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その頃、魔王エヴは旧リムリテイル王国の王宮の謁見の間で、ガンデロ帝国の騎士団、魔導師団、重装備兵団、そして近衛騎士団の代表と謁見していた。
魔王エヴは玉座から立ち上がるとガンデロ帝国の者たちに話をはじめた。
「私は魔王エヴ。お主らを統率するようマデマメヤ国の五王から任された。お主らはネクロマンサーたちとの最前線に配置する。私と共に戦う覚悟はできているか?」
「「はっ」」
しかし魔王エヴはエリート集団の近衛騎士団長の表情を見て、近衛騎士団長に尋ねた。
「近衛騎士団長。お前は返事をしなかったな?」
「……」
近衛騎士団長が何も答えずにいると、魔王エヴは少し表情を緩めて近衛騎士団長に言った。
「まぁ本来なら、近衛騎士団を全員粛清するところだが、近衛騎士団が軽々しく他の統率者に従いたくないという気持ちもわかる」
すると突然、魔王エヴは上着を脱ぎ捨て、上半身裸になって近衛騎士団長に言った。
「近衛騎士団長! 私と拳で勝負しろ!」
それを聞いた近衛騎士団長は立ち上がると、静かに答えた。
「魔王様。それは私も望むところ。その勝負受けましょう」
近衛騎士団長は着ていた鎧を脱ぎ捨てると、筋肉隆々の体を見せつけながら魔王エヴに言った。
「魔王様。この勝負に勝っても負けても我らガンデロ帝国の兵士は指示に従わざるを得ません。しかし、もし私が勝ったのならば、魔王様にこのガンデロ帝国伝統の腰巻きを着けていただきます」
近衛騎士団長はそう言うと、ガンデロ帝国伝統の腰巻きを取り出し、右手に掴んで差し出すようにして話を続けた。
「魔王様。いざ勝負を致しましょう。この腰巻きは我がガンデロ帝国の誇り。必ずや、魔王様に着けていただきます」
近衛騎士団長はそう言うと目に闘志を燃やした。
◆
魔王エヴと近衛騎士団長は魔王エヴ持ってきていたボクシンググローブを装着し、ファイティングポーズをとって対峙した。
魔王エヴは気合が入ると、近衛騎士団長に叫んだ。
「いつでもこいやぁ! かかってこぉぉい!」
それを聞いた近衛騎士団長は一瞬驚いたが、目を鋭くさせて腰を落とすと、力任せに突っ込んで右ストレートを叩き込んだ。
「でやぁああ!」
フッ!
しかし魔王エヴはそのパンチを屈んで華麗に避けながら軽やかに左にステップし、鋭く腰を捻って渾身の右フックをボディに炸裂させた。
ドバン!!
「うぐぅっ!!」
魔王エヴのパンチは美しく近衛騎士団長のレバー(腹部の急所のひとつ)にクリーンヒットし、近衛騎士団長は思わず腰をかかめてしまった。
それを見逃さなかった魔王エヴは、下がった近衛騎士団長の顔をめがけて鋭いアッパーカットを炸裂させた。
バシン!!
「うぶっ!!」
近衛騎士団長は魔王エヴのアッパーカットに伸び上がったが、歯を食いしばって持ちこたえた。
そして直ぐさま態勢を立て直すと渾身の左ストレートを放った。
「ぬぉぉおおお!!!」
しかしその瞬間、魔王エヴの姿は近衛騎士団長の視界から消えていた。
「なっ! 消えた!」
ズバン!!
「うぶっ!」
なんと魔王エヴは茂雄直伝の右フックをクロスカウンターで炸裂させていた。
近衛騎士団長は顔面を歪ませながら数歩下がると、そのまま後ろに倒れてしまった。
バタン!
その様子を見ていた、ガンデロ帝国の近衛騎士団、騎士団、魔導師団、重装備兵団は一斉に驚くと、魔王エヴに忠誠を誓うべく、全員が膝をついて頭を下げた。
「ふぅ」
魔王エヴはゆっくりと拳を下げると冷静さを取り戻して重装備兵に言った。
「重装備兵、近衛騎士団長を医務室へ運んでくれ」
「「はっ!」」
魔王エヴの言葉に重装備兵たちは近衛騎士団長の元へ走ると、脳震盪を起こしている近衛騎士団長を謁見の間の外へと運び出した。
それを見届けた魔王エヴはゆっくりと歩き出し、玉座の上に置いておいたガンデロ帝国伝統の腰巻きを手に取った。
そして、おもむろに自らの腰に巻きはじめると、それを見た魔導師団長はおもわず魔王エヴに尋ねた。
「魔王様……、よろしいのでしょうか」
魔王エヴは魔導師団長の言葉を聞くと、ガンデロ帝国の近衛騎士団、騎士団、魔導師団、重装備兵団に言った。
「私は敵対したいわけではない。そしてガンデロ帝国も否定はしない。この腰巻きがお主らの誇りならば、喜んで腰に巻いて戦おう。お主らの誇り、私に預けてはくれないか」
その言葉を聞いたガンデロ帝国の近衛騎士団、騎士団、魔導師団、重装備兵団の長は静かに頭を下げた。
◆
謁見の間でガンデロ帝国の兵たちとの話しを終えた魔王エヴは、人が居なくなった謁見の間にアカネを呼んで稽古をしていた。
「アカネさん、おなしゃしゃぁぁす!」
「おっけー! いつでもいいよ!」
「あじゃじゃーす! いきゃーす!」
魔王エヴは鋭いパンチを連続で繰り出したが、アカネはスルスルと滑るように身をかわし、笑いながら魔王エヴに言った。
「ははは! エヴっち強くなったけど、まだまだだね」
アカネはそう言うと、魔王エヴのパンチを正面でかわし、そのまま襟を掴んで大外刈を決めた。
ドバン!!
「うぐっ!」
魔王エヴは勢いよく床に押し倒されると、冷静さを取り戻してアカネに言った。
「アカネ、やはり素晴らしい投げ技だな。私のボクシングでは勝てそうもない」
するとアカネは魔王エヴの手を掴んで引っ張り上げながら答えた。
「なに言ってんだよ。エヴっちはガンデロの兵隊さんたちを任されたんだろ? もっと強くならなきゃ」
「うむ、その通りだな。私が先陣を切って戦わねばガンデロの兵たちは信用して付いては来ないだろう。魔王というだけでは彼らも心からの忠誠は誓わないはずだ」
魔王エヴはそう言うと跳ね上がって飛び起き、再びファイティングポーズを取ってアカネに言った。
「もういっぽぉぉん! おなしゃしゃぁぁす!」
魔王エヴとアカネの稽古は続いた。




