第39話 『託された想い』
目の前に起こっていることが現実だとなかなか理解できない。
俺だけではないはずだ。
それもそうだろう。
死んだはずの人間が動いているのだから。
「嘘!? なんで生きてるの!?」
「ただでさえヤバい状況だってのに!」
アルマが驚愕し、ヨゼフは焦りをにじませながら剣を構えた。
二人に顔を向けて魔王は唇の前に人差し指を添える。
「状況を把握できない者は黙っていろ」
「…………っ!」
「…………っ!」
魔王のプレッシャーにアルマとヨゼフが押し黙る。
外野を黙らせて満足げな魔王に俺は問うた。
「エメリを憑代にしたのか?」
「エメリが魔王因子を持っていたが故の荒技だがな。まぁ、偶然に感謝するとしようではないか」
俺と魔王は近づいてくる足音に反応して後ろを向いた。
賢者は少し気まずそうだった。
魔王が話しかけた。
「賢者、貴様には申し訳ないと思っている。システムを破壊すれば、システムの一部である貴様は消滅するだろう」
賢者は首を横に振った。
彼の顔はとても清々しく、希望に満ちていた。
「不思議に思われるかもしれないけど、僕は凄く嬉しいんだ。人が自分の意志でシステムと決別する瞬間に立ち会える。しかも、その担い手になるのが僕が選んだ勇者たちだと思うと余計にね」
「お前の人を見る目は最高だったみたいだな」
「貴様は賢者としてあまりにも優秀だったということだ」
賢者は笑みを浮かべた。
「二人とも手を貸してくれないかな」
言われた通りに俺と魔王は賢者に手を伸ばす。
その手の上に賢者は自分の手を添える。
すると、賢者の体が輝き出す。
輝きは収束していき、俺と魔王の中に溶け込んだ。
「今のは?」
「君たちに、システム中枢へのアクセス権を譲渡した。でも、今は魔神出現でアクセスがプロテクトされているんだ」
「問題ない。どのみち奴は倒す」
「その通りだ。あんなモノをのさばらせておくわけにはいかぬだろう」
賢者は微笑む。
「やっぱり君たちは最高の勇者だよ。システム中枢に行けば、そのまま創造主の元まで行ける。あとは君たち次第だ」
「ああ、任せておけ」
魔王は賢者に向けて言った。
「最初は私を勇者なんぞにした貴様を恨んだ」
「うん」
「だが、今は感謝している。私を選んでくれてありがとう」
魔王は賢者の返答を聞かずに魔神の元へ向かってしまう。
俺と賢者は互いに顔を合わせた。
「多分、これでお別れだね」
「そうかもな」
「僕は君と旅ができて楽しかったよ」
「俺もだ」
俺は賢者を引き寄せて抱きしめた。
賢者の驚いた声を無視して、俺はこれだけは伝えた。
「お前は俺の親友だ」
「うん。君は僕の親友だ」
抱擁を交わし終えた俺は、先にいる魔王の元へ向かった。
俺が魔王に辿り着くと、魔王は碧い瞳で俺を見る。
「別れは済ませたか?」
「ああ」
俺たちの歩みはゆっくりだ。
魔神がアクションを起こす素振りを見せないからだ。
恐らく、奴は俺と魔王を認識した瞬間に動き出すだろう。
「まさか、敵対してた者と肩を並べて戦うことになるとはな。奇妙な巡り合わせだ」
「全くだ」
魔王の横顔は美しくて、つい見惚れてしまう。
戦いの前だというのに俺はなにを浮かれているんだ。
「そういえば、随分とエメリが世話になったな」
「いや、アイツには色々と助けられた。にしても、あんなデカい娘がいるとは意外だな」
「娘と言っても血の繋がりはないがな。だが、エメリは唯一の家族だ。守ってくれて感謝している」
いざ話してみれば普通だった。
魔王なんて色眼鏡を外せば、今の彼女は娘のことを思う一人の女性だ。
「待て、なぜ俺とエメリが行動を共にしていたことを知っている?」
「それは貴様の中から見ていたからな」
「なっ……まさか、魔王因子か?」
魔王が口角を少し上げた。
「察しが良いな。しかし、ああまで好意を向けられると存外恥ずかしいものだな」
「好意とは違うんだが」
と言いつつ、俺は凄まじく動揺していた。
魔王への想いは全て筒抜けだったなんて……こんなに恥ずかしいことが他にあるか?
「相手を知りたいと思う感情の根底にあるのは好意だと私は思うが?」
ぐうの音も出ない。
魔王がくつくつと笑う。
「全てが終わったら、ゆっくりと語ろうではないか」
「根掘り葉掘り聞いてやるから覚悟しろ」
「それは楽しみだな」
俺たちは魔神の元に辿り着いた。
すると、それまで微動だにしなかった魔神の瞳が怪しく輝き出して、世界を震わせる咆哮を上げた。
俺は剣を構える。
剣からは目も眩むような輝きを放つ。
魔王は手のひらに魔弾を瞬時に作り出す。
その数は片手に四つ。
さらに背後には無数の魔法陣が展開された。
俺と魔王は声を揃えて叫ぶ。
「行くぞ! 魔神──ッ!!!」




