器だな」
魔王が手を振るうと、何十、何百もの防御障壁が即座に展開された。
大地を抉りながら迫る破壊光線が触れた瞬間に防御障壁は薄氷の如く砕け散っていく。
防御障壁が全て砕かれる不安に駆られるが、魔王は余裕の表情を浮かべていた。
そして、表情は変わることはなかった。
最初の二、三十枚は簡単に突破されたが、それ以降は砕け散る速度が落ちていき、最後は完全に防ぎ切ったのだ。
「それを俺と戦った時にやられたら勝ち目はなかったな」
「あの時は不可能だ。全ての魔王因子を取り込んでいるからできる芸当だ」
「そうか。なら、その力で自分の身は守れるな」
そう言って、俺は再び魔神の元へ。
規則性が存在しないまま乱射される破壊光線の隙間を縫っていく。
少しでも触れれば致命傷となる一撃。
毛先が消し炭になり、服の一部が消滅する。
それでも止まらない。
再び間合いに入った俺は、魔神に飛び移る。
腕へと着地すると、そこからは滅多斬りだ。
並の人間では太刀筋が見えないほど高速の連撃。
しかし、魔神の防御障壁が拒む。
だが、執念で叩き込まれた銀の連撃によって、防御障壁に亀裂が入った。
「さぁ、中身を引きずり出してやるぞ」
魔王の背後に展開された無数の魔法陣から、極大級の魔法が一斉発射された。
まるで神話世界のような光景だった。
一つ一つが一撃必殺レベルの攻撃が魔神へと飛来し、魔法障壁とぶつかり合う。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ────!!!」
俺の攻撃と魔王の攻撃によって、魔神を守っていた殻が破られた。
直後、魔王の魔法が魔神を燃やし、凍てつかせ、麻痺させ、重大なダメージを負わせる。
俺の斬撃によって魔神の皮と肉が切り裂かれ、おびただしい量の鮮血が砕けた大地を汚す。
魔神が絶叫まがいの咆哮を上げた。
その瞬間だった。
「────」
「────」
魔神中心に世界の色が白黒に染まっていく。
それは一瞬にして俺と魔王を取り込んでいく。
僅かな静寂。
白黒の世界が収束していく。
全てが元に戻った瞬間、俺の全身から鮮血が吹き出した。
「がっ!?」
鮮血を撒き散らしながら俺は地面に激突した。
瓦礫が砕けて砂埃が立ち込める。
魔王は火傷、凍傷、そのそして数多のダメージにより吐血する。
咳き込みながら魔王は魔神を観察する。
「そういうことか。厄介な力だ」
「なにか分かったのか!?」
血塗れになった俺は立ち上がる。
かなりのダメージはあるが致命的ではない。
戦う力は十分にある。
今すぐにも叩き斬ってやりたいところだが、その前に魔神の力を知ることが先決だ。
「どうやら、アレは私たちが与えた分のダメージを私たちに喰らわせることができるらしい。私と貴様のダメージの違いが証拠だ」
「それは俺たちが奴に攻撃すればするほど俺たちもダメージを喰らうということか」
俺の答えに魔王は頷く。
「理解が早くて助かる。とはいえ些か困ったな。自分の首を締めかねない故に私たちは簡単にアレを攻撃できなくなった」
「そうなると、方法は一つしかないな」
魔王も「だな」と碧い瞳を細めた。
「──たった一撃で魔神を屠る」
しかし、難易度は高い。
魔神の攻撃はどれもが危険過ぎて、まともに当たることを許されない。
あの巨体を一撃で屠る超火力をどうするか。
これが確かな方法かは分からないが試したいことがあった。
俺は輝く剣を前に出した。
「この剣に俺とお前の力を集約させ一気に放つ。まさしく全身全霊の一撃だ」
「全ての勇者因子と魔王因子を使えば可能性はあるかもしれ──」
突如、破壊光線が魔王の直前に迫る。
不規則な軌道を読むのは不可能だ。
魔王は動揺のせいか瓦礫につまづき転倒してしまう。
様子がおかしい。
魔王が立ち上がろうとしないのだ。
違う。
立ち上がれないのだ。
先ほど魔王が魔神に与えたダメージで脚部の麻痺でもあったのかもしれない。
そのせいで魔王は動けない。
「魔王っ!!」
俺は魔王の元へ走った。
すぐそこまで迫る破壊光線。
魔王は防御障壁を展開しようとするが、大きく咳き込み吐血する。
防御障壁は間に合わない。
魔王の体が破壊光線の毒々しい光に包まれた──。
「ぐうぅぅぅぅぅぅ────!!!」
その間に割り込んだ俺が魔王の盾となる。
人智を越えた剣は魔神が放つ殺戮の光を受け止める。
しかし、それを扱う俺の体は勇者因子で極限まで強化されているが人間だ。
飛び交う光が触れるたびに俺の体を破壊してく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ────!!!」
渾身の力で破壊光線を退けた。
俺の体は酷い有様だった。
特に酷いのは左腕で、筋肉は千切れ、骨が剥き出しになって、皮一枚でギリギリ繋がっているといった感じだ。
俺は倒れてたままの魔王を引っ張り起こす。
「すまない」
どうやら自分では立っていられないようで、魔王は俺に寄りかかった。
魔王の重みを確かに感じながら俺は右手のみで剣を構える。
すると、魔王が片手を俺の手に添えるように、片手で柄を握った。
俺たちは言葉を交わさなかったが、互いの気持ちは確かに通じ合っていた。
互いに足りない部分を補い合い、互いの力で魔神を屠る。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────っ」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────っ」
俺と魔王の力が剣に集約していく。
剣が纏う輝きはより一層強くなる。
やがて輝きは広がり続け俺と魔王を包み込み、辺りを光の粒が舞い始めた。
それは、世界を照らす輝き──。
極光の一閃が振り下ろされる。
閃光は世界を喰らい尽くさんとする破壊光線を蒸発させて、一直線に魔神へと向かう。
魔神が極光によって焼き尽くされていく。
断末魔すら消し去る、超高密度の極光が天を穿つ。
光が止んだ時。
そこに魔神の姿は欠片ほども残っていなかった。




