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その頃、茂雄は夢の中でタマシリから貰った鉄のナックルを拳に装着して、岩を相手に試していた。
ドゴォォ!
バガン!
茂雄は次々に岩を破壊していくと、手を止めて感心ながら呟いた。
「いやぁ、これは凄い破壊力ですね……」
すると後ろからアカネの声が聞こえた。
「やっぱ茂じぃのパンチはすごいね!」
茂雄は振り向くと少し照れくさそうにアカネに答えた。
「いえいえ、ははは。タマシリさんから頂いたナックルが素晴らしくて」
「あ、タマちゃん! なつかしいなぁ。そういえばタマちゃん元気でやってるのかな」
「ええ。だいぶ歳をとったみたいですけど、ゲームの世界では37防衛しているチャンピオンだそうです」
「37防衛ってなんだよ、ははは! やっぱタマちゃんは強いなぁ」
するとその時、茂雄はふと気になってアカネに尋ねた。
「そういえばアカネさん、帰らなくて良かったんですか? 私たちはもう死んでいますけど、アカネさんは……」
「あ、それなんだけどさぁ、昨日夢の中で旦那に聞いたら、まだあたしの体に手術の傷が残ってるみたいでさ。だから、痛そうだし傷がくっついてから戻ろうと思って。ははは」
「ああ、なるほど。それは名案ですね」
「でしょ。で、夢で烏天狗から聞いたんだけど、なんかコッチの世界の1年って現実世界の1日なんだって。だからこっちで7年くらい居ようかなぁって」
「ええ!? そんなに差があるのですね」
「そうみたい。だから烏天狗に7年後にまた迎えに来てって言っといたんだ」
「それは良かったです。きっと大熊笹さんも喜びます」
「だといいな。熊じぃから色々習わないといけないからね。昔は柔道の技術を教わったけど、あたしも教える立場になっちゃったからさぁ。熊じぃは教えるのもプロだから色々盗まないと」
「さすがアカネさん。きっと良い指導者になります」
「え、まじで? ははは、照れるなぁ」
アカネは茂雄の言葉に嬉しそうに笑った。
◆
その頃、魔王の領地で整備しつつある田んぼに、ガンデロ帝国から解放された魔族たちがいた。
魔族たちは並んで田植えをしながら話していた。
「いやぁ、魔王様に殺されると思ったのに、助かったな」
「ああ。おれたち魔力吸われ過ぎて少なくなくなっちまったから、魔族としての価値なんか無いのにな」
「ほんとうに。なのに生かしてもらえたなんて運が良かったよ。それより話は変わるけど、魔王様なんか優しい顔つきになっていなかった?」
「あたしもそう思ったよ。それに、あんなに楽しそうに人間たちと……」
「そうだな。なんか、オレらがいない間に色々あったんだな」
「何しろ助かって良かったです。ぼくたち、あのままだったら魔力を吸われ過ぎて死んでいました。こうやって働けているだけでも感謝ですよ」
するとその時、遠くから軽トラがやって来るのが見えた。
それを見つけた魔族の1人は嬉しそうに声をあげた。
「お! お昼ご飯だ!」
その声を聞いた魔族たちは作業の手を止めてワラワラとあぜ道のほうへ向かった。
◆
軽トラは魔族たちの待つあぜ道の端で止まると、運転席からはおじいさんが降りてきた。
魔族たちは、降りてきたおじいさんに一斉に挨拶をした。
「ひろし様! お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「いつも、ありがとうございます!」
おじいさんは魔族たちにお手拭きを渡しながら笑顔で答えた。
「いえいえ、みなさんこそお疲れ様です。ささ、おにぎりを持ってきましたので、どうぞお召し上がりください」
おじいさんの言葉を聞いた魔族たちは手を拭いて軽トラの荷台に駆け寄り、1人2個ずつおにぎりを取っていった。
おじいさんも残りのおにぎりを2個手にすると、魔族たちと一緒に円を描きながら座り、いただきますの挨拶をした。
「いただきます」
「「いただきます!」」
魔族たちはうれしそうにおにぎりを頬張ると、魔族の1人が嬉しそうに言った。
「やった! これシャケーだ。あたしシャケー好きなんだよね」
「あ、おれ、海藻だ。これも美味いんだよなぁ」
「オレおにぎり割ってみたら海藻が2個なんだけど、誰かシャケーと交換してくれない?」
「あ、じゃあ交換しましょう。ぼく海藻が好きなんで」
魔族たちはシャケーと海藻を交換しながら楽しく食事をしていると、突然聞き慣れない声がした。
「これは何だ? 何か植えているのか?」
おじいさんは突然の声に驚いたが、声のするほうを見ると、大きな羽を広げた1人の人物が立っていた。
おじいさんは立ち上がって会釈をすると、その人物に話しかけた。
「ええと、魔族の方でしょうか。お見かけしない方のようですが」
おじいさんはその時、魔族たちの顔が恐怖に歪み、爪や牙を剥き出しにして身構えていることに気づいた。
するとその人物は羽を消滅させるように仕舞うと、おじいさんに尋ねた。
「私はガンデロ四世。ガンデロ帝国の皇帝だ。この魔族どもはガンデロ帝国の所有物。返してもらうぞ」
おじいさんはガンデロ四世の言葉に即座に反応すると、素早くアイテム欄から睡眠玉を選択して手に出現させた。
そして怖がっている魔族たちに大きな声を出しながらガンデロ四世に投げつけた。
「みなさん! 逃げてください!」
「うわーー!」
「た、助けて!」
「きゃぁー!」
シャァァアアア!
バァン!
魔族たちが逃げ出すと同時におじいさんの放った睡眠玉はガンデロ四世に命中した。
おじいさんは火薬玉、粘着玉、と急いでアイテム欄から取り出すと、足元に並べて次の攻撃に備えた。
ガンデロ四世は予想外の睡眠玉の攻撃に眠ってしまって膝をついたが、すぐに目を覚まして立ち上がった。
「ほう。おもしろい手品をするな、老人よ。だが邪魔をするなら死んでもらうぞ」
ガンデロ四世はそう言って右手を挙げると、いくつもの氷の矢が出現しておじいさんを狙った。




