第35話 『再会の戦場』
久しぶりに見たアルマは、あの時と同じ瞳で俺を見つめていた。
ヨゼフは一瞬気まずさを表面に出したが、すぐに俺に愛想笑いをみせた。
「久しぶりだな、勇者! なんか大分、雰囲気変わったな」
「お前は副団長としての威厳が出てきたな」
皮肉ではなく本心だ。
副団長に就任しても慢心せずに鍛錬を続けてきたのだろう。
どこまでも努力家な奴だ。
俺はアルマと赤ん坊に視線を向ける。
「おめでとう。どっちだ?」
「女の子よ」
「そうか。なんて名前……いや、いい。俺に知られたくもないだろう」
きっと本人たちは気付いてないだろうが、娘を守ろうとして俺を警戒してる。
賢者やエメリ、シーフが普通に接してくれたから忘れていたが、これが一般的な反応だ。
薄暗い感情に飲まれるのを必死に抑える。
こうして二人と会ったのは都合が良い。
エメリの標的にはアルマとヨゼフが入っている。
危険を知らせて──、
「なっ」
俺は気付いた。
アルマとヨゼフの背後に広がる闇を。
その闇から白い細腕が伸びて、二人の首元に触れようとする。
「二人とも避けろ!」
「──っ」
「きゃあ!」
声を張り上げると同時に俺は闇に向かって走り出す。
ヨゼフは反射的にアルマと娘を抱きしめて、闇から一定の距離を取った。
闇は逃げたヨゼフたちを追いかける。
その前に俺は剣を鞘から抜き、闇を斬り払う。
「エメリ!」
俺の声に反応したように闇が静まり、その中からエメリが出てきた。
それと同じタイミングで賢者とシーフが駆けつけた。
「賢者!? なんでここにいるの? っていうか、何が起こっているの!?」
「ごめん、アルマ! 説明している時間はないんだ!」
俺と賢者、シーフがエメリと向き合う。
なんてプレッシャーだ。
これまでの魔王共の非じゃない。
少しでも気を抜いたら、たちまちやられてしまう。
「やっぱり来るよね」
「当たり前だ」
「みんな退いて! ソイツらを殺せない!」
エメリを中心に闇が蠢き、爆発的に広がる。
俺たちは各々武器を構え臨戦態勢に移行する。
ヨゼフも家族を守ろうと剣を構えた。
「何がなんだか分からないけど、やるしかなさそうだな」
すると、アルマが悲鳴混じりに叫ぶ。
「なんで私たちを殺そうとしてるの!? 一体誰なの!?」
エメリは酷く冷めた口調で、アルマの疑問を無視して逆に問いを投げた。
「ねぇ、私のお母さんの死の上に成り立つ現状は幸せ?」
「え?」
「良い職業に就いて、周りからの信頼も厚い。子どもも産まれて、幸せの絶頂って感じだね」
「あ、あぁ……貴女、まさか魔王の……っ」
「私から大切な人を奪ったくせに……そんなのおかしいよ!」
闇が無数の刃へと形を変えて、アルマたちへと飛来する。
賢者は防御魔法で防壁を展開してアルマと赤ん坊、シーフを守る。
俺はとにかく刃を斬り落とす。
ヨゼフも剣を巧みに扱い刃に対抗するが、全てを捌けずに全身を切り刻まれていく。
「止めろエメリ! こんなことして何になる!」
「逆に聞くけど、なんでブレイブはその人たちを守ってるの!? 仲間だったブレイブを切り捨てて自分たちだけ幸せになった卑怯者だよ! 守る必要なんてないじゃん!」
「それは……」
エメリの怒りを具現化する様に闇が変貌していく。
その姿は漆黒のドラゴンだ。
複数のドラゴンが俺たちを睨みつける。
それはまるで渇望の魔王が使役していたドラゴンのようだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ────!!!」
「おいっ、よせ!」
ヨゼフがドラゴンめがけて跳躍する。
両手で剣を強く握りしめて大きく振り上げる。
かつて魔王の頭をかち割った必殺の一撃──兜割りだ。
「それ知ってるよ!」
エメリが指揮者のように腕を動かす。
すると、空中にいるヨゼフの四方八方にドラゴンが顕現する。
鋭利な牙を生やした顎が一斉に襲いかかった。
「チィ」
俺はしゃがんで脚に力を込める。
勢いをつけて跳躍。
矢のような速度で空中を進み、剣でドラゴンを一閃。
斬られたドラゴンはたちまち消滅して、無機質な闇へと戻っていく。
ヨゼフを抱え着地する。
「助かったよ、勇者」
「お前の実力では足手纏いだ。自分の家族を守ることだけに集中しろ」
「分かった。……ありがとう」
ヨゼフは後方へ下がろうとする。
入れ替わるようにアルマが前線に出てきた。
どうやら赤ん坊は賢者に預けたようだ。
「下がれ! お前が太刀打ちできる相手じゃない!」
しかし、アルマは俺の言葉を無視して呪文を唱えて魔法を発動する。
手のひらに出現したのは強大な火炎弾だ。
だが、今のエメリに効くかどうかは怪しい。
「何してるの?」
エメリが呆気に取られた声を漏らした。
賢者も、シーフも、ヨゼフまでもが唖然として言葉を失っていた。
アルマの火炎弾は俺に向けられていた。




