74
翌日、コラナッカはエリシャウと一緒にスパイ活動から戻ったリッチの報告を整理していた。
「なぁ、エリシャウ。リッチの報告ではネクロマンサーたちが本気で大陸を支配するって言ってたみたいだけど、どう思う?」
「そうですね……。ガンデロ帝国からひどい扱いを受け続けたネクロマンサーたちが集落を作っていたとすれば、無い話ではないかと」
「だよなぁ。ヤクウィー領の難民の村を襲ったのもガチで村を支配するつもりだったらしいからな。けど、なんでヤクウィー領を最初に攻めてきたんだ? あいつらガンデロ恨んでんだろ?」
「これは憶測ですが、ネクロマンサーたちは隠れて暮らしていたが故、情報が古いのではないでしょうか」
「情報が古い?」
「はい。ヤクウィー領があんなにも豊かで強い領地になったのは、ごく最近です。なので、もしかしたらネクロマンサーたちは、かつて最弱と言われたヤクウィー領から支配しようとしているのでは……」
「なるほどな。引きこもりのオレらが世の中の流行を知らねぇのと同じって事か。オレら出席義務のある王宮のパーティでは、いつも服装が浮いてたからな」
「あ、はい……」
2人の頭には一瞬、パーティの苦い思い出が蘇った。
しかし、コラナッカは気を取り直してエリシャウに言った。
「まあ、それは置いといて……。じゃあ、ネクロマンサーたちはまたヤクウィー領を狙ってくるって事か?」
「それは十分考えられます。特にリッチの居る難民の町はヤクウィー領の中でも西の果て。彼らの居場所とも近く、また狙われる可能性は十分あります」
「そっか、それはヤベぇな。……あ~、敬語使わなきゃならねぇし、あんま王たちに会いたくねぇんだけど……。でも報告しとかねぇとな。ゆくゆくは、ひろしさんたちも危ねぇかもしれねぇし」
「そうですね。五王に報告しておくのが最善かと」
◆
数日後、コラナッカの呼びかけで五王会議が開かれた。
今回の五王会議には、先日ガンデロ帝国の皇帝、ガンデロ四世と遭遇したおじいさんと魔王エヴもその報告のために参加していた。
会議はコラナッカのネクロマンサーに関する報告で始まり、マコ王を中心にネクロマンサーについて意見が交わされた。
「コラナッカ。ではネクロマンサーたちが再びヤクウィー領の西の難民の町を狙っているかもしれないと言う事なのだな」
「はいマコ王。ヤツらはすでに龍の谷のドラゴンの死体を何体も操っています。それにスケルトン兵もかなりの数が……」
「そうか、それはさすがに手強いな。どう思うヤクウィー王」
「……ふむ。しかし、ネクロマンサーという者たちがどういう者たちで、どういう戦い方をするのかが分からないのが悩みどころ。コラナッカ男爵、何か情報はないのか」
「ヤクウィー王。残念ながら我々もスパイから情報を得たのですが、ネクロマンサーに関しては情報はほとんどありませんでした」
「そうか。ではその件に関しては引き続き調査を頼む。我らも出来るだけ情報を集めよう」
「はい」
マコ王はコラナッカの返事を聞くと、今度は視線をおじいさんに移して話しはじめた。
「では会議の議題を変えよう。ひろし殿。先日報告があったが、魔王領に来たガンデロ四世を追い払ったと聞いた。ひろし殿、質問良ろしいか」
マコ王がおじいさんに尋ねると、おじいさんは緊張した面持ちで答えた。
「は、はい」
「ひろし殿。先日のご活躍、大変感謝している。お怪我などはなかっただろうか」
「あ、いえ、ははは。この通り元気です」
「それは何より。して、ガンデロ四世が飛んで逃げたというのは本当だろうか」
「はい。羽がありまして、矢のように逃げていきました。魔王さん曰くバンパイヤだと」
「ヴァンパイアだと? それは本当か魔王エヴよ」
すると魔王エヴが答えた。
「はい、間違いありません。彼はヴァンパイアの中でも相当上級なようです。日の光にも何の影響も受けず無詠唱で魔法も放ったようです」
「なんと」
「しかし上級のヴァンパイアとはいえ、この魔王エヴにしてみれば所詮は格下の魔族。ご心配なく」
「なるほど、それは頼りになる。しかしガンデロ四世がヴァンパイアだったとは……。それにしても、なぜヴァンパイアがガンデロ皇帝なのだ」
「先代の魔王の頃、魔族の伯爵であったヴァンパイアの一族は、当時交戦状態だったガンデロ共和国……、現在のガンデロ帝国へ寝返ったのです。それが原因で先代の魔王は敗戦し、多くの土地を失いました」
「うむ。魔族が土地を失った話は昔騎士学校の授業で聞いた。しかし、それがヴァンパイアの寝返りによるものだったとはな」
「はい。そしてヴァンパイアは人々を魅了する魔術を使います。おそらくそれを駆使して皇帝の座についたのだと」
「そうか、それは納得がいく推測だな。ガンデロ皇帝め、まさかヴァンパイアだったとは……」
マコ王は眉間にシワを寄せてそう呟いた。
◆
その頃、ガンデロ帝国を追放されたネクロマンサーのアリオネルダはネクロマンサーの住む集落で生活を始めていた。
ネクロマンサーの住む集落は無数のスケルトンやアンデッドの動物、そしてドラゴンの死体たちが開墾作業をし、家も多く立ち並んでいた。
アリオネルダは任された洗濯仕事をしていると、一緒に洗濯をしていたガガネルダがアリオネルダに説明した。
「この集落は私たちが操っている屍が開墾しているんだ。それと、あそこを見てごらん」
ガガネルダが指差す先には美しく着飾った同じ年くらいの男女が並んで手を挙げていた。
「あの人たちは?」
「あの2人はネイクロ様とネイクラ様。我らの希望の光の双子様さ。あの2人はドラゴンの屍を操るほど才能に溢れているんだ」
「ドラゴンを?」
「そうさ。私なんか熊10頭くらいが限界だけど、あの双子様はああやって6頭のドラゴンを同時に操っているのさ」
「そう」
「まぁ、あんたは素質がありそうだから狼くらいならすぐに扱えるようになるさ。早く役に立てるようにならないとな」
「……はい」
「そういや少し前に仲間がヤクウィー辺境伯の小さな町を襲ったんだ。だけど失敗してね。あんたはそんな風になりなさんなよ」
「町を? ……それは町の人たちも襲ったのですか?」
「当たり前さ。本当なら今ごろあの町は私たちの物だったのに」
「なぜ……、なぜ人を襲うのですか?」
「なぜ? あんたは自分を見捨てた人間が憎くないのかい?」
ガガネルダがそう言うと、突然集落に角笛の音が鳴り響いた。
ブォッ、ブォォォオオオ……
アリオネルダはその音を不思議そうな表情で聞いてると、ガガネルダがアリオネルダの腕を引っ張りながら説明した。
「集会の時間だよ。あんたもおいで。紹介するから」
「はい……」
ガガネルダはアリオネルダを集落の中心へと連れて行った。




