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―― 翌日 東の最果ての地 ――
東の最果ての地に魔物たちを従える王が居た。
その名は魔王エヴ。
紛れもなく、この異世界の魔王であった。
しかし、その魔王に魔族の伝令が意外な報告をしにやって来た。
「魔王様。昨日、魔王を名乗るものが辺境の村に現れ、魔王の名の元に強大な氷魔法で王国騎士団を壊滅させたとの報告がありました」
魔物からの報告を受けた魔王は、赤い瞳を光らせながら答えた。
「ほう。王国騎士団をか。……ふはははは! どこの誰がやったのかは分からぬが愉快なことではないか!」
魔王が笑いながら答えると、魔王の横にいた若い女性魔族の側近が魔王に進言した。
「魔王様。確かに愉快な事では御座いますが、ひとつ懸念が御座います」
魔王はその言葉を聞くと、少し興を削がれたように不機嫌に聞き返した。
「なんだと? インメリア、お前は愉快ではないのか」
インメリアと呼ばれた若い女性魔族は跪きながら答えた。
「魔王様。その魔王様の名を語る偽物は強大な氷魔法を使ったと」
「ふむ。確かに、この世界で魔術を使える者は魔族以外では僅かなはずだな」
「はい。わたしの推測が正しければ、その僅かな魔法を使える人間が魔王の名を語り、恐怖で村を支配しているのではないかと」
「……なるほど。しかしそんな辺境の村の事など、この私には関係のない事。勝手にやらせておけば良かろう?」
「いえ、魔王様……。そうは言いましても……」
「なんだ。何か言いたいことでもあるのか」
「あ、いえ、ええと……。魔王が人間の国に現れて村を支配したとなれば、さすがに人間どもの軍勢が魔王城に攻め込んで来るかと……」
「な! なんだと!!」
なんとこの時、魔王の国の財政は上級魔族たちの横領や無駄遣いによって破綻していた。
そして、それによって魔族の軍勢が100名余りしか居ない弱小国になっていた。
しかし魔王の国は『なんか魔王って怖いよね』とか『まだ勇者が誕生してないし』という、なんとなくの印象だけで人間からの侵攻を免れていたのだった。
インメリアの言葉に驚く魔王に、インメリアは追い打ちをかけるように言った。
「それに魔王様。この魔王城は老朽化が激しく、明日にでも天井が崩れ去るかもしれません。この通り、謁見の間の天井は見事に穴が空き……」
「みなまで言うなインメリアよ。よく分かっている。あの天井の隙間から見える満天の星空が、なんと切ないことか……」
魔王が思わず目に涙を浮かべると、インメリアは真剣な表情で魔王に進言した。
「魔王様。いくら魔王様の魔力があっても、人間どもの大群に攻められては一溜りもありません。ここは辺境の村のニセ魔王を倒し、威厳を保つべきです」
「……なるほど。偽物の魔王を本物の魔王が倒せば、魔王の恐怖は人間どもに再び刻み込まれる。そういう事であるな?」
「はい。魔王様の魔力であれば人間の魔道士など相手になりません。そしてそれを村人たちに見せつければ人間たちも魔王領には攻めては来ないかと」
「……ふむ。これは行かねばなるまいな。この魔王エヴが」
魔王エヴは玉座から立ち上がると、右手に禍々しい魔法の杖を出現させた。
―― 数週間後 辺境の村ベベ ――
村は王国騎士団を撃退して以降、王国の腐敗した不公平な政治を恨んでいる貴族連合や商人たちの後ろ盾を受けて、さらに人や物の交流が盛んになっていた。
そして、王国騎士団を追い払ったおばあさんとおじいさん、そして黒猫は完全に村に馴染んで楽しく生活をしていた。
「あ、魔王様だ!」
猫の姿でおばあさんの用事を待っていた黒猫は、店先で子どもたちに囲まれた。
「魔王様、ぼくも魔王様みたいにカッコよくなるんだ」
「ぼ、ぼくだって!」
それを聞いた黒猫はスッと背筋を伸ばしながら答えた。
「我は魔王などではない。あれはただの方便。我は洋子殿の眷属であり、先日の事は洋子殿がやったまでの事」
しかし、ひとりの幼い女の子が黒猫の背中を撫でながら言った。
「魔王様、ありがとね。魔王様も洋子おばあちゃん好きなの?」
それを聞いた黒猫は、少し目を逸らしながら答えた。
「当然である。我は洋子殿の眷属。嫌いなわけがなかろう」
「あはは、そうなんだね魔王様。あたしも洋子おばあちゃん好き! いつも優しくて大好き!」
黒猫は女の子の言葉にハッとさせられた。
(洋子殿はいつも、誰にでもお優しい。我も洋子殿に見習い、そうするべきなのでは……)
黒猫は姿勢を正すと、女の子に言った。
「そうであったか。お主も我と同じく、洋子殿が好きなのであるな。それは素晴らしきこと」
黒猫がそう言って女の子を見上げた瞬間、
ガッ!
「あっ!」
なんと魔王エヴが片手で女の子の首を掴んで持ち上げた。
黒猫は即座に骸骨の姿になると、魔力のオーラを滾らせながら魔王エヴに言った。
「お主。その子を離さなければ、即刻命を奪うが良いか」
魔王エヴは黒猫の言葉に子どもを地面に降ろすと、不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「ほう。お主の魔力……、悪くない。私は魔王エヴ。本物の魔王だ。お前たちの会話は聞かせてもらった。お前は子どもたちに魔王と呼ばれていたな」
「その通り。それがどうした」
「と言うことは、お前が偽物の魔王か」
魔王エヴがそう言った瞬間、影に隠れていたインメリアが魔剣を抜き、骸骨姿の黒猫に斬りかかった。




