閑話 闇の集会 ヌイ
「どうしよっかなー?」
先程部屋に来たご主人様の黒姫様が手紙を読んで悩んでいた。漆黒のドレスと腰あたりまでの長さの編み込んだ明るい茶髪を持つ黒姫様。思わず目で追ってしまいそうな姿だが、何よりも目を引くのが顔をほとんど覆っているその仮面だろう。黒く染まる仮面にはつり上がった口と線のように細く、そして長い目という見る人全てが不気味に感じるであろう顔が金色で刻まれ、縁を白で塗られた仮面。唯一その仮面から除く黒姫様の左目が手元の手紙を見て仮面の目とは対象的な光を宿している。
「あなたは離れるつもりないのよね?」
黒姫様の後ろから覗くようにして手紙を見ていた私にそう聞いてきた。
「もちろん。強い存在に従うのが私の生き方ですから。」
黒姫様から貰ったメイド服を着て、日々この部屋を掃除したり、必要なものを用意したりしているが、全て命令されたものでは無い。私自身が進んでやっていることだ。全ては黒姫様から捨てられないために。
「へぇ。じゃあ私より強いやつがいたら裏切るんだ。」
黒姫様の雰囲気から失敗したと思った時には遅かった。私の首に当たる冷たい感覚。小さい点でしか触れていないはずなのに黒姫様が持つ槍からはおぞましい冷気を感じる。
「裏切る可能性があるなら、殺すかな?」
少しづつ槍の触れている位置が移動しているのがわかる。力加減を変えれば槍の先端は簡単に私の皮膚を裂くはずなのに、痛みは一切ない。それだけ黒姫様の力加減が繊細である証拠だ。
「う、裏切るつもりはありません!」
体中に変な汗をかきながら絞り出すようにそういった。黒姫様は以前村にいたほかのサキュバス達が契約したご主人様と比べると明らかに優しい。なので、本当に裏切るつもりは無いのだが、たくさん理由を話そうとしたが出たのはこれだけだった。
「ふふ、まぁいいわ。」
首に触れていた冷たい感覚が消えた。ご主人様が悩まれている原因は私にある。
事の発端は以前マーケットに買い物へ出かけた時のこと。
実は『闇の集会』と呼ばれているこの場所は私たちの世界では割と有名。しかし、行くことが出来る存在も少ない上行くことができても公にしていないため、行き方を知っているのは極小数。そして、ご主人様の世界からこの場所に来る場合は不定期に届く招待状を使う必要があるのだが、私たちの世界から来る場合は専用の招待状を使えば何時でも何度でも来ることが出来る。さらに言うと、入るのには招待状を使わないといけないが、出る場合は集会にいくつかある出口から出ればいいだけ。なので私はよくマーケットに買い物に出かけていたのだ。お金はご主人様が集会で稼いだお金を使っている。ご主人様の世界にここで稼いだお金を持っていったらこの集会に来ていることがバレる可能性もあるし、何よりお金には困っていないからとの事。仕草や雰囲気からも普通の人ではないとは思っていたが。
話を戻してマーケットに買い物行った時のこと。その時は私がご主人様の許可を得て集会で販売しているお菓子の材料と部屋の牢屋にいるノーラとハースのための食材を買いに行っていた。マーケットには定期的に行くことが出来ないため、1度の買い物でかなりの量を買う事になる。その日も必要十分な量を買い込み、集会に戻ろうとした時のこと。突然手を掴まれたのだ。
「ヌイ!」
私の手を掴んだのは村にいた時の幼なじみだった男のサキュバスだった。
「ウト!?あなた、なんでここに!?」
驚きつつも、周りを考え影に移動してそう聞いた。
「連れ戻しに来た!」
「連れ戻しにって、なんでよ?」
ウトの言っていことが理解出来ずそう聞いていた。
「なんでって、無理やり連れていかれたんだろ?なら、連れ戻そうとするのは当たり前だろ。」
どうやら、私とハースが消えた理由はしっかりと伝わっていないようだった。
「あのね?ハースはともかく、私は今のご主人様に負けたの。つまり、無理やりじゃない。だから連れ戻すならハースを連れ戻しなさい。」
私の言葉を聞いてもウトは納得していない様子。
「大丈夫!ここなら逃げても絶対バレないから!」
そう言って無理やり引っ張ろうとするウトの手を払い除ける。
「そういう問題じゃないの。確かにご主人様は怖い。でもそれ以上にご主人様は優しいの。だから離れる理由は無いのよ。だから、これ以上私をご主人様から話そうとしないで。」
それだけ言うとその場から一刻も早く抜け出すために招待状を開いて集会まで戻った。そんなことがあったのが少し前。もちろんそのことはご主人様にも報告してある。そして今、ウトがこの集会に潜り込もうとしているという情報が届いたのだ。
「それにしても、どうしてその情報をご主人様に?」
手紙の寄越したのはウトにこの集会への招待状を売った存在だった。
「多分、保身と集会を盛り上げる為でしょうね。私に先に情報を渡せば対処出来る。さらに、私がこの情報を使って一芝居すれば集会に来ている人も楽しめるから私も集会の主催も損はしない。」
「ご主人様がすぐに対処した場合意味無いのでは?」
「私が対処してもどうせ主催は私の事見てる。そうなれば楽しむ人が減るだけで変わらないよ。なら私が選ぶのは1つ。全く、楽しませてくれるわね。」
呆れたようにそう言っているが目からはとても狂気的な光を感じた。
「さてと、方向性は決まったけど問題は何をやるかね。」
楽しそうに手紙をしまい、取り出した紙に何かを書いていく。
「とりあえず、ただ捕まえるだけだとつまらないわよね。試練を与えつつ、ヌイのところにたどり着かせるっていうのも手だけどそうなると集会全体で準備しないといけない。さすがにそうなると時間もだけど予算も発生するだろうから現実的じゃないわよね。」
ズラっと書き出していく案を一つ一つ消していく。よくここまで案が出てくるなと思っていたが、ご主人様の納得する案はひとつもなかったようで紙には横線が引かれた案で埋まっていた。
「あの、私からもいいですか?」
ウトとは長く一緒にいた。性格から考えて、試練を与えても諦めることは無いだろう、さすがに私もウトが死ぬのは見たくないのでショーとして見ることが出来るような案を提案してみることにした。
「私をウトに助け出させるというのはどうでしょうか。」
「助け出させる?」
「はい。私がご主人様に酷いことをされている姿をウトに見せればすぐに私を助け出そうと動くと思います。最初はウトの思い通りに進んできると思わせるために、私を助け出させます。その後は適度に妨害をして、あと少しというところで捕まえるんです。」
「それで?捕まえた後は?」
「闘技場で戦いをします。ご主人様とウトで。ただ、ご主人様はここで1度負けて欲しいんです。」
私の案の一番大事な部分。しかし、ご主人様が納得してくれる自信はなかった。
「そこで負けることで何か次に繋がるわけね?」
「はい。」
「なら、そのまま続けて。」
「ありがとうございます。ご主人様が負けた時、私がすぐにご主人様のところに駆け寄ります。そうすればウトは困惑すると思うんです。そうなってまえばあとは私がウトを拒絶すれば全て解決すると思います。」
私の案を静かに聞いていたご主人様。
「うん。いいと思うよ。」
しばらく考えたあと、ご主人様はそう言ってくれた。
「ただ、負けないといけないのか。場合によってはかなり難しいな。そのウトって子強い?」
ご主人様が私の案を具体的な形として紙に書き出しながらそう聞いてきた。
「強い、と思います。私のいた村では村の防衛を任されることも多かったので。」
「なら大丈夫か。あんまり弱いと加減を測ろうとした一発で殺す可能性あったから。」
当たり前のように残酷なことを言うご主人様に私は笑いしか出なかった。




