どっぺるげんがー!
「おそらくはね。ご両親は相当に焦っておられるだろうし、そもそも悪魔祓いの専門家でもなければ悪魔に詳しいわけでもないはずだ、勘違いされていても仕方がないだろう」
「こうしてはいられないですね!早く助けに行きましょう、タッシャさん!ナヅキさん!」
シスターさんは私の手を握るとそのまま問答無用で走り出そうとする。
ちょっとくらい落ち着いてほしい。
というか場所すらわからないのに何処に行こうというのか。
「いや、だからまずは情報収集を……」
「でもでも!急がないと娘さんが危ないですよー!」
「そ、そうですけど……わかりました。やります。やりますから、タッシャさんもよろしいでしょうか?」
「もちろん、ドッペルゲンガーなら悪魔よりも与しやすい相手のはずだ」
「えへへ、お二人ともありがとうございます!」
シスターさんは私の手を離すと唐突にシャドーボクシングをはじめる。
シュシュシュッという効果音のおまけつきだ。
「さあ、ナヅキさん!ムオン様から授かったお力をお見せする時ですよ!」
「……ま、まあそうですね」
「さあ、パンチとキック!頭突きに肘鉄、膝地獄!今だ、出すんだ必殺の、真空飛び膝蹴り!」
こうして私とタッシャさんは夫婦の自宅へと向かうのだった。
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「鏡の悪霊であるドッペルゲンガーは成り代わる前に本人を実に注意深く観察する。だから見た目や声だけでなく、ちょっとした仕草などの立ち居振る舞いまでそっくりだと言われているのだよ」
道すがら私たちはタッシャさんからドッペルゲンガーについてさらに詳しい説明を受けていた。
「ナヅキさん、タッシャさん、大丈夫ですよ!パンチするふりでもしてやれば悪霊なんてすぐに正体を現すはずですよ!」
シスターさんは自信満々に胸を張りながら、私の背中をバンと叩く。
……この人は何を言っているのだろうか。
「ま、まあ……それは最後の手段としようじゃないか。それでだ、我々にとって娘さんに出会うのはこれが初めてだ、つまり細かな見た目の違いなど探しても意味はない。どちらかといえば言動の矛盾などをうまく突くのが効果的だろう」
「言動ですか……それは考え方や記憶などは真似できないということでしょうか?」
「そうだ、言い伝えでは記憶まで真似ることはできないと伝えられている。だからご両親の力をお借りすれば必ずや区別はつくはずだ」
「なるほど」
「しかし、二人の娘さんを前にご両親が正常な思考を保つことは難しいだろう……失敗すれば娘さんの命が永遠に失われることになるのだから」
「……そうですね、責任重大です」
「そこでだ。まずは別室にご両親をお連れして話を聞き、我々だけでドッペルゲンガーと対峙し……」
「……なるほど……わかりました……」
タッシャさんの指示は的確なものだろう。
しかし、それでも私は不安を拭えないでいた。
「…………」
つい勢いで引き受けてしまったが、娘さんの命が懸かっているということを理解した途端、足がすくんできてしまったのだ。
私なんかが本当に力になれるのだろうか。
あの……今日はやっぱり宿で一休みしませんか、そんな泣き言を言いたい気持ちをこらえていると、またしても背中が叩かれる。
「ナヅキさん、隙ありですよ!」
「……シスターさん」
彼女の目はやる気に満ち溢れていた。不安や悲壮の色は微塵もない。
……なぜこの人はここまで楽しそうにしていられるのだろうか?
「大丈夫です!ナヅキさんにはムオン様がついていますから!」
私の心を読んだかのようにシスターさんは私の手を取るとぶんぶんと振りまわす。
その手はとても暖かくて、優しいものだった。
「ナヅキくん、君なら必ず立ち上がってくれると思ったよ。その優しさこそ、どんな怪物に対しても大きな武器となるはずだ」
いけない、顔にまで不安が出てしまってたみたいだ。タッシャさんたちを心配させてしまうなんて。
「……すみません、ありがとうございます」
「いやなに、礼には及ばないよ。それに、君が不安に思うのも無理はない」
「は、はい」
「君はまだ記憶も戻っていないし、実戦経験だってないに等しい。不安で当たり前だ。だが判断の責任は私が持つつもりだ。心配しなくていい」
「……はい」
恥ずかしくて思わず下を向いてしまう。
タッシャさんの言う通りだ。
私は何を傲慢なことを考えていたのだろう。
私のような未熟者が彼を差し置いて正しい判断など下せるはずがないのだ。
私がやるべきことは、シスターさんやタッシャさんが全力を発揮できるような環境を整えることのはずだ。




