第32話 『とある魔王の記憶』
──私は、私に架せられた運命を受け入れることは到底できない。
勇者として民衆の期待を背負い、魔王を討ち滅ぼした私に待ち受けていたのは絶望だった。
魔王なる脅威が去ったことにより、国は領地拡大のために他国との戦争を行うようになった。
私は最前線に駆り出され、無益な殺しをさせられた。
魔王は国の存亡に関わる相手だった。
そこには大義名分がある。
しかし、私が今していることはなんだ。
ただの虐殺ではないか。
ある日、決定的なことが起こった。
我が軍は進軍方向の直線上にあった敵国の村を邪魔だという理由だけで火を放ったのだ。
村の住人は理由すら問う暇もなくひとり残らず殺された。
私が着いた時には、死体は山のように積み重なり轟々と燃えていた。
あの臭いは決して忘れることはできない。
──人間なんてうじゃうじゃいるんだぜ。ちょっとくらい殺したって大したことないだろ。
それを誰かに言われた瞬間に絶望した。
私はこんな奴らのために命を賭して戦っていたのか、と。
心が凍りつき、闇が激しく渦巻いた。
私は軍を壊滅させた。
×××
それから、私は国と対立し、簡単に動けないように周辺諸国を庇護下に置いた。
国が不穏な動きをみせたら即座に叩き潰した。
そんなことを繰り返していたら、国はいつからか私のことを『魔王』と呼ぶようになった。
「勇者だった私が魔王とは、だいぶ皮肉が効いているな」
それを呟いた時だった。
私の頭にある考えがよぎった。
──もしかしたら、勇者と魔王は表裏一体の存在なのでは?
気になった私は真相を知るために、あらゆる土地や国に赴いて調査をした。
その結果、多くのことを知ることができた。
魔王は私の他にも存在していた。
魔王が居るところには勇者も存在している。
勇者の側には賢者が必ずいる。
この他にも様々な情報を擦り合わせて、一つの仮説を立てた。
──勇者は賢者によって選ばれ、魔王を倒すと次の魔王になるのではないか?
私の仮説が証明されたのは終焉の魔王である老人と出会った時だ。
彼の伴侶になった賢者から真実を告げられた。
己が仮説を証明出来た喜びよりも、『勇者と魔王』などと言う馬鹿げたシステムの存在に腑が煮えくりかえった。
私の次なる目的が決まった。
──このふざけたシステムを破壊する。
×××
それから私はシステムについて徹底的に調べ上げた。
結果、いくつかのことが分かった。
勇者と魔王が存在するのは、北の国、東の国、南の国、西の国の四国のみ。
この四国を起点にすれば、世界全体をカバー出来るからだろう。
勇者と魔王は基本的に一対が条件であり、他国の勇者と魔王が干渉することはできない。
例えば北の勇者は南の魔王を討伐することができない。
実際に私は別国の勇者と接触を試みたが徒労に終わった。
おそらく因子に干渉を阻止するプログラムが組み込まれている。
均衡を崩すために、私が最初に行ったのは勇者因子の統合及び魔王因子昇華の阻止だ。
四つの勇者因子を持つ者ならば全ての魔王を一人で屠ることができる。
そして、魔王因子を昇華させないで、その一人に集中させたらサイクルは致命的な歪みが発生する。
それはシステムのバグになりえる。
バグの発生により修正プログラムが起動する可能性はある。
修正プログラムが考えられる最悪のモノでなければ、厳しいだろうが排除は可能だ。
それすら排除すればシステムの創造者が直々に手を加えにくるだろう。
つまり、創造者に接触できる。
創造者さえ抹消すれば二度とシステムは創り出されない。
×××
頭で考えるのは簡単だったが、現実は簡単にはいかなかった。
そもそも勇者に干渉できないのだから因子を手に入れることができなかった。
解決策が思いつかずにかなりの時間が経った時に、私は途端に閃いた。
勇者を選定するのは賢者だ。
ならば、賢者の選定権を一人に集中させば因子は自然と統合されるはずだ。
思い返せば合理性に欠ける、賭けの要素が強い方法だった。
しかし、私には成功する確信があった。
幸いにも賢者との接触はできたため、私は終焉の魔王の伴侶に協力を仰ぎ、勇者選定の構造について知った。
かなり複雑な術式で解明するのに相当な時間がかかったが、結果的に私は勇者選定権利を剥奪する術式を完成させた。
そして、私は他国の賢者と接触して勇者選定権利を剥奪し、その全てを私を担当していた賢者に譲渡した。
賢者と会うと同時に他の魔王に会う。
魔王因子に昇華阻害の術式を組み込むためだ。
渇望の魔王は起きているのか、寝ているのか分からない、人の話をろくに聞かない無気力な奴だった。
破滅の魔王はこちらの話を聞かないどころか、いきなり攻撃してきた。
まったくもって無礼な奴だ。
大変に不快な思いをしたが、目的は無事に達成できた。
×××
ともあれ、あとは賢者が選んだ勇者次第だ。
どんな奴が勇者になるか。
まぁ、いずれは巡り会う運命だ。
その時を楽しみにするとしよう。
だだ、私の計画に勝手に巻き込んでしまった。
そのことだけは本当に申し訳ないと思う。




