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その頃、ガンデロ帝国では皇帝が従者から報告を受けていた。
「皇帝陛下、リムリテイル王国は事実上崩壊いたしました。残るは、貴族たちが集まった『新貴族連合』という集まりのみです。支配したも同然です」
「そうか。しかしその『新貴族連合』はどの程度の兵力なのだ」
「はい。過去の資料を元に伯爵、子爵、男爵の兵力を計算いたしましたが、我が軍勢には及ばないものと推測いたします」
「だが、例の白金級を凌ぐという魔道士はどう考える?」
「確かに警戒すべき存在でございます。しかし、我がガンデロ帝国にも白金級魔道士の魔導師団長がおります。さらに銀級10名、銅級11名、青銅級13名。問題ないかと」
「……うむ。そうだな」
「それに陛下。今回の作戦で、あれだけの難民が出ました。あの難民たちは、やがてリムリテイル王国の経済を破綻させるか、食料を求めて暴動を起こすでしょう」
「ほう。では今は静観すべきだと言うのだな」
「はい。新貴族連合は間違いなく難民どもと共に落ちぶれるでしょう。こちらの戦力も温存でき、金属兵も多く完成します。奴隷国とするのは容易でしょう」
従者はニヤリと笑った。
◆
それからしばらく後、経済を破綻させるか食料を求めて暴動を起こすと言われていた難民たちは……、なんとその多くがヤクウィー辺境伯の領地でのびのび暮らしていた。
元々土地が余っていた所に、難民たちはキャンプを次々と作り、簡易的な町が多数作られていた。
そして難民たちは、魔王領で収穫された大量の米や麦、そして南の海から運ばれる魚を干物にしたりして、贅沢は出来ないが食べることには困らずにいた。
さらに、武器などを扱える難民たちは兵士として伯爵や子爵、男爵の領地へ招かれ、若く力のある難民たちは未開拓の土地で狩猟や採集をして流通させた。
哲夫率いるヨクヨ商会も、食料の流通を新貴族連合の領内で加速させ、あらゆる食品の在庫を把握しながら分配することで効率化を図った。
それを後押しするかのように、ヤクウィー伯爵の長男エエウヤスが交配した、乾燥した大地でも育ちやすい「サトゥマ芋」の最初の収穫に成功し、荒れ地での食料事情に光がさしていた。
◆
その頃、ベベの村にあるヨクヨ商会では、力仕事をしながら腐っている人物がいた。
それはなんとコラナッカ男爵だった。
コラナッカ男爵は爵位を剥奪され、側近の者たちと共にヨクヨ商会で働くことを条件に新貴族連合から追放されずに済んでいた。
コラナッカは自分が担当する荷物を運び終えると、ふらふらしながら休憩場所へ歩いてゆき、空を見上げながら丸太の椅子に腰掛けた。
「はぁぁ……。男爵だったオレが、まさか荷物運びとはな。笑えるぜ」
するとそこへ同じく自分が担当する荷物を運び終えたおじいさんがやって来て、コラナッカの隣に座った。
コラナッカは隣に座ったおじいさんに気がつくと笑顔で挨拶した。
「あ、ひろしさん、おつかれっす。今日もキツイっすね」
「ええ、ははは。男爵様もお疲れのようですね」
「ひろしさん、男爵はもうやめてよ。そう言ってくれんのは、ひろしさんだけなんだけど、なんつうかさぁ」
「いえいえ、男爵様は男爵様ですから」
「そっか……。でも、ひろしさん。オレの過去の話は知ってるんだよね」
「ええ」
「じゃ、オレが嫌われてんのも知ってるんだよね」
「そのようですね」
「……じゃ単純にさ、なんでひろしさんだけはオレを嫌わないで、いつも話してくれるの?」
「そうですね……。それは男爵様が嫌われようとして生まれてこなかったからでしょうか」
「え? なにそれ」
「いえいえ、何でもありません。ただ、人は生まれる場所や環境は選べませんから、自分の人生は自分の物のようであって、そうでは無いのかもしれません」
「……。ごめん、ひろしさん。オレには難しくってわかんないや。でも、ひろしさんが優しいって事だけは分かるぜ」
コラナッカが笑顔で親指を立てると、おじいさんは嬉しそうに答えた。
「わたしも男爵様が笑ってくれると嬉しい気持ちになります。男爵様はいつも暗い表情をしていらっしゃるので少し心配しておりまして。ははは」
「そ、そっか……。そうだよな。オレさ、なんか変なプライドあって抜けなくてさ。側近だった奴らみたいに村に溶け込むのが難しくって」
コラナッカが村の倉庫のほうへ目をやると、側近だった者たちが村の人たちと笑顔を交わしながら仕事をしているのが見えた。
「オレは……。いや、ははは。オレはオレだしな。まぁ、オレらしく頑張るよ」
コラナッカはおじいさんにそう言うと、ふと思い出したようにポケットから球を取り出した。
そして、それをおじいさん手渡しながら言った。
「そうそうコレ。前に火薬玉は敵を殺してしまうかもしれないって暗い顔してたでしょ。だからコレ、試作品なんだけど睡眠ガスが入った球なんだ。名付けて睡眠玉。って、そのままか」
「ええっ? これを男爵様が作ったのですか?」
「え? ああ。っても簡単なモノだけどさ。それにエリシャウに設計図を渡して辺境伯さんの研究室で作ってきてもらったんだけど。ははは」
「いえいえ、これは大変貴重な物を……」
「その球は固いものにぶつかると、割れ目から高圧ガスが吹き出して回転するように睡眠ガスが飛び出すんだ。これなら殺さないで生け捕りにできるぜ」
「ああ、それは素晴らしいですね男爵様。本当になんとお礼を言って良いのか」
「いやいや、そんな。まだ試作品だしさ。それにオレ、たくさんの人の命を危険にさらしちまった事、今になって後悔してるんだ。だから出来る事から恩返しっていうか。はは」
コラナッカはそう言って恥ずかしそうに笑うと、おじいさんは受け取った睡眠玉を大事そうに撫でながらコラナッカ男爵に言った。
「男爵様、お気遣いありあとうございます。大切に使わせて頂きます」
するとコラナッカは照れながら答えた。
「い、いやいや、いいって。そんなのたくさん作れるからさ。じゃんじゃん使ってよ。はは」
コラナッカはおじいさんの感謝の気持に嬉しい気分になった。




