45
ヤクウィー辺境伯はコラナッカ男爵に迫った。
「今から王国裁判所に連行する! 王国への反乱罪となれば側近、従者たちと共に即刻死刑。それで良いのだな!?」
するとコラナッカ男爵は頭をうなだれて答えた。
「申し訳ございません。どうか、それだけはお許しを」
しかしヤクウィー辺境伯は矛を収めなかった。
「言葉だけで許されるのであれば、全ての人間は喜んで罪を犯すでしょう。あなたは王国裁判所に連行します」
それを聞いたコラナッカ男爵は歯をギリギリと鳴らすと突然走り出し、逃走を図った。
しかしなんと、従者たちがコラナッカ男爵を捕まえ、無理やり男爵をヤクウィー辺境伯の前に連れ戻した。
従者たちはコラナッカ男爵を押さえつけながら言った。
「男爵様、わからないのですか」
「我々は負けたのです」
「裁判で死刑になるよりも……」
「誇りと共に自決しましょう」
しかしコラナッカ男爵は暴れて従者を振りほどくと、言葉を詰まらせながら言った。
「わっ! わた、私は! 王国の男爵だ、だぞ! こ、こんな所で死ねるか!」
コラナッカが叫んだその瞬間、素早くラジジが飛び出してコラナッカ男爵の首を後ろから手刀で一閃した。
ドッ!
「うっ!」
そしてコラナッカ男爵を失神させると、その様子を見ていた従者たちは自決しようと意を決して刃物を取り出した。
しかし、ラジジは剣で一瞬にして従者たちの刃物を弾き飛ばすと、なんと片膝をついて従者たちに言った。
「皆様の忠誠心、大変痛み入りました。その忠誠心に答え、苦しまぬよう全員斬首いたします。ここへお並びください」
その言葉を聞いた従者たちはラジジの言葉に感謝して一礼し、静かに並んだ。
そして従者たちは並んで首を差し出すと、ラジジはヤクウィー辺境伯と目で合図を交わし、突然、従者たちの頭を叩いて回った。
ベシッ! ベシッ! ベシッ! ベシッ! ベシッ……
そして驚く従者たちに言った。
「お主たちの首は頂いた。そして、お主たちの身は辺境伯様が預かる。その代わり男爵は殺さん。異論があるものはいるか!?」
男爵の従者たちは、その言葉に涙を流しながら頭を下げた。
ラジジは確認するように振り返ると、ヤクウィー辺境伯も満足そうに頷いていた。
◆
その頃おじいさんたちはデウ子爵の案内で、邸宅の裏口から少し遠くにある森を望遠鏡で覗いていた。
デウ子爵はおじいさんたち全員に望遠鏡手渡すと、少し森の中を覗き込んでみんなに言った。
「居ました。あの大きな岩が見えますでしょうか。その少し横あたりです」
おじいさんは言われた通り大きな岩の横を望遠鏡で見てみると、銀色に輝く鎧が置いてあり、魔道士のような人物に首に縄をかけられた魔族のような者が手をかざしていた。
「あれは、魔法使いと鎧と……、捕まった悪魔でしょうか」
おじいさんがそう言うと、デウ子爵は怖がりながら答えた。
「は、はい。もう現れてから長いのですが、襲って来るでもなく、ただ、ああやっているのです」
「なるほど、それは気味が悪いですね……」
「わが領地とマツリ子爵の領地はゲンゲゲロ侯爵領と接しているのですが、あの森が境界なのです。話に聞くとマツリ子爵領のほうにもあのような鎧が……」
その時、一緒に来ていたクラクモも望遠鏡で森を覗いて鎧を見つけると、思わず驚いて声をあげた。
「あ! あれは、上司のレッサーデーモンさん!」
その言葉を聞いたおばあさんは思わずクラクモに尋ねた。
「あら。もしかして、あなたを利用してお金を持ってこさせた上司さんかしら?」
「はい。でもレッサーデーモンさんはガンデロ帝国に行ったと聞いたのですが……」
するとそれを聞いたデウ子爵が納得するように呟いた。
「なるほど。ガンデロ帝国に行ったはずの魔族が、ゲンゲゲロ侯爵の領地で何かをしている……。やはり、ガンデロ帝国とゲンゲゲロ侯爵は繋がっていたようですね」
デウ子爵がそう言ったその時、なんと上司のレッサーデーモンは気を失って倒れてしまった。
「あ!」
クラクモが思わず声をあげると、レッサーデーモンの首に縄をかけていた魔道士はレッサーデーモンを何度も蹴り始めた。
しかし何の反応もない様子を見ると、魔道士はため息を付いて置いてある鎧に手をかざした。
すると鎧の中が紫色に光り出し、それを見た魔道士は満足そうに笑うと、レッサーデーモンを置いて森の奥へと消えていった。
残されたレッサーデーモンを気遣ったクラクモはデウ子爵に申し出た。
「あの……。できれば上司を助けたいのですが……」
それを聞いたデウ子爵は少し顔を曇らせて答えた。
「今すぐには難しい。しかし話を聞くと、あの上司とやらは君を利用したようだが、それでも助けたいのだろうか」
「……そうですね。私は実は魔族の医者なのです。なので倒れている者がいれば助けたいのです」
クラクモの言葉を聞いたデウ子爵は心を動かされてクラクモに答えた。
「そうでしたか、あなたは医者だったのですね。どうりで私を……。少々お待ち下さい、番兵を下がらせるように言いますので」
しかしデウ子爵がそう言った瞬間、おばあさんが声をあげた。
「大変! あの鎧が動いたわよ!」
「「ええっ!?」」
おじいさんたちはおばあさんの言葉に驚いて望遠鏡を覗き込むと、剣を引き抜いた鎧が歩いて森から出てくるところだった。
そして、砦と森の間にある開けた平地に出てくると、それに気づいた番兵たちは角笛を鳴らして兵を集めた。




