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「狼だ! 狼の群れが来たぞ! みんな逃げろ!」
ザワザワザワザワ……
酒場が騒然となると、リッチが立ち上がって仲間に言った。
「おそらく狼がアンデッドなんですね。わたしが応戦しましょう」
するとゲゲロっちがリッチに言った。
「大丈夫ですか? 相手は群れですよ」
「はい。わたし一応、白金級の魔導師でしたし、ははは」
すると仲間たちが突然テーブルを逆さまにひっくり返してテーブルの脚を折り始めた。
「おい店主! 悪いけどテーブルの脚もらってくぜ! オレらも狼を倒してくるわ」
それを聞いた店主は震えながら仲間たちに言った。
「なんでも持ってってくれ! 狼だけは勘弁だよ!」
「任せとけ!」
仲間たちは折ったテーブルの脚を一本ずつ握ると肩を回しながら笑い合った。
「おいおい、戦闘なんてどれくらいぶりだ?」
「最後はあれだな、盗賊退治」
「だな。いやぁ、腕が鳴るぜ」
それを聞いたゲゲロっちは仲間たちに尋ねた。
「みなさんは戦闘経験があるのですか?」
「え? だってオレら元兵士だぜ」
「狼ごとき、オレらの敵じゃないっての」
「まぁ、酒でも飲んで待ってな! いくぜ!」
仲間たちはそう言うとリッチと一緒に颯爽と酒場から走り出ていった。
酒場に残ったマルちゃんとゲゲロっちは仲間たちの後ろ姿を見送ると感動しながら声を漏らした。
「あいつら……、カッコイイじゃないか」
「はい。彼らに任せておけば安心ですね」
しかしその瞬間、なんと狼たちが酒場に飛び込んできた。
ガルルルルル!!!
「「うわーーーー!!!」」
酒場は一瞬でパニックになり、酒場の客とマルちゃんとゲゲロっちは酒場の中を逃げ回った。
「あいつら、ぜんぜんダメじゃないか!!」
「うわわわわ! 狼、けっこう居ますよ!」
しかし、マルちゃんとゲゲロっちは逃げる方向を間違えて、なんと部屋の隅に追い込まれてしまった。
ガルルルルルル……
「わーーー!」
「ひぃぃい!」
……フンッ!!
しかしマルちゃんは鼻息をフンと勢いよく吹き出すと、意を決したようにテーブルを引っくり返してテーブルの脚を折り取った。
バキッ!
そしてカウンターの奥で震えている店主に大声で言った。
「店主! お鍋のフタをくれ!」
「は、はい!」
ヒュッ……、カラン!
店主は鍋のフタをマルちゃんのところへ投げると、マルちゃんはそれを拾って盾代わりに構えた。
その様子を見たゲゲロっちは思わずマルちゃんに尋ねた。
「ま、まさか戦うのですか?」
「こ、これでも若い頃、騎士団長に剣を仕込まれた身だ! 素人よりは戦える!」
それを聞いたゲゲロっちも意を決したようにテーブルの脚を折り取った。
バキッ
そしてテーブルの脚を前に突き出すと、笑いながらマルちゃんに言った。
「では私もお供いたします」
「よし! ゲゲロっち、やるぞ! お鍋のフタは要るか?」
「いえ。当家は代々、刺突剣の流派。盾は不要です」
ゲゲロっちはそう言ってニヤリと笑うと、マルちゃんも静かに笑った。
ダッ! ダッ!
マルちゃんとゲゲロっちは並んで飛び出すと、マルちゃんはお鍋のフタで先頭の狼の頭を素早く殴りつけた。
ガン!
そして、下からテーブルの脚を斬り上げると、狼の顎にクリーンヒットさせた。
ドガッ!
そしてマルちゃんは、そのままクルリと回転すると、遠心力でテーブルの脚を振り切り、狼を一匹を吹き飛ばした。
マルちゃんは思った以上に動ける体に驚きながら声を漏らした。
「なんだ……? 動けるぞ……」
ドッ!
するとゲゲロっちが一匹の狼の眉間にテーブルの脚を突き刺してマルちゃんに言った。
「毎日の労働の賜物ですね。私も予想以上に動けて驚いています」
ゲゲロっちはそう言うと素早くサイドステップをして他の一匹に正確な突きを繰り出し、一撃で狼を仕留めた。
◆
その頃、村の大通りではリッチと仲間たちが狼の群れと大きな戦いになっていた。
仲間たちはテーブルの脚で次々に狼たちを叩きのめし、リッチは炎の魔法で狼たちに応戦していた。
「テーブルの脚! 悪くねぇな!」
「おお! 意外と折れねぇぞ!」
「ってか、リッチやばくない!?」
その声に仲間たちがリッチを見ると、リッチは詠唱を続けながら次々と火の玉を放ち、狼たちを火だるまにしていた。
「王国にも魔道士いたけど……」
「あれはヤベぇぞ。魔力無限か?」
「おいオレらも負けてらんねぇぞ!」
仲間たちはテーブルの脚を振りかぶって再び狼たちの群れに突っ込んでいった。
―― 翌朝 ――
狼の群れはリッチと仲間たち、そしてマルちゃんとゲゲロっちによって全滅し、そのまま朝を迎えた。
村には伝達鳥で連絡を受けたコラナッカとエリシャウがデカトラでやってきて、狼の死体から研究資料の回収をしていた
そして同じく連絡を受けたヤクウィー医療団のクラクモたちもデカトラを改造した救急車で駆けつけ、けが人の治療に当たっていた。
クラクモは酒場で、やれやれといった表情を浮かべながらマルちゃんの治療をしていた。
「いたたたったったった!!」
マルちゃんは予想以上に動ける体に調子に乗り、完全に手首を壊していた。
「これは、だいぶ力いっぱい叩きましたね。でも治癒魔法をするほど緊急ではないので木で固定ですね」
クラクモはそう言うと、持ってきていた木の棒をクモの糸で巻き付けて手首を固定した。
その横では治療見習いで来ていたテテが、ゲゲロっちの手の平の傷を治癒していた。
ゲゲロっちは素手で木の棒を力いっぱい突いていたので、手の平の皮が剥がれて出血が酷かったのだった。
フワァァアア……
ゲゲロっちは小さな女の子が治療している姿に感動しながらテテに話しかけた。
「ありがとうね、お嬢さん。本当に素晴らしいお嬢さんだ」
するとテテは嬉しそうに答えた。
「ううん。みんなを治してあげられるの、とっても嬉しいの。だから、おじちゃんも治してあげるね」
ブワッ!
ゲゲロっちはテテの言葉に思わず涙を流すと、腰の袋を空いている手でゴソゴソと探して1つの首飾りを取り出した。
「お嬢さん、本当におじさんは感動したよ。どうかこれを貰ってくれないかな」
ゲゲロっちはそう言ってテテにやさしく首飾りをかけると、テテはキラキラと輝く首飾りに目を丸くした。
「おじちゃん、いいの?」
「ああ、もちろんだよ。とっても似合っているよ」
「ほんとに? ありがとう、おじちゃん!」
テテの笑顔を見たゲゲロっちは、心の奥底から浄化されていくような感じがした。




