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おばあさんは、すっかり元気になった魔王エヴとインメリアを連れて部屋を出ると、部屋の外で待っていた黒猫が猫の姿で眼光鋭く魔王エヴを威嚇しながら言った。
「お主。わが主の夫、ひろし殿を手に掛けようとした罪、よもや忘れていないであろうな」
すると魔王エヴは静かに目を伏せながら答えた。
「あれは私の無知がゆえの愚行。許されよ。今となっては魔道士様は私たちを『お友だち』としてくださった」
それを聞いた黒猫は全身の毛を逆撫でながら目を大きく見開いて言った。
「なっ!! お主たちが『お友だち』だとっ!!」
「ああ、そうだ。魔道士様は、そうお許しくださった」
すると黒猫はハッと気がついて魔王エヴに言った。
「ふふははは。お主。お主はお友だちだと言ったな」
「うむ」
「ならば、お主を『お友だち』とお呼びくださった尊きお方の『名前』を知っているのか?」
「はっ!!」
魔王エヴが驚くと、隣りにいたインメリアも少女漫画のように驚いた。
その様子を見た黒猫はエレガントに座り直すと、カッと目を見開きながら魔王エヴとインメリアに言った。
「この尊きお方の名は洋子殿。その名を知らぬとはなんと失敬な! これからは洋子殿……、いや、格下のお主たちは洋子様と呼ぶが良い!!」
「「ははーー!!」」
魔王エヴとインメリアが黒猫にひれ伏すと、おばあさんは黒猫の背中を撫でながら優しく黒猫に言った。
「猫ちゃん、この魔王さんたちも大変なのよ。そんなに厳しくしないで仲良くしてあげて」
すると黒猫は少し頭を下げながら答えた。
「はっ。洋子殿がそう言うのでしたら」
それを聞いた魔王エヴは突然立ち上がると不敵な笑顔を浮かべながら黒猫に言った。
「はっはっは! 洋子様がそう言っておられるのだ! 仲良くしようではないか、猫殿!」
そしてインメリアも立ち上がると黒猫に言った。
「洋子様のご意思は尊重せねばな! 仲良くしよう、猫よ!」
黒猫はかなり釈然としなかったが、その感情を飲み込んだ。
―― 翌日 ――
なんと村の門の前に、魔王エヴが魔王領に残った100あまりの魔族を連れてきて待機させていた。
魔王エヴはおばあさんを連れて魔族たちのところへやってくると、片膝をついておばあさんに言った。
「洋子様。この魔族の者たちは私の部下です。今日より、洋子様の配下と致します」
「あらあら、配下だなんて困るわよ……。それにしても……」
おばあさんが魔族たちを見渡すと、魔族たちは全員疲弊しているように見えた。
おばあさんは気になって魔王エヴに尋ねた。
「ねぇ魔王さん? この方たち、しっかりご飯を食べているのかしら」
すると魔王エヴは申し訳無さそうにうなだれると、突然低く頭を下げながらおばあさんに言った。
「洋子様! どうか私を奴隷としてください! その代わりに、この者たちに何か食べ物を!!」
魔王エヴは涙を流しながらおばあさんに懇願すると、おばあさんはその姿に少しもらい泣きをしながら答えた。
「まぁまぁ……。あなたは魔族のみなさん食べ物を与えたくて連れてきたのね……」
「申し訳ございません洋子様……。私は弱い魔王です……。魔族の皆を救ってやることも出来ず、このような事に……」
「いいのよ。でもね、この村は平等に食べ物を配給しているの。これだけ多くの魔族さんたちに食べ物を差し上げるとなると……」
「はい、重々承知しております! 何でも良いのです。野菜の切れ端でも、果物を剥いた皮でも!!」
「ま、待ってください魔王さん、それじゃ、いくらなんでも魔族さんたちも……」
「いえ、この魔王エヴの失態が!!」
魔王エヴが涙ながらにおばあさんに話していると、おばあさんが母親を助けたテテが果物を持って走ってきた。
「洋子おばあちゃん、お話聞いてたの。これ持ってきた!」
テテは走って魔族たちの近くへやって来ると、手前に座っていたガーゴイルとゴブリンの手に切り分けた果物を手渡した。
ガーゴイルとゴブリンは果物を手渡されて驚いたが、あまりの空腹に果物を食べ始めた。
するとテテの母親や村の人々もやってきて、魔物たちに薄く切り分けた果物を手渡し始めた。
先頭でテテから果物をもらったガーゴイルとゴブリンは果物を一瞬で平らげると、満面の笑顔になった。
そして魔族に果物を渡しているテテにお礼をした。
「果物をありがとう。私はガーゴイルのガー。この御恩、一生忘れません」
「お、おでは、ゴブリンのゴゴ! お、おでも忘れないんだな! な! でも、この果物、おでたちが食べていいのか?」
テテはその言葉に笑顔になると、優しく答えた。
「うん! わたし朝、切った果物を食べたから大丈夫なの。だから、家にある果物は全部みんなにあげるね!」
それを聞いたガーゴイルのガーはテテに尋ねた。
「少女よ。今日の昼食はどうするのだ。それに明日の分は。こんなに多くの果物を分けてしまっては皆の食べ物も……」
「ううん、大丈夫だよ! お母さんがね、いっぱい食べたら太って可愛くなくなるって言ってた。わたしお母さんみたいに可愛くなりたいから少ししか食べないの。うふふ」
「いや、少女よ。それは母親がお前に方便を……。いや……、す……、すまぬ。お前の母親は素晴らしい母親だ……。しかし果物もタダではない。大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ! あと2日経ったらまた貰えるの」
「なっ!? ……いや、しかし、2日後までは何も食べられないのでは……」
するとテテと一緒に果物を手渡している母親がガーに言った。
「大丈夫です。私は少し前に命を助けられました。今は命を助ける時だと思っています」
その言葉を聞いたガーは驚きのあまり体を硬直させていると、おばあさんが優しくガーに説明した。
「この村はお金が増えたのだけれども、ここは土が痩せているから他の国から食べ物を買うしかなくて。だから買った食べ物をみんなに平等に分けているの」
「なるほど……」
「でも大丈夫よ。テテちゃんとお母さんには調整して出来るだけ果物をプレゼントするわ。だって、こんなに優しい事をしてくれたのですもの」
「……私たちのせいで申し訳ない。この御恩は必ずお返しさせてください」
ガーはおばあさんたちにひれ伏すと、ゴブリンのゴゴと後ろにいた魔族たちも一緒にひれ伏した。




