75
それからさらに数日後、龍の谷の近くのネクロマンサーの集落では、再びリッチが副業でスパイをしていた。
リッチはガツデ王朝の魔導兵士だったダリンダを見つけると嬉しそうに手を振った。
「あ、こんにちはダリンダさん!」
「よー、リッチ! ここんとこ見なかったけど元気してた?」
「あ、はい、おかげさまで」
「そうそう、古代魔法の詠唱はどう? ヘルファイア・アンド・ブリムストーン出せそう?」
「そう、それなんですけど、途中でヒャッみたいなところあるじゃないですか」
「ああー、あれね。あれはコツがあってさ、口を狭くして舌を勢いよく後ろに引くんだよ。ってオレたち舌ないんだけどね。ははは」
「ははは、そうですね。でも、それを聞いて感覚つかめました。こうですよね、ヒャッ!」
「おー、それそれそれ! ヒャッ! 出来てる出来てる!」
「いやぁ、ありがとうございます! これでヘルファイア・アンド・ブリムストーン撃てそうです」
「いやぁ、良かった! 教えたかいがあったよ。でさ、3日後にね、おれたちみんなで前にアンデッドの狼たちが攻めた町を攻めるんだって。あのヤクウィー辺境伯領の」
それを聞いたリッチは一瞬動きが止まった。
するとダリンダはリッチの肩をポンと叩いて話を続けた。
「きみ、ここのスケルトンじゃないよね」
「えっ!」
リッチが驚くと、ダリンダはウンウンと頷いてリッチに言った。
「大丈夫、最初から知ってたんだ。きみ、きっと敵側のスパイかなんかなんだよね。ヤクウィー辺境伯さんのところから来たの?」
「あ、ええと、……はい」
「あ、ほんと、ぜんぜん大丈夫だから! 知っててヘルファイア・アンド・ブリムストーン教えたんだから。だって君の異常な魔力の大きさ、近づいただけで分かるもの」
「そ、そうでしたか……」
「で、3日後のヤクウィー辺境伯の町の襲撃が始まったら、きみも応戦するの?」
「……恐らく、戦闘になれば参加します」
「そっか、良かった! 前も話したけどさ、おれたちネクロマンサーから戦闘の司令が出たら戦うだけの道具になっちゃうんだ。この間も生き残りのドラゴンと戦わされてさ……」
ダリンダはそう言うと、首から下げていた首飾りを外してリッチに手渡しながら話を続けた。
「みんなで話してたんだけど、もう人は傷つけたくないねって感じでさ。だから3日後、教えた魔法でおれたちを一気に焼き払っちゃてくれない? 頼んだよ」
リッチは手渡された首飾りを受け取ると、ダリンダに尋ねた。
「この首飾りは……」
「その首飾りに、魔力のあるスケルトン全員の魔力を全て入れておいたよ。だから3日後おれたちが襲撃してきたら使って」
「……」
リッチは少し悲しそうに下を向くと、ダリンダは肩を組んでリッチに言った。
「おれたちが現れたら迷わず派手に魔力を使ってくれよな! きみが躊躇してたら、おれも勢いでヘルファイア・アンド・ブリムストーン出しちゃうかもしれいからさ。ははは」
「ダリンダさん……」
「おれも兵士だったから沢山殺したし、最後も殺されたけど、やっぱ殺されるって怖くて悲しくてさ。スケルトンのみんなも、もう誰にもそんな思いをさせたくないって思ってるんだよ。だから頼んだぜ」
「そう……、ですね……」
「……まぁ、暗い話はこれくらいにしようぜ。それより、このあいだ途中だった、おれの活躍した話の続きを聞いてくれよ!」
「……はい、ぜひ聞かせてください!」
「じゃ、いくよ! ガツデの最後の兵士たちは、敵兵に囲まれて動きが取れなくなってた! そこに現れたのが……、このおれ!! おれは敵兵の剣をスルリスルリと避けながら詠唱を始めると……」
ダリンダは嬉しそうに話を続けた。
◆
翌日、マデマメヤ国では緊急の五王会議が開かれていた。
マコ王は五王会議を提案したコラナッカにネクロマンサーの集落の事を尋ねた。
「コラナッカ、スパイを出していたネクロマンサーの集落に何かあったのだな」
「はい。2日後、ネクロマンサーの操る屍たちが、この間の町に再び侵攻します」
「なにっ!?」
「かなり確かな情報です」
「そうか、では集められるだけの戦力をあの町に集めよう。ヤクウィー王、そちらの兵はあの町に集めるのにどのくらいかかるか」
「ふむ。半日もあれば」
「なにっ!? 半日で移動できるだと?」
「ええ。現在、我が領地には盾LOOPYとデカトラ、そして優秀な戦馬に整備された輸送路があります。余裕を持って移動しても1日かと」
「そうか……。つくづくヤクウィー王の領地の発展ぶりには驚かされるな。では2日後の早朝、あの町に動かせるだけの兵を頼む。私も白騎士団を連れてゆく」
「わかりました。では準備しておきます」
するとその時、コラナッカがマコ王に言った。
「マコ王、ひとつ気になることが」
「どうした」
「もしかすると、ネクロマンサーたちはドラゴンの屍を連れてくるかもしれません」
「ドラゴンを!?」
「はい、これもスパイからの情報です。ですので、魔道士や遠距離攻撃ができる兵が必要かもしれません」
「なるほど、確かにそうだな」
マコ王はその件について他の王たちと話し合いを始めた。
◆
―― 2日後 夜明け前 ――
以前ネクロマンサーの操る狼たちに襲われた町の人々は全員避難を済ませ、町にはインメリア率いる騎馬隊、マコ王の白騎士団、盾LOOPY団、そしてゴゴをリーダーとした魔族の兵士たちが並んでいた。
そして遠距離部隊として、おじいさん、おばあさん、魔王エヴ、エスプララ、メメが参加し、クラクモ医療団も大熊笹、茂雄、アカネ、そして黒猫を護衛に付けて到着した。
全員が集まると、マコ王が前に出て話し始めた。
「これから作戦を発表する!」
マコ王はそう言うと、インメリアの騎馬隊、白騎士団に指示を出した。
「インメリア騎馬隊と白騎士団、そして魔族の兵は屍が現れ次第、私の指示で突撃!」
「「はっ!」」
次にマコ王はおじいさんたちに指示を出した。
「遠距離部隊は万が一ドラゴンが現れた時に遠距離攻撃で応戦してもらう! それまでは待機!」
「「はい!」」
そして盾LOOPY団とクラクモ医療団に指示を出した。
「盾LOOPY団はクラクモ医療団のデカトラを護衛しつつ、けが人の搬入! そして緊急事態には参戦!」
「「はっ!!」」
最後にマコ王はコラナッカに指示を出した。
「コラナッカ男爵はリッチとデカトラで戦況を把握しつつ、スケルトンの襲撃に備えろ! スケルトンが出現したら周辺の指揮権はお前に託す!」
「承知!」
マコ王は指示を出し終えると前を向いて全員に言った。
「以上! 全員準備にかかれ!」
その声に全員が戦闘準備に入った。




