第34話 『因縁の故郷』
俺は賢者とシーフに状況を話した後、孤児院へ向かった。
インニェルはひっ迫した表情で出迎え、終焉の魔王の私室に俺たちを案内した。
終焉の魔王は俺たちを見るなりに渋い顔をする。
「一体どうなっておる?」
「俺にも分からん。確かなことはエメリがアンタと俺の中にあった魔王因子を取り込んだ」
「完全に抜かったわ。だだの小娘かと思っておったが、とんだ魔女じゃったようじゃ」
終焉の魔王が嘆息する。
俺たちだって未だに理解が追いついていない。
「とにかく俺たちはエメリの後を追う」
「居場所は分かるのか?」
「ああ」
「そうか。インニェル、アレを」
インニェルはクローゼットの中から宝箱を取り出して、テーブルの上に置いた。
「北の勇者。これを貴方に」
俺は促されて、宝箱を開く。
「これは」
それは剣だ。
だが、普通の剣は違う。
凄まじい力と内なる輝きを内包した、人の手で生み出されたとは思えない逸品。
「儂が使っておった勇者の剣じゃ。全ての勇者因子を持っているお前さんなら使いこなせるじゃろう」
「でも、いいのか?」
「儂にはもう扱えんからの。それに剣も使ってもらった方が喜ぶじゃろう」
「感謝する」
終焉の魔王は、剣を腰に差した俺を見て言う。
「儂らができるのはここまでじゃ。後はお前さんに託す」
「ああ。色々と世話になった」
俺は感謝の意を込めて頭を下げた。
インニェルが憂慮な面持ちで言う。
「全ての魔王因子を取り込んだ彼女は間違いなく最強の魔王です。お気をつけて」
「ああ」
俺たちは終焉の魔王と別れた。
×××
宿の勘定を済ませた俺たちは、これからの方針を相談していた。
「これからどうするんすか?」
「当然エメリを追う」
「つか、エメリがどこに行ったか分かっている素振りだったっすけど」
「ああ、アイツが向かった場所は分かっている」
「それはどこなんすか?」
目的地は俺にとって因縁だらけの場所。
「──北の国だ」
しかし、問題はどうやって北の国まで行くかだ。
普通では辿り着くのに数ヶ月はかかる。
だが、事は一刻を争う。
シーフもそのことで疑問を口にする。
俺とシーフがああでもない、こうでもないと口論していると賢者が手を挙げた。
「僕の能力を使えば、すぐに北の国に行けるよ」
「そうなのか?」
「僕は北の国担当の賢者だからね。なんらかの理由で僕が北の国から離れた場合の緊急措置として、転送魔法を使えるんだ」
「便利なものだな」
「そうでもないよ。転送魔法の指定場所は北の国だけだから、他の場所には行けないんだ」
「なるほど。とにかく今回は助かる。早速転送してくれ」
賢者は渋い表情をする。
シーフは不思議そうな顔で賢者を見つめる。
おそらく、すぐに転送魔法を発動しないことに疑問を抱いているのだろう。
賢者の言いたいことは分かっている。
だから、俺は言う。
「俺は大丈夫だ。転送してくれ」
「分かった。二人とも僕に触れて」
賢者に触れた瞬間に体が奇妙な感覚に包まれた。
次の瞬間、視界に広がった光景に思わず顔をしかめてしまう。
王都は腹が立つくらいに何も変わらずにそこにあった。
「ここがブレイブたちの故郷っすか」
「ああ」
「思ったより普通っすね」
「どんなのを想像していたんだ」
街並みはなにも変わらない。
これといった騒動も起こっている様子はない。
もしかしたら、エメリはまだ来ていないのか?
いや、そんなはずはない。
きっと、どこかに潜伏して機会を伺っているのかもしれない。
「とにかくエメリを探すぞ」
俺は単独で動き、賢者はシーフと共に動くことになった。
×××
王都の人々は誰もが生きることを謳歌しているような、いきいきとした表情をしていた。
昔は、その顔を見るのが大嫌いだった。
じゃあ、今はどうだ?
正直なところ良い気分はしない。
傲慢な言い方をすれば、ここにいる人間が幸せに暮らしているのは俺が魔王を倒したからだ。
だが、コイツらは俺を恐怖の対象として拒絶した。
ふと、俺は思ってしまう。
こんな奴らを助ける必要があるのか?
いっそのこと滅んでしまえばいいのではないか?
「……俺は……なにも変わってないな」
立ち止まって、自嘲した時だった。
俺の後ろから声が聞こえた。
「……勇者?」
反射的に振り返ってしまう。
俺の心に陰りが差した。
そこにいたのはヨゼフだった。
いや、彼だけではない。
ヨゼフの隣にはアルマがいた。
そして彼女の腕の中には赤ん坊がいた。
その光景はあまりにも眩しくて…………。




