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―― ベベの村 ――
眠っていたインメリアは遠くから聞こえる馬の蹄の音に目を覚ました。
「馬……? ん? 全速力か?」
インメリアはベッドから飛び起きると、急いで家の中から飛び出した。
すると村の前を一頭の戦馬に乗った元騎士が駆け抜けながら指笛を鳴らした。
ピィィイイイイ!!
「ドラゴンが現れた! 皆さんのお力をお貸しください! ドラゴンはこのまま私が旧魔王領へ誘導します!」
戦馬はそのまま旧魔王領の方角へ走り去ると、それを見たインメリアは声をあげた。
「全員起床ぉぉおお!! 武器を取れぇぇええ!!」
バサッ、バサッ!!
するとその時、登り始めた日に照らされた屍のドラゴンが戦馬を追いかけていく姿が見えた。
◆
旧魔王領まで走り抜けた戦馬は、魔王城の前までやって来ると完全に体力を使い果たして伏せてしまった。
元騎士も戦馬から降りると、観念して戦馬に話しかけた。
「最後にすまなかったな。でも、皆さんならきっとドラゴンを倒してくれる。本当にお前は良くやってくれた」
元騎士はそう言うと優しく鬣を撫でて戦馬を労った。
すると追いかけてきた屍のドラゴンはすぐ近くまでやって来て、ドラゴンに乗ったネイクラは絶叫するように元騎士に言った。
「あんたのせいで!! あんたのせいで!! あんたのせいで!!」
しかしそれを聞いた元騎士は笑顔を見せながら答えた。
「ごめんなお嬢さん。きっと君も責任を背負って来たんだよな。だけど君は、ここから逃げないと倒されてしまうかもしれない。逃げたほうがいい」
ネイクラは元騎士の言葉を聞くと、さらに逆上して声をあげた。
「うるさい!! うるさい!! うるさい!!」
そしてドラゴンに指示を出すと、ドラゴンは口の中を明るくして炎の塊を生み出した。
それを見た元騎士は優しく戦馬の首をポンポンと叩くと、笑顔で戦馬に言った。
「ははは、一緒にあの世へ引っ越しだな」
ヒィィイイン!!
しかし戦馬は嘶くと突然立ち上がって主人を守るように立ちふさがった。
「おい……」
それを見た元騎士は驚くと、その視界に信じられない速さで飛び込んでくる1匹の黒猫が見えた。
「……猫?」
黒猫は一瞬で戦馬の前までやって来ると、黒い煙を上げながら骸骨の姿になり、素早く巨大な防御魔法陣を展開させた。
ブゥゥウウウン!
そしてネイクラが操るドラゴンが吐く炎を、黒猫の防御魔法陣は完全に防いだ。
ゴォォォオオオオ!
その光景を見たネイクラはさらにパニックになって声をあげた。
「なんなの!! なんなの!! なんなの!!」
しかしその時、ネイクラの背中に何かが当たって弾けた。
パンッ!
ブワッ……
なんとそれは、おじいさんが投げたカラシ玉だった。
辛い赤カラシを600倍にまで濃縮した液体が飛び散ると、それをまともに食らってしまったネイクラは絶叫した。
「きゃーーー!! 目がぁ! 目がぁぁぁああ!」
ネイクラは集中力を無くしてドラゴンを操れなくなると、ドラゴンはゆっくりと下降し始めた。
そしてそのまま地面に着地すると、ヨクヨ商会のデカトラに乗ってきたおじいさんたちと、追いついてきたインメリアの騎馬隊に囲まれた。
しかしカラシ玉で目を開けられなくなったネイクラは、猛烈に咳き込みながら戦意を喪失していた。
◆
ネイクラは捕縛されてベベの村に連れて来られると、そのまま村の入口でインメリアの尋問を受けることになった。
「お前はガンデロに新しくできたネクロマンサーの国から来たんだな?」
「……は? 答えるわけないでしょ」
「ほぅ、なかなかの態度だな。よし分かった。ひろしさん! さっきのカラシ玉ください! この女にの目に擦り付けてやりましょう」
それを聞いたネイクラは目を開けられずにいたので異常に怖がった。
「や! やめて! それだけは!」
するとインメリアはネイクラの肩をポンと叩くと再び質問した。
「手を焼かせるな。お前はガンデロのネクロマンサーの国から来たんだな?」
「そう……、だ」
「目的は?」
「偵察……、だ」
「なるほどな。この間のドラゴンはヤクウィー領で倒されたからな。それで偵察しにきたんだな?」
「……。そのような所だ」
するとその時、ネイクラは表情を止めると、目元をピクピクと動かした。
それを見たいたインメリアはネイクラに尋ねた。
「どうした?」
「え、あ、いえ……。目が痛くて……」
「まぁ、それは仕方ないな。聞いた所によると3日は目を開けられないらしいからな」
「そ、そうですか」
ネイクラは再び目元をピクピクと動かした。
◆
同じ頃、魔王領に残されていたネイクラが操っていた屍のドラゴンの目が怪しく輝いた。
なんとネイクラは再びドラゴンを操り始めたのだった。
ネイクラは集中してドラゴンを操作しようと試みながらインメリアの尋問に答えていた。
「本当におまえ1人なんだな?」
「は……、い。わた……、し1人です」
「おい、お前。本当に大丈夫か? カラシ玉が効きすぎたか?」
「は……、はい。その……、よう……で、すね」
ネイクラは必死にドラゴンを操りながらインメリアに答えていると、日はすっかり昇り、早朝の体操に参加するためにやって来た遺跡の魔族たちもベベの村へとやって来始めた。
その中にはネクロマンサーのアリオネルダも居て、アリオネルダはネイクラを見つけると驚いて小声でメメに言った。
「メメさん、あの人はドラゴンを操る強力なネクロマンサーです。双子なのですが、妹のほうです。それとこれは感覚なのですが、あの人、何かを操っています」
それを聞いたメメはインメリアに言った。
「インメリアさん! その人、何かを操っているかもしれません!」
「なにっ!?」
インメリアが慌てると、ネイクラは嘲笑うかのように言った。
「もう遅いわよ!」
ネイクラがそう言った瞬間、空に巨大な屍のドラゴンが現れた。




