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第38話 『未来の重み』



 賢者とアルマの回復魔法で俺は動けるまで回復した。

 俺は立ち上がり、アルマの方に顔を向けた。


「意外だった」

「私は宮廷魔術師として責務を全うしただけよ」


 棘のある言い方をして、アルマはそそくさとヨゼフの方へと行ってしまう。


「あれだけ大騒ぎしてたのに起きないって、かなり凄い子だね。きっと将来は大物になりそうだ」


 賢者が朗らかな表情で、赤ん坊をアルマに渡す。

 寝ていた赤ん坊もアレだが、赤ん坊を片手に全員を守り切った賢者は規格外だと感じた。


「賢者は勇者とずっと一緒だったのか?」

「ずっとじゃないけど、ここしばらくは一緒に旅をしていたんだ」

「ふぅん、そのお仲間が魔王の娘とその友達ってわけ」


 アルマが俺たちのところにやってきたエメリとシーフを睨みつけながら言う。

 エメリはアルマとヨゼフを睨みつける。


「殺しはしないけど、一生許さないから」

「勝手にすればいいわ。でも、私の家族に手を出したら容赦しないわ」


 今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気だ。

 だが、エメリは俺を見るとバツが悪そうに肩をすぼめた。

 破壊された街並みを指差しながら、俺は言った。


「流石にこれはやり過ぎた」

「うぅ、ごめんなさい」

「だが、よく立ち止まってくれた」

「シルフィが止めてくれたの」


 エメリに肩を貸しているシーフはニヤリと笑いピースサインをした。


「アッシは有言実行しかしないんすよ」

「そのようだな。お前には驚かされてばかりだ。というか、本名はシルフィというんだな」


 本名について言及すると、シーフはしまったと額をぺちんと叩いた。


「ミステリアスな女を演出してたのに、これじゃあ全部おじゃんじゃないっすか」

「ミステリアスな女は最初から無理があったぞ」

「え?」

「正直に言うが、喋り方の小物感が半端ない」

「──っ! そ、そんなぁ……」


 項垂れるシーフとそれを慰めるエメリを少し見てから、俺はアルマとヨゼフの前に立つ。

 アルマは最大限の警戒心を。

 ヨゼフも若干ピリつく。


「俺の仲間が済まなかった」

「………………」

「勇者……」


 とにかく頭を深く下げた。

 誠心誠意の謝罪だ。


「責任は俺がいくらでも取る。だから、エメリは許して欲しい」

「僕からもお願いするよ。こうなった原因は僕にもあるからね」


 賢者にまで懇願されて、ヨゼフは困ったように後頭部をさすった。


「そこまでされて、受け入れなかったら俺の方がダサいだろ」

「──! ありがとう、ヨゼフ」

「いや、いいんだ。それにしてもやっぱり勇者は凄いな。あんな一撃に真っ向から挑んで……俺には到底できない」


 ヨゼフは歯を食いしばり、拳を強く握りしめて体を震わせる。


「俺、本当はずっと謝りたかったんだ。お前が辛い目に遭っているのを知ってて、俺は見て見ぬ振りをしていた。今の立場だって、お前が俺をパーティーに誘ってくれたからあるのに……」

「いや、それは違う。今の立場や家族を手に入れたのは、ヨゼフの努力の結果だ。俺に負い目を感じてる暇があるなら、自分のしてきた努力を誇れ」

「勇者……」


 意外にも言葉はするすると出てきた。

 あのボロ小屋にいた時に垂れ流していた恨みや嫉みの感情は一切なかった。

 先ほどまでの薄暗い感情もどこにもない。


 俺はアルマに問いかけた。


「アルマ、俺が怖いか?」

「ええ」

「それが正しい反応だ。俺はアルマが言った通り普通じゃなかった」


 すると、アルマの腕の中にいた赤ん坊が俺に向かって手を伸ばした。

 アルマは驚き、それから観念したように笑みを溢した。


「どうやら怖がっていたのは私だけだったようね」


 そう言って、彼女は赤ん坊を俺に差し出した。


「レベッカって名前。抱っこしてあげて」

「ああ」


 俺は丁寧にレベッカを受け取る。

 腕に感じる重みに、俺は──、



 その瞬間、空が真っ赤に染まり黒雲が立ち込め始めた。

 突然の事態にその場にいた全員が呆気に取られた。


「なんだ? なにが起こった?」

「分からない、急に空が……」


 単なる異常気象ではないのは明らかだ。

 得体の知れないプレッシャーが世界を包み込んでいる気がする。

 状況を把握できずにいると、賢者が突然ハッと顔を上げた。


「まさか、これが……」

「心当たりがあるのか?」

「ブレイブもあるはずだよ。これはきっと、魔王の言うところの修正プログラムだ」

「なっ」


 それは、暗雲を切り裂き顕現した。

 巨大な人型をした異形のモンスター。

 ドス黒い体躯からは、体の芯から凍てつきそうな冷たく禍々しい魔力が漂っている。


「魔神、だ」


 誰かが、ぽつりと呟いた。

 確かにその存在感と絶望感は魔神の名を冠するに相応しいかもしれない。


 俺はレベッカをアルマに返して、鞘から剣を引き抜く。


「貴方、まさかアレと戦う気!?」

「アルマ、感謝する」


 腕に残っているレベッカの重み。

 その重みに未来を感じた。

 俺は未来を守るために戦うんだ。


「ブレイブ、私も戦う」


 エメリが俺の横に立つ。


「お前は休んでろ。アレは俺が倒すべき敵だ」

「それは無理な相談だな」


 突然、エメリの体が黒い霧のような物に包まれていく。

 その霧は徐々に形を成していった。


「………………」


 現れたのは一人の女性だ。

 艶やかな濡羽色の髪、天を穿つような碧い瞳。

 女性らしい曲線を描く肢体を黒の法衣のような衣服で包んでいる。

 寂しさと儚さを兼ね備えた、いまにも壊れそうな雰囲気はあの日となに一つ変わっていない。



「──アレは私たち(・・・)が倒すべき敵だ」



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