エルドラド53
エスズとの通信を終えた私はすぐに部屋を出て、どうにかお兄様の婚約者さんを落ち着かせようと奔走するお母様達を捕まえる。
「お母様!一度落ち着いてください!それとお兄様!楽しいからと一緒にならないでください!というか、お兄様の婚約者さんなんですからお兄様が介抱してあげてください!じゃないと私に近寄るの禁止にしますよ!?」
最初は私が構ってくれたことに嬉しさを感じていたのだろうが、突然の接近禁止令にポカーンとしてしまった。そしてそれを笑うお母様。
「お母様もですからね?」
自分は関係無いと思っていたお母様だったが、私の一言に固まっていた。
「私が言う前に落ち着かせてください。お父様だけじゃないですか、冷静に対応しているの。」
ムスッとしながらお父様に抱きつく。お母様もお兄様も私のことを色々な意味で大切にしてくれているのでこういう行動をすると面白いくらい楽しい反応を見せてくれる。
「ありがとう、サリス。私だけでは手が回らなかったんだ。」
抱きついている私をワシャワシャと撫でるお父様。とりあえず、固まっているお母様と放心状態のお兄様をメイドさんたちに任せてお父様と部屋に入る。
「ふぅ、変わりませんね。」
「みんなサリスのことが大事なんだよ。」
「わかってます。」
部屋のベッドに寝かされたお兄様の婚約者さんはだいぶ落ち着いたようで静かに寝息を立てている。
「何か話したいことがあったんじゃないのかな?」
「ええ。実はエスズからニライカナイに行くので一緒に来ませんかと誘われているんです。」
「エスズさんと言うと、サリスが気に入っているアルカディアの子だったよね。」
「はい。エスズにはヴァーナで手伝ってもらいましたし、今後も良い関係を続けていきたいので一緒に行こうと思っているんです。」
「そうか。サリスが行きたいと思うなら、私は止めない。だが、何があったかだけは報告してくれるかな?」
「わかりました。」
お父様は私のことを信じてくれているようで心配そうな顔をはしていなかった。
「彼には伝えるのかい?」
「はい。もし何かあった場合、大変なことになりますから。」
「サリスの力でも対処出来ないが何かあったら国の方が大変なことになるだろうね。」
お父様は笑いながらそう言った。
「流石に私でも対処出来ないことはあります。」
ムスッとしながらそう言うとお父様はわかってるよと言って撫でてくれた。
「では、私はラースナー様に伝えてきます。」
撫でる手が止まったあと、私はお父様にそう言ってそのまま部屋の窓から飛び出る。重力に引かれて落ちる前に手早く結晶を作り、体を浮かばせる。軽くお父様に向かって一礼をしてから目的地の皇城に向かった。しばらく飛べば同じように飛んでいる人が見えてくる。段々と街に近づくにつれてその数も多くなっていき、飛行する速度に合わせて高度を分けるポールも見えてきた。速度と高度を上げて流れに乗れば皇城までは直ぐだ。訪問者用のフロアに降り立てば直ぐに警備の人が駆け寄ってくる。
「どうも。ラースナー様いらっしゃる?」
警備の人にそう聞くと、直ぐに案内してくれた。
「おや?珍しいな。そちらから尋ねてくるとは。」
どうやら休憩中だったようで机の上には飲みかけのコーヒーとケーキが置いてある。
「伝えておいた方がいいと思ったので。」
向かいに座ると、真っ直ぐにラースナー様を見ながら話す。
「実はエスズからニライカナイに一緒に来ないかと誘われまして。」
「ニライカナイ?どうしてまたあの国に。」
「どうも向こうの国の問題をどうにかしようと動く存在から接触があったそうでして。」
「問題って言うとずっと続いてる王家信仰の話?別に問題になってるようには感じないけど。」
やはりラースナー様も私と同じ認識だった様子。
「だと私も思っていたんですが、どうも内部で方針の違いが出始めたみたい。国の資源を活用して他国と協力をしたい派閥と今までの形を維持したい派閥で分かれているらしいです。」
「うーん。正直、ニライカナイの資源が大陸に流通したとして、何か変わるとは思えないけど。」
現状ニライカナイから大陸中に流れてくる資源はほとんど無い。それでも特に問題なく暮らしていけてるのでそうだろう。
「まぁ、そうですね。でも、何かあった時はそうならない可能性もありますから。その時にニライカナイから資源を手に入れることが出来れば安心じゃないですか?」
明言はしなかったが私の言った何かがどのことを指すかはラースナー様も分かったらしい。
「なるほどな。そういうことなら頼んだよ。」
「了解。他の人にはラースナー様から伝えておいて。私から言うと絶対暴走しそうな人いるから。」
「それを抑えるの私なんだけど。」
「ファイト!」
小さく両手を胸の前でグッと握ってそう言ってやると、あからさまに嫌そうな顔をした。
「じゃあ私はこれで!そろそろバレそう。」
急いでラースナー様の部屋から飛び出して皇城を離れる。念の為全身を結晶化させておいたが、正解だった様子。私が部屋から飛び出して直ぐに皇妃が部屋に入ってきたらしく、窓から身を乗り出して私を探す姿を見ることが出来た。
「どの服で行くか。」
自分の屋敷に帰ってきた私は必要なものを鞄に詰め込んで、あとは服だけという段階で悩んでいた。
「普通の冒険者らしい格好でもいいけどそれだと馴染みすぎる。かと言ってドレス系だと浮きすぎる。うーん。」
何着か並べてその前で悩んでいるとリャナがコーヒーを持ってきてくれた。
「お悩みですね。」
「潜入とはいえ、相手が王族だからね。丁度良く印象に残る服っていうのが思いつかないのよ。」
一度考えを休憩としてリャナが持ってきてくれたコーヒーを飲む。
「お嬢様、お1つ提案よろしいですか?」
「ん?いいよ。」
珍しくリャナがそう言ってきたため、聞いてみる。
「少々お待ちください。」
足早に部屋を出ていったリャナ。戻ってきたその手には1着のメイド服が。
「こちらはどうでしょう。」
「メイド服?目立たない?」
街に一人でメイド服を着て立つ私を想像したが、かなり目立つ用に感じた。
「お1人でしたら目立ってしまいますが、今回はエスズ様もご一緒です。それにこちらのメイド服は少々手を入れておりまして。」
そう言って畳まれていたメイド服を広げた。
「確かにベースは家のメイド服だけど所々違うわね。」
「はい。こちらのメイド服はお嬢様用に仕立てたものですから!」
何故か熱の入るリャナ。とりあえず、私用に仕立てられたメイド服があることは置いておくことにした。
「見て頂いてわかるようにこちらのメイド服は袖の部分と丈に手を加えています。袖は動かす時、邪魔になることを防ぐため細めにしてあります。丈の方は激しい動きでも妨げにならないように膝辺りまで上げてあります。」
メイド服と一緒にリャナが持ってきた鞄の中には黒色に銀色のデザインが入った籠手が入っていた。
「こちらをつけて頂ければ、戦うメイドの完成でございます。どうでしょう?」
今目の前にあるメイド服は確かに、求めていた丁度良く目立つ服装だ。
「1回着てみようかな。」
ポツリとそう呟いた。
「かしこまりました。」
「へ?」
私ですら反応できない速度で服を脱がされた。一瞬で下着姿になった私にリョナはメイド服を着せ、籠手をつける。困惑する私を椅子に座らせて手早く髪を編み込んでいく。
「どうでしょう?」
しばらくして、鏡の前に現れたのは完璧に整えられたメイド服を着た私だった。




