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―― ガンデロ帝国 西の果て ――
「ここでお別れだ。これより、この門からガンデロ帝国に戻ることを禁止する」
1人の屈強な兵士がそう言うと、その横にいた、腕を縄で縛られた若い女性は表情も変えずに返事をした。
「はい」
すると兵士は女性の腕の縄をナイフで切り、少し目を伏せて女性に言った。
「すまない。お前にネクロマンサーの素質があった以上、こうするしか無いのだ」
しかし女性は兵士と目も合わさずに答えた。
「分かっています。ですが私は孤児。誰にも迷惑をかけないだけ幸せです」
それを聞いた兵士は何も返答できなかったが、縄を切ったナイフを女性に手渡して言った。
「こんな物しか渡せないが、護身用にこれを持っていけ」
しかし女性はナイフを受け取ると、暗い笑顔を浮かべて答えた。
「はい。獣に襲われて痛みに苦しむ時は、このナイフで自害します。ありがとうございます」
「……すまない」
女性は兵士の言葉を無視するかのように歩き出すと、兵士は目を伏せて門を閉じた。
◆
女性はしばらく歩いて進んでゆくと、なんと目の前に老婆の姿が見えてきた。
女性は不思議そうに老婆に近づいてゆくと、老婆は女性に声をかけてきた。
「お嬢さん、ネクロマンサーだね」
すると女性は驚いて足を止めて答えた。
「はい」
老婆はその姿を見ると、少し笑顔を見せて女性に尋ねた。
「お嬢さん、名前は? 私はガガネルダ」
「私はアリオネルダ」
「へぇ。あんた後ろがネルダなんだね。じゃあ、私の親戚か……、孫かね」
「親戚、……か孫?」
「ああ。ガンデロ帝国の東では後ろが家系の名だろう? 私は東の出身さ。お嬢ちゃんもだろ?」
「はい。でも私は孤児」
「……そうか、苦労したね。でも安心しな。私たちネクロマンサーは、追放された土地で一緒に暮らしてるんだ。案内するから付いてきな」
「……はい」
アリオネルダは返事をすると老婆の後に付いていった。
◆
老婆はしばらく歩くと暗い表情をしているアリオネルダにネクロマンサーの集落の事を話し始めた。
「これから行くところはネクロマンサーだけの集落だ。敵は誰もいないから安心しな」
「はい、ありがとうございます」
「あんたさっき、孤児って言っただろう? だったら運が良かったよ」
「運が……、良い?」
「ああ。今、ネクロマンサーの集落は新しい世代も生まれて大きくなってね。ドラゴンさえ操れるネクロマンサーも居るんだ。だからこれからガンデロ帝国を倒して大陸を支配するのさ」
「ガンデロ帝国を?」
「そうさ。だから親を知らなければガンデロ帝国を倒しても悲しまないだろう? だって親が死んだかどうかも分からないんだから」
それを聞いたアリオネルダは少しだけ笑うと、ガガネルダに言った。
「そうね。でも悲しいわ」
それを聞いたガガネルダはそれ以上アリオネルダには話しかけなかった。
◆
その頃、馬に乗って逃げた女性を追いかけていたコラナッカたちは、予想通りに龍の谷にたどり着いた。
しかし、コラナッカは双眼鏡で龍の谷を覗き込むと、静かに声を漏らした。
「こいつはヤベぇな。生きたドラゴンが居ねぇ」
それを聞いたエリシャウは慌ててコラナッカに尋ねた。
「コラナッカ様、それはどういう……」
「おそらく、ネクロマンサーに操られたドラゴンに生きたドラゴンは負けて逃げたんだろう」
「そんな事が……!?」
「ああ。現に、龍の谷には生きてるとは思えねぇドラゴンたちがスケルトンたちと協力して土地を開墾してやがる」
コラナッカはそう言うとエリシャウに双眼鏡を渡した。
「うわっ、ホントですね! リッチさんも見ます?」
エリシャウはリッチに双眼鏡を渡した。
「なるほど、確かにそうですね。谷の下にはドラゴンだけじゃなくて相当な数のスケルトンが働いているようですね」
それを聞いたコラナッカは満面の笑顔でリッチの肩を叩くと、嬉しそうに言った。
「リッチ、おまえ服脱いだらスケルトンだよな?」
「え? あ、はい。そうなります……、かね?」
「じゃ、決まりだな。スパイよろしく」
「えっ!?」
◆
リッチはスケルトン状態で谷の下にいた。
「あぁ~。まさかこんな事になるなんて……」
リッチが下を向いてガックリしていると、1人のスケルトンが近づいてきて話しかけてきた。
「よっ! どうしたんだよ、元気ないじゃん」
その声にリッチは驚いたが、敵意がなさそうなのでスケルトンに答えた。
「あ、こんにちは。実は色々ありまして」
「あ、そっかそっか。まぁ、おれたち急に蘇っちゃってビックリしたよな。しかも死人の町を作るだなんてな」
「あ、ええ、ええと、そうなんですね」
「まぁでも、蘇って良いんだか悪いんだか。まぁ、こうやって開墾したりするのは結構楽しいけど、主人のネクロマンサーが戦闘命令出したら逆らえずに戦うだけだからな」
「あ、はい……」
「早くまた死なないかなぁ。早くあの世に帰りたいよ」
「え、そうなんですか?」
「まぁ、この世も懐かしくて悪くないんだけどさ。やっぱりあの世で楽したいよね」
「あ、はぁ」
「あ、ごめん忘れてた。おれはダリンダ・エブミ。生きてた時は、ガツデの魔術師さ」
「ガツデ……、あのガツデ王朝ですか? 昔、教科書で読みましたが……」
「あぁ~、そっかそっか。おれ1000年以上前に死んでるみたいでさ。今はガンデロとかになってるんだろ?」
「えっ! まさか本当に、あの古代王朝のガツデ王朝の魔術師なのですか!?」
「そうそう。特におれはエリートの魔術兵士だったんだぜ! 必殺技はヘルファイア・アンド・ブリムストーンだっ!」
「えっ!! あの伝説の古代魔法ではないですか!!」
「え? 古代魔法? あ、そっかそっか。君は新しい時代の骨なんだね」
「新しい時代の骨? あ、はぁ」
「良かったらやってみる? ヘルファイア・アンド・ブリムストーン」
「ほ、本当ですか? でも何かその『良かったら食べてみる?』みたいなノリで大丈夫なんですか?」
「ぜんぜん大丈夫だよ。古代詠唱を言えれば魔法出るからさ。ええとね、詠唱の最初はチョット発音しづらいかもなんだけど、ウとイの間の音で……」
こうしてリッチは、流れで伝説の古代魔法のヘルファイア・アンド・ブリムストーンを発動する詠唱を覚え始めたのだった。




