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その頃、マツリ王の領地では大熊笹と茂雄の指導の元、大勢の格闘兵たちが訓練をしていた。
「大熊笹先生! おねがいします!!!」
「はい、いつでも来なさい」
「やぁぁあああ!!」
「ほい」
バタン!
「ま、参りました! もう1本お願いします!」
そして隣では茂雄がマツリ子爵領で出会ったナグリと稽古をしていた。
「茂雄先生! 行きます!」
「はい、いつでも良いですよ」
「でやっ!!」
シュッ、シュシュッ!
シュン……、バチン!!
「うわっ!」
「気を抜かないでください! 脇腹がガラ空きですよ!」
ドスッ!
「うぐぐ……」
その訓練風景を見ていた格闘兵団長の老人、パンチは感心しながら呟いていた。
「やはり、何度見ても大熊笹殿も茂雄殿も異次元の強さだな……。あの日、大熊笹殿を怒らせていたら、今ごろ私は居なかっただろうな」
そう、パンチは一度マツリ子爵領で大熊笹と手を合わせた老人だった。
さらに、少し離れた場所ではアカネが見習い少年兵たちを相手に稽古をつけていた。
「おっし、次! かかっておいで!」
「はい!! やーーー!!」
アカネは走り込んでくる見習い少年兵に、なんとバナナの皮を投げつけた。
「うわ!」
ズデーン!
見習い少年兵は見事にすっ転んだ。
見習い少年兵は突然の事に目を白黒させると、アカネは人差し指を立てながら見習い少年兵に言った。
「いいかい、相手はどんな手を使ってくるかも分からないからね。色んな事に注意しなきゃだめだよ」
するとそれを聞いた見習い少年兵は、突然うつ伏せになって泣き出した。
「うぇぇええん!」
それを見たアカネは慌てて駆け寄った。
「お、おいおい、ごめんよ。そんなに泣くなって」
そして、アカネが泣いている見習い少年兵に手を差し伸べたその時、見習い少年兵は顔を起こしてアカネの手を掴んだ。
「アカネ先生! スキあり!」
見習い少年兵は引き込むようにアカネの手を引っ張ると、なんとアカネの手が引っこ抜けた。
「うわぁぁああ!」
しかし見習い少年兵が手元をよく見ると、見習い少年兵が手に掴んでいたのはバナナの皮だった。
「えっ?」
その瞬間、見習い少年兵の体は宙に浮いていた。
「あっ!」
見習い少年兵が受け身を取ろうと落下に備えると、ニヤリと笑っているアカネの顔が見えた。
バタン!
アカネは見習い少年兵を投げると、見習い少年兵は笑いながら立ち上がった。
「へへへ。さすがアカネ先生だ」
するとアカネも笑いながら見習い少年兵に言った。
「そりゃそうさ。きみたちとはズル賢さの年季が違うからね」
そしてアイテム欄から「痺れ粉」を出現させると、素早く股の下から後ろへ投げつけて笑いながら言った。
「うしろにも伏兵だ!」
バフッ!
アカネは構えながら振り返ると、なんと痺れ粉を食らったのはパンチだった。
「あっ! パンチじいちゃん!」
「うぐぐぐ」
パンチは痺れ粉を食らって動けなくなったが、バキバキと筋肉を盛り上がらせると、全身をパンプアップさせながら雄叫びをあげた。
「ぬぉぉぉおおおおお!!」
バッ!!
そしてなんと両手を高らかに掲げ、痺れ粉で麻痺した体を解放した。
「アカネくん、なかなかの麻痺だったぞ。5秒は動けなかった」
「ま、まじか、パンチじいちゃん! 痺れ粉を破った人なんて初めて見たよ。すごいな!」
「はっはっは。麻痺など気合と根性でなんとかなるのだ。筋肉は裏切らぬからな!」
「ははは! パンチじいちゃん、ガチの脳筋じゃんか! めっちゃカッコいいぜ!」
アカネがそう言って親指を立てると、パンチはポーズを決めて輝く笑顔で答えた。
◆
その頃、ヤクウィー辺境伯、改め、ヤクウィー王は邸宅で哲夫と話していた。
「哲夫殿。五王政とはいえ、まさか本当に王になってしまうとは……」
「はっはっは、本当ですね。初めてお会いした時にお話した事が、現実になってしまいましたな」
「いやぁ、これも哲夫殿のヨクヨ商会のお陰です。我が領地の経済発展も軽く20倍を越えています。頭が上がりません」
ヤクウィー王はそう言って哲夫に頭を下げると、哲夫は謙遜しながらヤクウィー王に言った。
「いえいえ、ヤクウィー王。商売に必要なのは、良き仕入先、良き顧客、そして良き後ろ盾。つまりヤクウィー王がいなけば成功しませんでした。それに難民の皆さんのご協力も」
「いや、哲夫殿。あの数の難民を生活させ、なおかつ難民を使った公共事業でデウ王領から水を引かせた。そして生活が潤った難民たちは食料を買い経済を回す……」
ヤクウィー王がそこまで言うと、哲夫は嬉しそうに言った。
「はい。経済が回れば国力が増し、死亡率も減り、人口が増え、兵力も増し、さらに経済が回ります。次は教育ですな」
「教育?」
「はい。身分にかかわらず、子どもたち全員に読み書き計算を教えるのです。そうすれば優れた人材が生まれ、さらに国が発展します」
「ううむ……。今は貴族の子くらいしか学校へは行っていないが……。いや、哲夫殿が言うのだ。間違いないことなのであろう。次回の五王会議の時に提案してみよう」
「はい、宜しくお願いします。それとヤクウィー王、先日魔王さんから聞いたのですが、この世界では魔法が使える人間が少ないとか」
「ええ。というよりも、まず身分が高い者しか魔法教育が受けられず、魔法が使えるかどうかも、その時に分かるのです。ですから余計と少ないのかもしれません」
「そうでしたか。ちなみに領内の人間全員に魔法の素質があるか調べることはできるのでしょうか」
「いえいえ、それは難しいかと。魔法学校では青銅級以上の魔道士が何日もかけて生徒の内に眠る魔法の属性を見極めるのです」
「なるほど。しかし魔道士であれば見極められるのですね」
「ええ、そう聞いています。魔道士が生徒の背中に手を当てながら詠唱させると魔法が使えるかどうかが分かるようなのです」
その言葉を聞いた哲夫はひとつ思いついた。




