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その頃べべの村では、村に買い付けに来たマツリ子爵領の商人と、一緒に来ていたゲンゲゲロ公爵領の商人を哲夫が迎えて話をしていた。
「我がヨクヨ商会は、マツリ子爵領で販売されるべき回復薬が横流しされているとの情報を得たのですが、それは本当でしょうか」
それを聞いたマツリ子爵領の商人は目を泳がせながら答えた。
「あ、は、ははは! 横流しと伝わっていましたか! いえ、実は盗賊に奪われまして。ははは」
「ほう、そうでしたか。ちなみに、どの辺りで盗賊に? 今後の事もありますので」
「あ、ええと、ちょうど辺境伯領からマツリ子爵領の関所に続く一本道で襲われまして。あそこは逃げ場が無くて、ははは。命が助かっただけでも」
「それは、おかしいですね。それでは辺境伯の領内で襲われた事になります。しかし前回あなたは、辺境伯領から出る際に商品にかかる税金を納めていますね」
「なっ……。なぜ、私の税金の事が調べられるのでしょうか……」
「辺境伯様とは仲良くさせていただいておりますので」
「くっ!」
マツリ子爵領の商人が窮地に追い込まれると、突然ゲンゲゲロ侯爵領の商人が飛び出した。
そして隠し持っていた短剣を抜くと、一直線に哲夫の首を狙って短剣を突き出した。
キン!
しかしその瞬間、哲夫の前には黒猫が作り出した防御魔法陣が展開され、ゲンゲゲロの商人の短剣を防いだ。
それを見たマツリ子爵領の商人は走って逃げ出し、ゲンゲゲロ侯爵領の商人は素早く後退すると、荷馬車の荷台へと走り込んだ。
そして荷台から剣を持って戻ってくると、荷馬車から降りながら哲夫に言った。
「おれはゲンゲゲロ公爵家の兵士だ。お前はあの子爵領の商人が横流しをしているのを知っているようだな。生かしてはおけぬ」
しかし哲夫の後ろからゆっくりと骸骨姿の黒猫が現れると、その威圧的な殺気に気づいたゲンゲゲロの兵士は素早く剣を構えた。
そして兵士は哲夫を睨みつけると、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「ヨクヨ商会は魔物の用心棒を雇っていたとはな。だがヨクヨ商会ももうすぐ終わる。というよりも、この王国が終わるのだがな」
「な、なんですと!? それはどういう……」
哲夫が驚いて聞き返すと、ゲンゲゲロの兵士は少し得意げに答えた。
「今ごろガンデロ帝国とゲンゲゲロ侯爵が挟み撃ちで王宮を陥落させているだろう。最終兵器を使ってな」
「最終兵器……。それはまさか金属兵!?」
「おお、知っていたのか。ではやはり殺さなくてはならないな。その骸骨の魔物と共に斬り裂いてくれるわ! 死ね!!」
ゲンゲゲロの兵士は凄まじい闘気を放ちながら大きく踏み出した……、が、なんとそこにはバナナの皮があった。
ズデーン!
ゲンゲゲロの兵士は、すっ転んだ。
「ふぁっ!?」
ゲンゲゲロの兵士が何が起こったのか分からずいると、隠れていた大熊笹が素早く剣を持った腕を腕ひしぎ十字固めに持ち込んだ。
「はい、よいしょ」
「ぎゃぁぁああ!」
ゲンゲゲロの兵士はあまりの痛さに思わず剣を落とすと、そこへ嬉しそうにアカネがやって来てゲンゲゲロの兵士に言った。
「あちゃぁ、これは痛そうだねぇ。じゃあ、お見舞いにプレゼントをあげるね」
アカネはそう言うと、アイテム欄から「くさい排泄物」を選択してゲンゲゲロの兵士のおでこに落とした。
それを見たゲンゲゲロの兵士は目を見開いて驚きながら叫んだ。
「なっ! 何だこれは!? く、臭いっ!! ど、どけてくれ! どけてくれぇぇ!」
「いやぁ、そんなに喜ばれるなんて嬉しいよ。じゃあ、ご期待にお答えして、もう一つ。へへ」
ベチャ
「おぶぁぁぁぁあ! あ、ぁ、ぁぁ……」
ゲンゲゲロの兵士は失神した。
◆
その頃、王都の中心にある王宮はわずか5体の金属兵とガンデロ兵、そしてゲンゲゲロ侯爵の兵によって陥落していた。
王国騎士団は5体の金属兵に圧倒されて敗走し、国王を含む王族たちは王国騎士団と一緒に王都から逃げ出した。
その結果、ガンデロ帝国とゲンゲゲロ侯爵は一瞬にして王都を掌握し、国王と王族たちは一番近いラド公爵の領地へ避難するために向かっていた。
そして王都の人々や王都陥落の話を聞いた人々は一斉に避難を始め、ラド公爵領やその隣のマコ伯爵領へと向かい始めた。
しかし、ガンデロ帝国の兵とゲンゲゲロ公爵の兵は逃げてゆく人々を追うことはしなかった。
―― ガンデロ帝国 皇帝の間 ――
ガンデロ四世は、王都陥落の報告を側近の従者から受けていた。
「皇帝陛下、ただいま伝達鳥が戻りました。リムリテイル王国の王都は陥落。住民は避難を始めました。作戦は成功です。しかし……」
ガンデロ四世は報告を聞くと表情を変えずに聞き返した。
「しかし?」
「はい……。今回の作戦中に背後からの攻撃を避けるため、マツリ子爵とデウ子爵の方面にも金属兵を2体配置していたのですが……、そのうちの1体が破壊されて回収されました」
「なにっ!?」
ガンデロ四世は思わず前かがみになると、眼光鋭く側近の従者に尋ねた。
「わずか5体で王宮を陥落させる金属兵の1体がやられるとは尋常ではないはずだ。何があった」
「それが、白金級を超える特大の氷魔法の攻撃を受けたと……」
「白金級を超える魔法だと? 馬鹿な!」
ガンデロ四世は思わず立ち上がると、表情を険しくしながら少し考え込んだ。
そして玉座に座り直すと、側近の従者に指示を出した。
「王都への入植と周辺地域の占領を急げ。守りを固めろ」
「はっ」
「それで、リムリテイル王国の難民たちの動きは予想通りなのか?」
「はっ。王都の人間のみならず、周辺の街の人間も家を捨てて公爵と伯爵の領地へ向かっています。これだけの難民が出ればリムリテイル王国の経済も破綻するでしょう」
「そうか、予定通りだな。よかろう、下がれ」
「はっ!」
側近の従者は下がっていった。




