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ブルルル……
馬が息を吐くと、横で見ていたクラクモが念で馬に尋ねた。
「傷は無いんだな?」
「はい。……それよりもクラクモ様、主人に伝えては頂けませんか。私が不甲斐ないばかりに主人の腕を傷つけてしまった。主人は騎士として生きては行けませぬ。責任を取りますと」
「ふむ。責任を取るとは?」
「主人の要望であれば死をも恐れません。奴隷の馬となれというのならば命尽きるまで働きましょう」
「なぜそうなる。お主の主人はお主を心配して来たのだぞ? 分からないのか?」
「私を?」
「まぁいい。確かにお主の主人は腕を怪我して剣を振れなくなった。だが、ヤクウィー王とヨクヨ商会のはからいで南の街からの魚の運搬を任される事になったのだ」
「運搬……。では主人は騎士をやめてしまうのですね」
「そうなるな。そして、お前の主人は輸送のために他の馬の相棒となるのだ。それをお前の主人は申し訳なく思ってな。最後にお前に謝りたいと言って、ここに来たのだ」
「なっ! そんな!」
馬の主人は人間で、クラクモたち魔族と馬との会話は耳に入ることはなかったが、主人は馬を優しく撫でながら言った。
「今までありがとう。辛い訓練も一緒に頑張ったな、ははは。お前は最高の相棒だったよ。本当に不甲斐ない主人でごめんな」
主人はそう言うと、馬の額を優しく手で触れて言った。
「じゃあな。今までありがとう。お前は武功をあげろよ」
ブルルルル!
馬は去ろうとする主人に慌てるとクラクモに言った。
「私は! 私は主人と離れたくない! どうか! どうか私を主人と一緒に! 南からの輸送ならば私が荷馬車を引きます!」
それを聞いたクラクモは馬に言った。
「だめだ。お前は鍛えられた戦馬。戦いのために働かなくてはならない」
「しかし!」
するとその時、魔馬がクラクモに言った。
「クラクモ殿。その馬は南からの輸送に使ってください。なにしろ我らインメリア騎馬隊が無傷で熊と狼の軍勢を切り抜けた中、その馬だけが主人を落馬させましたからな」
それを聞いたクラクモは首を横に振りながら小さくため息をついて魔馬に尋ねた。
「きみ、それはどういう意味だい?」
「そのような馬は戦う素質は乏しく、南からの輸送くらいが適任だと言う事です」
「……お主本気か?」
「クラクモ殿。ぜひ、ヤクウィー王にその旨をお伝え願いたい」
「はぁ……。そうか……。わかったよ。お前たちは本当に仲間思いなんだな」
クラクモがそう言うと、魔馬は黙って葉を食んだ。
◆
その頃、おじいさんの野球部ではゴゴとラゴがバッティングの練習をしていた。
おじいさんはゴゴのバッティングフォームを見ると、嬉しそうにゴゴに言った。
「ゴゴさん、だいぶバッティングフォームが良くなりましたね。きれいに振れています」
それを聞いたゴゴは嬉しそうに答えた。
「あ、ありがとうなんだな。なんだか、とっても力強くふれるようになったんだな。な」
「ええ。ゴゴさんは下半身がしっかりしていますから、腰の回転が上手になってバットのスピードが上がりましたね」
「そ、そうか。おではあんまり難しい事はわからないんだな。でも、ひろしさんのおかげなんだな。な」
「いえいえ、わたしは少し教えただけですから。ははは」
するとその横ではブンブンと勢い良くバットを振っているラゴがいた。
ラゴは持ち前の体格の良さを活かして、パワー型のバッターを目指していた。
ラゴの力強いスイングを見たおじいさんは、ウンウンと感心しながらラゴに言った。
「いやぁラゴさんは体格にも恵まれて、ホームランバッターにぴったりですね」
するとラゴは嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます! しかしまだまだ、こんなものではありません! 見ていてください! もっといけます!」
ラゴはそう言ってさらに力一杯バットを振った瞬間、なんと手からバットが離れ、バットは勢いよくゴゴのほうへと飛んでいってしまった。
「しまった! ゴゴ危ない!」
ゴゴはラゴの声を聞くとスッとバットを構え、なんと飛んできたバットを自分のバットで打ち返した。
カン! ……カランカラン!
それを見たラゴは慌ててゴゴに駆け寄ると土下座をしてゴゴに謝った。
「すまないゴゴ! 私が調子に乗ったばかりに! 本当に申し訳ない!」
しかしゴゴはキョトンとした表情で答えた。
「だいじょうぶなんだな。ゆっくり飛んできたから危なくなかったんだな。な」
「え……? ゆっくり……?」
ラゴが驚いていると、おじいさんがラゴに言った。
「きっとゴゴさんは目も良くなって良く見えていたんですね。あの速さで飛んでいったバットを正確に打ち返しましたから」
「正確に……?」
「はい。ゴゴさんは飛んできたバットの勢いを殺しながら近くに転がしました。よく見えていなければできません」
「なるほど……。まさかそんな事が出来るなんて……。ゴゴはすごいんだな……」
ラゴはゴゴに感心すると、ゴゴは少し嬉しそうに言った。
「お、おでちょっとだけ目が良くなったゴブリンなんだな。な。ははは」
ゴゴがそう言うとラゴは転がったバットを拾って気合を入れ直した。
「よし、私もゴゴに負けてはいられない! ありがとうゴゴ、君のお陰でまたやる気が出たよ!」
ラゴはバットを振りかぶると、今度は人のいない方に向かって素振りを始めた。




