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その頃、ベベの村で米の在庫を数えていた魔王エヴは強い魔族の気配を感じて静かに振り返った。
するとそこには疲れきった様子で、背中の翼を地面にダラリと落とした女性の魔族が居た。
「エスプララ!」
なんとその魔族は魔王エヴの妹、エスプララだった。
「お兄様……」
エスプララはそう言うと、膝から崩れ落ちた。
「エスプララ!」
魔王エヴはエスプララに駆け寄ると、すぐに近くにいた村の若者たちも集まってきた。
エスプララは苦しそうに笑顔を見せると魔王エヴに言った。
「お兄様……。ガンデロ帝国に逃げた魔族の者たちが魔力を奪われすぎて弱ってきました……。このままでは、あと数ヶ月で……」
「なんだと!? いや、今はもう話すなエスプララ。今、クラクモのところへ運んでやる」
「クラクモ……。生きていてくれたのですね……」
エスプララはそう言うと気を失った。
◆
その日の夜、エスプララはクラクモ治療院で目を覚ました。
「はっ!」
「エスプララ! 気がついたか!」
魔王エヴは喜んで立ち上がると、ベッドに横たわるエスプララは少しだけ笑顔を見せた。
しかしすぐに真剣な表情に戻ると、魔王エヴに状況を説明し始めた。
「お兄様。現在、金属兵の魔力充填は最前線のゲンゲゲロ侯爵の領地で行われています。そして近々、ガンデロ皇帝に操られているゲンゲゲロ侯爵は旧ラド公爵領に攻め込みます」
「なに!? それは本当か」
「はい。そのため、魔族の者たちはゲンゲゲロ侯爵の領地に全34名が移動させられ、金属兵10体に集中的に魔力を注入しています」
「それで、皆は無事なのか」
「はい。しかし、レッサーデーモンが1名デウ子爵領で捕獲されました」
「それは大丈夫だ。やつは助け出した。今は南の海で漁に出ている」
「え? そ、そうなのですか?」
「ああ。なぜかあいつは魚を見つける才能があってな。空から魚群を見つけるらしいのだ」
「そ、そうでしたか……」
「しかしゲンゲゲロ侯爵が動くとは……」
「はい。ゲンゲゲロ侯爵はもはやガンデロ皇帝の言いなりです。ガンデロ帝国側も難民で弱っているリムリテイル王国を倒す絶好の機会だと」
「難民で弱っている?」
「……はい。そう聞きました。リムリテイル王国は大量の難民が出て、経済が破綻すると……」
「いや、その逆だ。それに今はマデマメヤ国という新しい国になってな。難民と解放奴隷で増えた労働力のおかげて経済は潤い、兵力に至っては全体で3万を超えるのだ」
「3万!? あのガンデロ帝国が1万だというのに……」
「食料の問題も、なんとあの魔王領の忌まわしき雑草が美味しい食べ物に化けてな」
「えっ、あの湿地に増殖する、固い種しか付けないあの植物が……?」
「そうなのだ! あの植物はコメと言ってな、最高に美味で驚くぞ。あとで食べてくれ」
「は、はい……。あの植物が……」
エスプララは信じられないといった表情で微妙に返事をした。
すると魔王エヴは思い出したかのように尋ねた。
「そうだ、重要な事を聞き忘れていた。お前が戻って来たという事は、スパイという事が見破られてしまったのだな?」
するとエスプララはスッと真剣な表情に戻って答えた。
「はい。魔法で隠していた翼を偶然すれ違ったガンデロ皇帝に見破られました」
「なにっ!? しかし、お前の魔法は魔族しか見破れないはず」
「はい。ですので、ガンデロ皇帝は魔族かと」
「なんだって!?」
エスプララの言葉にその場の空気は張り詰めた。
その後、ゲンゲゲロ侯爵が攻め込むという情報と、ガンデロ四世が魔族だという情報はガーゴイルのガーが率いる魔族伝達部隊によって各領地の王へと伝えられた。
―― 翌日 ――
各地の王は飛竜や、早馬、そして軽トラでマコ王の元へと集結した。
そして五王の会議が始まった。
「今日の議長は私、マコが行わせて頂く。まずゲンゲゲロの事だが、デウ王、報告よろしいか」
「はい。毎日ゲンゲゲロ領を望遠鏡で監視させているのですが、ここ最近、土煙が上がることが多く、多くの兵や馬車が移動してきていると考えられます」
するとマコ王はマツリ王に尋ねた。
「マツリ王。ゲンゲゲロはそなたの領地の北側を抜けて旧デウ公爵領へ行くと見られる。そちらの兵は潤沢か」
「はい。我が格闘兵団は大熊笹殿、茂雄殿、そしてアカネ殿のお力を借りて、質の高い格闘兵を増員している。戦闘となれば一番槍となろう」
「マツリ王、それは心強い。格闘兵団には回復薬を多く手配したいが、皆はどう思うか」
すると全員が手を挙げ、その提案は即決した。
次にマコ王はメロナッカに尋ねた。
「メロナッカ王。そちらの兵士がゲンゲゲロの領地に到着するまでどのくらい時間がかかるだろうか」
「そうね。急げば1日ね」
「そうか、ありがとう。ではヤクウィー王、そちらには多数の兵がいるが、察するにゲンゲゲロの領地に到着するまで2日以上はかかるだろうか」
しかしヤクウィー王は静かに答えた。
「いえ、精鋭のみ1000騎で良ければ1日もあれば」
「なにっ!?」
ヤクウィー王の発言にその場にいた皆は驚いた。
「我がヤクウィー領には、鍛え抜かれた戦馬、空を飛ぶ魔族兵団、そして我が研究室が新開発した大量の盾LOOPYがあります。それらを総動員すれば可能です」
「なんと。しかし戦馬、魔族兵団は分かるが、盾……、るー……?」
「盾LOOPYです。先日ひろし殿が金属兵の魔石を破壊したのですが、その小さな欠片を1つずつ搭載した高速移動手段です」
「なるほど」
「普段は高速移動手段、そして折りたためば盾になるという優れものです。我が領地からゲンゲゲロ領まで恐らく1日かからぬかと」
それを聞いたマコ王は少し考えて皆に言った。
「それならば、こちらからゲンゲゲロ領に攻め込みたい。いかがか。ゲンゲゲロ領の兵は多く見積もっても3000。こちらに分がある」
その提案にマツリ王とヤクウィー王は手を挙げたが、デウ王とメロナッカは躊躇した。
そしてメロナッカは皆に提案をした。
「あのね、こういうのはどうかしら。まずはね……」
こうして会議は思わぬ方向へと話が進んでいった。




