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―― 大天狗の屋敷 ――
「大天狗様! ご報告です!」
大天狗は走り寄ってくる烏天狗に静かに手を出すと、烏天狗を静止するように言った。
「落ち着くのだ。何事か」
烏天狗は慌てて膝をつくと、顔を上げて大天狗に報告した。
「大天狗様。例のひろし様と洋子様が行かれた世界ですが……」
「ほう。何か動きがあったか」
「はい。なんと魔王エヴを仲間にしました」
「なっ、なんだと!?」
「しかも、滞在地に攻めてきたリムリテイル王国の騎士団も1人の死者も出さずに撃退し、滞在している辺境の村の経済状況まで改善させつつあります」
その報告を聞いた大天狗は思わず笑みを浮かべながら呟いた。
「やはり、あの者たちは今までの者たちとは違うようだな……」
その呟きが耳に入った烏天狗は思わず大天狗に尋ねた。
「今までの者たちと違うとは……」
「うむ。あの世界は、本来であればガンデロ帝国が金属兵で支配して荒廃し、その後魔王エヴが飢えで死ぬと放出された魔力によって金属兵が暴走するのだ」
それを聞いた烏天狗は驚いた様子で大天狗に聞き返した。
「金属兵が暴走……。もしや、その末路は……」
「うむ。生命の滅亡だ。暴走した金属兵はあらゆる生命を攻撃し、植物に至るまで滅ぼしてしまう。そしてやがて金属兵も動かなくなり、不毛の世界となる」
「なんという……」
「今まであの世界に行った者たちは、良くてガンデロ帝国を止めることが出来たが、結局は魔王エヴの魔力の放出で失敗している……」
「そううでしたか……。魔王エヴも止めなくてはならないのですね……」
「その通り。稀に魔王エヴの存在に気づいて討伐した者もおったが、その間に金属兵が完成し……」
「なるほど……。その難しさゆえ、今まで誰もあの世界を救うことが出来なかったのですね」
「うむ。何度も時を戻して転生者を送り込んだが失敗続きだ。しかし黒狐の一族が気まぐれに救った命を覗いた時、そして、あの猫の周りの人々を見つけた時、一筋の希望を見出したのだ」
烏天狗はその言葉を聞いた時、小さな疑問が浮かび、思わず大天狗に尋ねた。
「大天狗様……。僭越ながらお尋ねしたいことが……」
「なんだ」
「なぜ、あちらの世界へ送り込む時、ガンデロ帝国や魔王エヴの事をお教えしないのでしょうか。知識があれば攻略の成功率が上がるのではないのでしょうか」
するとそれを聞いた大天狗は顎の髭に手を当てながら答えた。
「どの世界も、その世界の住人は未来を見ることを許されない。そこへ未来の情報を知るものを送り込む事は出来ぬのだ」
「なるほど」
「先代の大天狗の頃に一度、未来の情報を教えた女子をあの異世界へ送り込んだ事がある。しかし、その者はあちらの世界へは行けず、だが戻ることもなく、未だに見つかっておらぬ」
「……それは死ぬより恐ろしいことですね」
「うむ。しかし、あの世界が救われることになれば、その女子も帰ってくるかもしれぬ。いや、そうあって欲しいのだ」
「大天狗様……、その者に何か思い入れがあるのでしょうか」
すると大天狗は虚空を見つめながら徐ろに語りだした。
「あの者は『見通す者』であった。まだ行ったことのない様々な異世界の事を知っており、その知識の量は膨大であった。そして死ぬ前の世界では『ヒキコ守』だったという」
「ヒキコ……モリですか?」
「うむ。おそらくヒキコという地を守る者という意味であろう。さすがは見通す者……」
大天狗はその頃の記憶を思い出し、当時その女子が満面の笑みではつらつと話した言葉を思い出した。
◆◆◆
「あ、あれですかね、転生スキルもらえない系だけど現実世界のゲームスキルが使える系ですかね。ふむふむ。散々ラノベ読んできましたけど、ちょっとレア設定ですね。わかった、VRゲーム取り残され系と異世界転生モノが合わさった感じの世界観ですね。なるほど、理解しました。いやでも現実世界のゲームスキルが使える設定はアツいですね。あ、でも、これってもしかして転生ボーナスと合わせて………………」
◆◆◆
大天狗はその言葉を烏天狗に伝えると、烏天狗は驚愕しながら答えた。
「なるほど。まさに見通す者ですね」
「うむ。当時13歳の私には光り輝く英雄が現れたようにしか見えなかった。先代の大天狗も『見通す者』であれば大丈夫であろうと、未来の情報を教えたのだ」
「大天狗様はその見通す者……、いえ英雄様を取り戻したいのですね……。それで大天狗様はあの世界の事となると、かようなご無理を……」
「うむ。そのために大天狗になったと言っても過言ではない」
大天狗はそう言うと、静かに目を閉じて小さく息を吐いた。
◆
その頃、おじいさんたちは魔王エヴや村の長たちと一緒に会議をしていた。
魔王エヴはガンデロ帝国の金属兵の事や、帝国が金属兵のために魔族の魔力を奪っていること、そして帝国が多くの奴隷を作ろうとしている事を話した。
そして村の長は、このリムリテイル王国がその事も知らずに王族や貴族が贅沢な暮らしをして民衆の暮らしを圧迫している事を話した。
その話を聞いた黒猫は、話をまとめた。
「このままではガンデロ帝国がリムリテイル王国を滅ぼし、奴隷の国としてしまうのが目に見えております。まずは金属兵の完成を止めなくてはならないようです」
すると魔王エヴが黒猫に金属兵の説明をした。
「金属兵は人間ほどの大きさで相当な数があると聞く。そしてその一部は既に魔力の充填が完了しそうだと内通者の魔族から報告が来ている。急がねば危ない」
それを聞いた黒猫は魔王エヴに聞き返した。
「内通者の魔族。それはガンデロ王国にスパイの魔族がいるということであろうか」
「うむ。我が妹、エスプララだ。信用できる者だ」
「そうか。では他にガンデロ帝国の情報はあるのであろうか」
「うむ。では話そう」
こうして会議は続いた。




