アルカディア49 エスズ
『他国の情報仕入れてはいるけど、そこまで気にしてなかったわね。』
結晶の向こうでサリスさんがそう言った。
「情報持っているからこそ当たり前だと思ってました。」
『信仰なんて他国が口出せるようなものじゃ無いしね。』
そう言うサリスさんの後ろからは他の人の声が聞こえる。
「今何処にいるんです?」
『実家よ。やること終わったから帰ってきたんだけど、偶然お兄様の婚約者さんが来ててね。私と会って気絶しちゃったんだ。それで今屋敷内が大騒ぎなのよ。』
なんでもないようにそう言ったが、聞こえる声は何かに遮られているのに聞こえてくる。
「かなり大騒ぎみたいですね。」
『そうなのよ。最初倒れた時、慌てて私が無理やり起こしたら、その事実にまた気絶しちゃったのよ。だから私は近寄るなって言われて自分の部屋に引きこもってるわけ。』
困り顔のサリスさんが容易に想像出来る口調だった。
「それにしても、どうして気絶しちゃうんです?次期皇妃とはいえ、サリスさん自身は別に怖いわけでもないじゃないですか。もしかして貴族の方じゃないんですか?」
『貴族よ。私より歳上で、お兄様と同じくらいだったはず。でもね〜、家の位が違うのよ。』
「家の位・・・爵位みたいなものですか?」
『そうそう。』
サリスさんが飲んでいるカップを置いた音がした。
『エルドラドって第1、第2っていう感じで貴族の家の位を分けてるの。私の家は第1貴族家なんだけど、婚約者さんは第5なのよ。』
さすがはエルドラド、その辺も違うらしい。
「いまいち差が想像できませんね。」
『簡単に言うと貴族として認められた時期の違いね。数字が増えるほど新しい家ってこと。』
つまり第1のサリスさんの家は相当古くからあるということになる。
「なるほど。言っちゃ悪いですが、珍しいですね。それだけ差がある貴族の家同士で婚約って。しかもお兄さんってサリスさんの家の次期当主ですよね?」
以前タリスさんから聞いたことを思い出してそう聞いた。
『確かにね。お兄様は気にしてないけど、周りでは何か裏があるのではとか言われてるからね。本当に何も無いけど。』
「どういう経緯で婚約者になったんですか?」
お見合いや、政略結婚では無いとすると出会いがとても気になった。
『えっと、お兄様はよく街に買い物がてら行くのよ。もちろん変装して。それでたまたま行った店で仲良くなったって聞いた。詳しくは教えてくれないんだけど。』
「なんだか微笑ましいですね。」
お店で仲良く盛り上がっているであろう姿を想像した。
『いやぁ、どうだろ。お兄様、かなりイタズラ好きだからね。予想だけど、お兄様は相手のこと出会ってから調べてたんじゃないかな?それで裏から逃げられないように婚約者さんの家にもそれとなく伝えてそう。決まってからの動きがめっちゃスムーズだったし。』
思いがけずサリスさんの家族について聞くことが出来た。と、話がだいぶ脱線したので元に戻す。
「それで、どうします?ニライカナイについて。」
『手伝うよ。国同士の関係抜きにして面白そうだし。それに、エスズには手伝ってもらったからその恩返ししないとね。』
「ヴァーナに行かされたことですか?別にそういう風に思ってわなかったんですが・・・。わかりました。それで日程は大丈夫なんですか?」
先程やることは終わったと言っていたが、今回私について来るとなると数日では済まない。
『多分大丈夫だと思うよ?発表されているとはいえ、まだ婚約者っていう立場だからある程度自由に出来る。それに、ラースナー様と違って私以外でも代わりにできるように整えたから。』
「それならいいんですが。」
サリスさんがそう言うなら大丈夫なんだろう。
「いつから行きますか?私は家の人にだけ話してから行こうと思ってるんですが。」
『国王には言わないの?』
「事後報告で言うつもりです。」
『言うのね。隠すのかと思ったわ。』
「流石に隠した時のリスクが大きいですから。」
サリスさんは少し考えている様子でうーんと言っている。
『とりあえず、家のドタバタ収めて、ラースナー様に伝えておけば大丈夫だろうからそうなると私の方ご早く出られるかも?』
「じゃあ現地集合にしますか?エルドラドとアルカディアでは中間地点で合流っていうのも難しそうですし。」
『やつぱりそうした方がいいのかな〜?』
「こうやって連絡とれますし、いいと思いますよ。」
『了解。じゃあ着いたら連絡するって形でいい?』
「はい。大丈夫です。」
サリスさんは家のドタバタを止めて来ると言って通信が切れた。私も結晶をしまってお父様の部屋に向かう。
「お父様?今お時間よろしいでしょうか?」
部屋ではお父様だけではなく、お母様も揃っていた。丁度お母様にも話しておこうと思っていたので丁度良かった。
「ああ、エスズか。もちろんだよ。」
仕事の手を止めて私の方を向いてくれたお父様。お母様も整えていた紙の束を置いて私の方を見ている。
「実は先日、街に行った時にある方とお会いしました。」
私は2人の前でスっと背筋を伸ばして話し始めた。
「その方は自らをニライカナイの王位継承権第一位を持っていた者だと言っていました。」
お父様もお母様も一切表情を変えることなく私の話を静かに聞いている。
「彼は今のニライカナイは王家に対する信仰が洗脳のようになっていて、上手く立ち回る事が出来ていないことを問題視していました。」
「そうか。それでエスズは何をするつもりかな?」
「ニライカナイの問題を解決し、その協力をした見返りを得るつもりです。具体的にはニライカナイが持つ資源の優先購入権等でしょうか。」
お父様もお母様も少し考えるようにお互いを見合った。
「かの国の問題を解決出来れば、今よりも多く資源は出回るだろう。だが、優先購入権を手に入れることができるとは限らないぞ?」
お父様が試すようにそう聞いてきた。
「わかってます。だからこそ、私以外にもう一人声をかけてありますわ。」
「その人がいれば無かったことにはされないと?」
「ええ。エルドラド皇国を敵に回す勇気があれば分かりませんが。」
それだけ言うと、お父様も私が呼んだのが誰かを察した様子。
「そうか。なら、私たちは良い報告を待つよ。」
「ありがとうございます。」
ニコッと笑うお父様。
「エスズ?ニライカナイは魚が美味しいそうよ。せっかく行くんだから楽しんでいらっしゃい。」
相変わらずのお母様に私も笑顔になる。
「それでは私はミューダ達にも伝えてきます。」
「ああ、わかったよ。いない間は私たちの方で処理できるものは進めさせてもらうよ。」
お父様の部屋を出た私はその足でミューダがいるであろう場所を屋敷中探して歩いた。そして屋敷の裏手にある草原でようやく見つけた時、ミューダはモミジさんの前でグデッと横になっていた。
「えっと、これは?」
その光景に困惑していると私に気がついたモミジさんが近寄ってきた。
「これはエスズお嬢様。」
「どういう状況?」
「最近、ディーネさんのドリンク飲んでましたか?」
そう言われて思い出した。継続して飲んでいるものは朝起きてからすぐ飲んでいるが、エルドラドにいた時定期的に渡されていたドリンクは最近は飲んでいない。
「代わりに私が飲んでたのです。ミューダはその付き合いです。」
倒れているミューダを助けながらモミジさん達にもニライカナイに行くことを話した。その時サリスさんも着いてくると言ったので一気に安心感が出たのだろうお土産待っていますと言ってくれた。




