断崖絶壁
「ありがとうございます、タッシャさん」
顔を上げるとシスターさんと目があった。
彼女はにっこりと微笑むと私の肩をポンと叩く。
「でも~!もう一人の自分に会えたら楽しいかも知れないですね!」
「は?へ?」
「だってもう一人の自分と出会えるんですよ?絶対楽しいじゃないですか!」
「は、はあ……シスターさんが二人もいたら……それはもう……む、無敵でしょうね」
私は力無く首を振る。
「てへてへ、タッシャさんもドッペルゲンガーさんに小説のお手伝いとかお願いしたらどうですか?うっかり出会あって死なないように文通で連絡を取って……」
「おお、それは面白そうだね。しかしそういった便利なものであればいいが……邪悪な霊なので何をしでかすかわからないと伝えられているんだ」
「ふふん!そうだったんですね!ではドッペルゲンガーさん、観念するんですねぇえ!」
やがて私たちは貼り紙に書かれていた畑の目の前に立っていた。
あまり手入れが行き届いていないのか、バッタの足のような筋ばった草が伸び放題になっている。
天気は悪くないし、日差しも明るかったが……どこか不穏な空気を感じるのはこの草のせいだろうか。
石と木で作られた依頼者の一軒家は畑にぐるりと囲まれており、裏手には薄暗い林が寄り添うように茂っている。
人が住むには心もとない環境に思えるが……。
「ナヅキさん、タッシャさん、三正面から突撃しましょう!先手必勝です!」
「すみませんシスターさん、お願いですからまずはお話を伺うことから始めましょう」
私はシスターさんをなだめながらタッシャさんと共にドアをノックする。
しばらくの間を置き、ゆっくりとドアが開かれる。
現れたのは生え際が大きく後退したくたびれた顔のおじさんだ。
体格はいいものの、娘さんの無事を心配しているせいか、断崖にしがみつくように残った髪の毛は風が吹けば飛んでいきそうなほど弱々しかった。
そんな残り少ない毛根を気遣うようにタッシャさんは穏やかな表情で口を開く。
「お忙しいところ失礼いたします。依頼の件についてお話を伺いたく参りました」
「え、依頼……?いや……あんたたちが……?」
あまりいい空気ではないようだ。
ただの薄汚れた旅人にしか見えない我々では無駄飯を食らいに来たのかと勘違いされても仕方がないだろう。
しかしタッシャさんは怯む様子もなくすぐさま機転を利かせる。
「いえいえ!私ではなくこちらのシスターがどうしてもと……何かお力添えができればと思い参上しました」
裏手から奇襲を試みようとしていたシスターさんがひょっこりと顔を出しおじさんに微笑む。
「こーんにーちわ~!シスターでえーす!宇宙最強の神様、ムオン様にお仕えしておりまーす!」
「……お、おお……!な、なんという慈しみにあふれた笑顔……これならば間違いない!ささっ!どうぞ中へお入りください!」
おじさんはとたんに態度を変えると私たちを招き入れてくれた。
どうやらシスターさんのおかげで信用してもらえたようだ、よかった。
やはり聖職者というのはこういう人々にとっては心強い存在なのだろう。
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「……」
「お、おお……」
「はわわ」
私とタッシャさんは言葉を失う。
シスターさんだけはなぜか嬉しそうに目を輝かせていた。
「いい加減にしてよ!私が本物なの!」
「そっちこそいい加減になさい!私が本物に決まってるでしょ!」
その部屋にいたのは確かに二人だった。
他にはなぜかゴツくていかつい石像が二人を見下ろすように部屋のど真ん中に置いてあったが今は関係ない。
「ドッペルゲンガーさんって……双子さんのことだったんですね!」
シスターさんが声をあげる。
藁のような黄色い髪にそばかすの浮かんだ顔。
そして少し汚れた粗末なブラウスに茶色の履き物。
確かに二人いるが、双子のようにそっくりだ。
いや、瓜二つなんてものではない。全く同じ位置にそばかすがあり、服装も同じ汚れ方をしているのだ。
それより石像のことが気になってしまったが、必死に意識の外へと追いやることにする。
「ど……どっぺい??い、いえ……私どもの娘、ウノは一人娘なので……姉も妹もおりません」
おじさんがたどたどしく答えると娘さんたちが同時に声を発した。




